オキナエビス2025年12月20日 15時10分53秒

いよいよ年も押し詰まってきました。
何だかんだ仕事が重なり、慌ただしい年の瀬です。
“心を亡くす”と書いて「忙」、“心が荒れる”と書いて「慌」。
まあ何にせよ、繁忙は心によくありません。

   ★

さて、先週末にハンズの地球研究室で、自分へのクリスマス・プレゼントとして3点、あるいは数え方によっては、2点の品を購入しました。

その1点目は巻貝の化石です。
貝の化石は、新生代のものが各地に産するので、木の葉石とともに化石採取の入門編として親しまれた方も多いでしょう。

でも、今回手にした化石は古いです。


約1億5千万年ないし2億年の昔、ジュラ紀の海に生きたオキナエビス類(オキナエビスは「オキナエビス科」に属する貝の総称)の化石です。

(Bathrotomaria 属の一種。マダガスカル産)

付属のラベルにあるとおり、オキナエビス類は、殻口から巻きの方向に沿って切れ込みのあるのが特徴で、英語では「スリット・シェル」と呼ぶそうです。


この化石も口縁部に大きな「欠け」がありますが、スリットに沿って破損が生じたためでしょう。

   ★

オキナエビスが名高いのは、何といってもそれが「生きた化石」だからです。
それまで化石種しか知られていなかったのが、1856年に生体がカリブ海で発見されたという、その後のシーラカンス発見騒動(1938年)のようなエピソードとともに、その存在は広く知られるようになりました。

でも、それは学術的に記載されたのがその年ということで、「オキナエビス」という和名自体は、江戸時代の武蔵石壽(むさしせきじゅ、1766-1861)が著した貝類図譜『目八譜』(1844)に、エビスガイ(オキナエビスとはまったく別のグループ)の老成したものとして、「翁戎(おきなえびす)」の名とともに図示されているのが最初だそうです。

またさらに古く、木村蒹葭堂(きむらけんかどう、1736-1802)は、1755年に著書『奇貝図譜』において、紀伊産のベニオキナエビスを「無名介」〔介は貝に同じ〕として図示していることを、荒俣宏さんの『水生無脊椎動物(世界動物博物図鑑 別巻2)』で知りました。もちろん「生きた化石」とは知る由もなかったでしょうが、日本では古くから採取され、その存在が認知されていたようです。

地球研究室で買った2点目は、そのベニオキナエビスの標本です。

(このスリットは呼吸に用いた水や排せつ物の排出用)

(種小名のhiraseiは、明治の貝類学研究者・平瀬與一郎に献名されたもの)

これを手にする気になったのは、たまたま化石種と現生種の両方がショーケースにあったため、特に興味をそそられたからです。したがって、私の中でこれは2点で1点です。


2つのオキナエビスを見比べて、何を思うか。
地球の歴史、生物の歴史、その末端に位置するヒトの歴史。
思うことは多々あります。でも、2つの貝殻がものを言えたら、お互いの姿を見て、さらに多くのことを語り合うかもしれませんね。

コメント

_ S.U ― 2025年12月21日 07時08分24秒

>「オキナエビス」という和名

私はなんとなく日本で最初に「オキナエビス」と命名されたものは琉球産(つまり日本本土から見ると渡来もの)のイメージだったのですが、これは、説明の流れでそういう誤解を持っていたみたいです。実際は、本土のどこ産のものだったのでしょうか。

_ 玉青 ― 2025年12月21日 09時37分07秒

オキナエビス類は、種によっても違うでしょうが、総じて房総以南のかなり広い範囲に分布するそうですから、江戸時代の人もたまさか接する機会はあったでしょう。ただ、生息域が50メートル以深の比較的深い海ですから、荒天後に漂着したり、まれに網にかかった貝殻を見るぐらいで、生体を見たことはなかったと思います。
記事本文でも書いたように、『奇貝図譜』記載のものは紀伊産だそうです。『目八譜』記載のものは未詳(未詳というのは私が調べていないだけで、目八譜に当れば記載があるかもしれません)。

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