宇宙科学戦争かるた(中編)2026年01月12日 11時13分12秒

仕事が始まった途端、記事の更新が止まりました。
そこにはそれだけの理由があるわけで、これが憂き世というものです。
まあずっと暇だったら、それはそれで憂きものと思いますが、でも早くそうなりたいなあ…と思う自分もいます。

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さて、カルタの続き。

このカルタは、そこに何か統一的なストーリーがあるとは思えず、各札も場当たり的に作られている気がしますが、それでもしげしげ見ているうちに、何となく漠然とした「世界観」があるように感じられます。

【宇宙人】

まずは「宇宙人」のイメージ。


宇宙人はとにかく地球人に敵対する存在で、その姿は不気味な「怪物」として描かれています。まさに忌むべき存在です。国際政治の緊張が、「攻め寄せる外敵」のイメージを増幅したことも否めません。

1枚だけ遠い「銀河系の星」から襲来した宇宙人がまじっていますが、それ以外は火星や金星、あるいは漠然と「遊星」からで、わりと近所から攻めてきます。特に火星は油断がならず、火星軍とは激しく戦っています。

こうした「宇宙人=太陽系内惑星人」という感覚は、17世紀の終わりに出たフォントネルの『世界の複数性についての対話』(※)以降、知識層を含む人々の心にあり続けたイメージだと思います。

特に火星人の存在は、19世紀後半に運河が「発見」されたことで、科学界公認の「事実」となり、それを科学自ら否定したあとも、H.G.ウェルズの『宇宙戦争』のイメージとともに、人々の心に強固に残存していたことが、このカルタの背景にはあります。

火星人や金星人のイメージが最終的に消えたのは、惑星探査機が飛んで、その実景を目にして以降――具体的には1970年代以降のことと思います。まさに百聞は一見にしかず、Seeing is believingです。

【宇宙探査】

次はロケットや人工天体のイメージ。


火星に向けてロケット弾を発射しているのは、火星軍との戦いの一環なのでしょう。サイドワインダーも武器っぽいです。ただ、宇宙人のイメージがひどく悪いのに対して、宇宙進出は総じて明るいイメージです。宇宙開発ブームの追い風も当然あったでしょうが、やっぱり進出する側は威勢が良く、される側は不安と敵意を抱くというのが通り相場だからでしょう。こうしたロケットや宇宙船のイメージは、すなわち未来のイメージでもありました。

【ロボット】


いかにもあか抜けないロボットですが、子細に見れば、自律型あり、操縦型あり、また人型あり、特殊重機型あり、いろいろなバリエーションが既に出ていることは注目に値します。と同時に、「未来人間」は頭脳と身体機能を機械で強化したサイボーグという予測もされています。

子供向けのカルタの作者が、ロボット工学やサイバネティクスに通じていたはずはないので、これは当時の社会が漠然と共有していたイメージだと思いますが、デザイン感覚は別として、なかなか核心をついた予測だと感じます。

(長くなったので、ここで記事を割って「後編」に続きます)

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(※)フォントネルについては、以前何回か記事にしました。

■天文趣味400年(そしてフォントネルのこと)
■フォントネル『世界の複数性についての対話』(1)
■フォントネル 『世界の複数性についての対話』 (2)

宇宙科学戦争かるた(後編)2026年01月12日 11時23分02秒

本日は2連投です。
他愛ないカルタにあまり拘泥する必要もないと思いますが、乗りかかった船なので、ここでこのカルタの素性についてメモしておきます。

ここで問題になるのは、文字情報が極端に少なくて、いつどこで作られたものか、皆目わからないことです。


目を皿のようにしても、唯一の手掛かりは、この丸に富印(マルトミと読むのだと思います)が発行元だということのみ。発行年や、マルトミがどこにある会社かは、どこにも表示がありません。これについては、強力な検索ツールである国会図書館のデジタルコレクションも無力でした。

ただし、マルトミのカルタは、検索するといろいろ出てきます。「もうすぐ学校かるた」、「ことばあそびメロディーかるた」、「お伽噺かるた」、「日本世界ナンバーワンかるた」、「スポーツかるた」、「幼稚園かるた」、「よい子のかるた」…等々。同社はどうやら子供向けのカルタ専業のメーカーだったようです。

【2026.2.1付記】 この「マルトミ」については、タカラトミーの前身の1つである「トミー(旧・富山玩具)」の系列会社である「富山商事」がカルタも扱っており、同社のことではないか…という有力情報が寄せられました。詳細は本記事に対するSii Taaさんのコメントをご参照ください。

で、同社の製品のひとつに以下のマークを見つけました(メルカリで売られていた品の画像の一部をお借りしています)。


STマークは「Safety Toy」の頭文字から来ており、業界団体である日本玩具協会が定めた玩具安全基準に適合する品として、1971年10月からその表示が始まったものです(『レジャー年鑑 1973-1974』(エコセン、1973)参照)。

「宇宙科学戦争かるた」にその表示がないということは、それ以前の品であることを示しており、これが「宇宙科学戦争かるた」の制作下限です。

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つづいて制作年代の上限を考える上で、気になる言葉をいくつか挙げてみます。


すなわち「ナパーム弾」、「大陸間(弾道)ミサイル」、「サイボーグ」。
その淵源はともかく、これらの言葉が一般の人々の口の端に上るようになった時期は、国会図書館のデジタルコレクションで初期の用例を見れば、ある程度推測がつきます。
調べてみると、ナパーム弾は1951年頃、大陸間ミサイルは1957年頃、そしてサイボーグは1960年頃から、一般向けの書籍や雑誌に登場しています。

「サイボーグ」の用例について、史料のスクリーンショットを貼っておきます。

(出典:法学書院編集部(編)『現代語辞典 : これだけは知っておきたい 1961年版』、法学書院、1960)

「サイボーグ」は、上掲書末尾の「追補Ⅱ」に記載されており、当時は文字通り出来立てほやほやの新語です。その後、急速に少年雑誌等でも目にするようになりました(サイボーグ009の連載開始は1964年だそうです)。私は不案内だったのですが、この語は当時の宇宙開発ブームの流れの中、人類が宇宙に進出する方途として語られていたようです。

このことから「宇宙科学戦争かるた」の制作上限は1960年であり、先の下限と合せて、ざっくり1960年代の品と見ていいと思います。

【おまけ】

ところで、今回、レトロな子供向けカルタについて調べていて、その残存数が極めて多いこと、しかも帯封つきの品がやたらとあることを不思議に思いました。昭和レトログッズには一定の需要があるはずですが、供給過多のせいか、この手のものは帯封付きの美品でもあまり値が付かない感じです。

その疑問は、以下の記事を拝見して氷解しました。

■(近代カルタ文化の研究 第6章 第2節)
 (1)戦後社会での「いろはかるた」の展開

なぜこれほど大量にカルタが残っているかといえば、もちろん大量に作られたからで、当時は全国の幼稚園や学校でカルタをまとめて買い上げて、子供たちにクリスマス・プレゼントやお年玉として配布していたという背景があったのでした。さらにその背後には、「カルタは毎年新しいものを買って遊ぶもの」という観念もあったようです。

私も当時の子ども文化の一端に触れたはずですが、残念ながらそうしたリアルな記憶はありません。でも、確かに凧は毎年新しいのを買っていたので、きっと同じような感覚だったのでしょう(羽子板は旧慣を守る家では今も毎年買い換えていると思います)。

カルタは、何といっても教育システムに組み込まれていましたから、その流通量は膨大で、カルタ専業メーカーという存在があり得たのもそのせいでしょう。
ただ、教育カルタなどというのはあまり面白いものではないので、配布されても手付かずのまま放置という場合も多く、それが店頭デッドストック品とともに市場に流れ、今や販売サイトには帯封付きの美品があふれている…というわけです。