月と舟 ― 2021年09月27日 20時24分04秒
真鍮製の、いわゆるメタルピクチャー・ボタン。
直径は38ミリで、ボタンとしては大型です。時代ははっきりしませんが、あてずっぽうで言うと、20世紀前半ぐらいでしょうか。原産国も不明ですが、売ってくれたのはアリゾナの人です。
夜空には月と星、その下の波立つ川面を金色のゴンドラが進んでいきます。
表現が稚拙な分、いかにも童画チックなかわいらしさがあります。
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「月夜のゴンドラ」が人の心を捉えるのは、もちろんそれがベネチアの風俗と相まって、ロマンチックな連想を呼ぶからでしょうが、さらにまた「月と舟」のシンボリズムが、そこに通奏低音のように響いているから…というのもあるかもしれません。すなわち、月は天上をゆく舟であり、舟は水に浮かぶ月である、というイメージです。
手元の『イメージシンボル事典』(大修館書店)を開くと、三日月は「眠りの小舟」だとあります。またキリスト教の異端、グノーシス派の説くところによれば、月は肉体を離れた魂を運ぶ天上の船だとも書かれています。いずれも出典が書かれてないので、どこまで普遍化できるかは分かりませんが、何といっても日本には、柿本人麻呂の秀歌があるので、月と舟の連想は、ごく自然なものに感じられます。
天の海に雲の波立ち月の舟 星の林に漕ぎ隠る見ゆ
まあ、あまり難しく考えなくても、三日月とゴンドラは、単純にその形状から似合いのペアですから、空と水に仲良く浮かんでいるのを見るだけで、気分が良いものです。
(Ida Rentoul Outhwaite (1888 - 1960) 作 "The Moonboat Fairy" 1926頃)
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