続・パロマー物語 ― 2023年05月13日 17時03分49秒
しばらくぼーっとしていました。
本を読むぞと宣言したわりに大して読めなかったし、というよりも本を読むと眠くなることに気が付きました。昔、年長の人がそう話すのを聞いて、そんなものかなあ…と思っていましたが、自分がその齢になってみると、これは一大真理ですね。もちろん興味のない本を読んでいるうちに、退屈して眠くなるのは分かるんですが、興味のある本でも眠くなるというのは意外な落とし穴で、残りの人生、もうあんまり本も読めないなあと思うと、ちょっぴり寂しいです。
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さて、ブログもぼちぼち再開です。
先日、プラネタリウム100周年の話題を書きましたが、今年は他に75周年の話題もあることを耳にしました。すなわち、パロマー山天文台の200インチ(5.1m)望遠鏡が、1948年にお披露目されて以来、今年で75歳を迎えるという話題です。
上は先日購入した、パロマ―山天文台を描いたおまけカード。
左はイギリスのリージェント石油の「Do You Know?」シリーズ(1965)、右はオーストラリアのサニタリウム・ヘルス・フード・カンパニーの「Wonder Book of General Knowledge」シリーズ(1950-51)に含まれるカードです。
200インチ望遠鏡(ヘール望遠鏡)は、アメリカ一国にとどまらず、文字通り世界のヒーローでしたから、あちこちでこういう「パロマーもの」が作られたわけです。
上は1948年8月30日に発行された記念切手を貼った初日カバー。
この日、まさに望遠鏡の鎮座するパロマー山で投函され、その日の消印が押された記念すべき品です。
ただ、望遠鏡自体の完成記念式典は、それよりもちょっと前の6月1日から行われたので、望遠鏡はあと20日足らずで75歳の誕生日を迎えることになります。
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「大宇宙を見通す目」というと、今ではジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がその象徴でしょうが、かつてその地位を占めたのがパロマー山のヘール望遠鏡です。しかもその地位は、1976年にソ連のBTA-6望遠鏡が口径世界一の記録を塗り替えるまで、30年近く盤石でしたから、パロマーに思い入れのある天文ファンは、複数世代にまたがっているはずで、もちろん私もその中に含まれます。
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自分が書いた記事に感動するというのも妙なものですが、私はパロマーと聞くと即座に16年前の記事を思い出し、読み返しては思いを新たにします。
■パロマー物語…クリスマス・イヴに寄せて
まあ、これは私が書いたといっても、地元に住むあるアメリカ人女性の文章の引用であり、彼女の記憶の中のパロマーが美しいからこそ感動するわけですが、それに感動できるということ――つまり私の中のパロマー像が彼女の記憶と共鳴するということ――それ自体、私にとっては嬉しいことです。
コメント
_ S.U ― 2023年05月14日 08時43分13秒
_ 玉青 ― 2023年05月14日 12時19分33秒
「ハッブルinパロマー」。HSTを知っている我々からすると、一層興味深いです。ハッブル博士が座っているのは「prime focus cage」とか、単に「observing cage」とかよばれるものだそうで、「observing cage palomar」で検索するといっぱい画像が出てきますが、こんなふうに筒先に陣取って観測するのは、ハーシェルの40フィート望遠鏡を彷彿とさせますね。なお、このケージは今も現役の模様ですが、上部を覆っていたベンツマークみたいなフレームは外しちゃったようです。
http://www.astrometrica.at/default.html?/Images/200310.html
ユーハン工業の思い出も素敵ですね。
まさにS.Uさんにとってのパロマー物語といったところでしょう。
聞き手)さて、天体観測用の赤道儀・経緯台とは何ですか?油圧ギヤポンプ等と何か関連はあるのですか?
友繁社長)全く関係がありません(笑)。
というやり取りも、好感度大です。(^J^)
インタビューの方は「半世紀ほど昔、創業者が京都大学様の天体望遠鏡を手掛けたことがあり…」と続きますが、これがS.Uさんの思い出につながる件でしょうか。同社はJAXAにも納品実績があるそうですから、案外今でもS.Uさんの身近にその影響は及んでいるかもしれませんね。
http://www.astrometrica.at/default.html?/Images/200310.html
ユーハン工業の思い出も素敵ですね。
まさにS.Uさんにとってのパロマー物語といったところでしょう。
聞き手)さて、天体観測用の赤道儀・経緯台とは何ですか?油圧ギヤポンプ等と何か関連はあるのですか?
友繁社長)全く関係がありません(笑)。
というやり取りも、好感度大です。(^J^)
インタビューの方は「半世紀ほど昔、創業者が京都大学様の天体望遠鏡を手掛けたことがあり…」と続きますが、これがS.Uさんの思い出につながる件でしょうか。同社はJAXAにも納品実績があるそうですから、案外今でもS.Uさんの身近にその影響は及んでいるかもしれませんね。
_ S.U ― 2023年05月15日 09時45分22秒
パロマー山ヘール望遠鏡の構造についてのご紹介ありがとうございます。"prime focus cage"というのは、カセグレン焦点だそうですので、筒の最後部に人が入るところがついているのですね。対象天体の高度が低くて鏡筒が傾くと横倒しになると思いますが、人間は大丈夫なのでしょうか。
天体写真集については、1959年版を初めて見た頃には、異国異世界の画像でしたが、1980年代になると、望遠レンズかシュミットカメラに冷却カメラをつけてこれに近い写真を撮っている国内のセミプロのアマチュアの方々も現れたので、比較的身近な技術延長線上と感じるようになりました。
ユーハン工業の当該望遠鏡について、ご関心をたまわりありがとうございます。これは、京大40cmシュミットカメラのことと思われます。
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/observatories/Ouda/intro.html
によりますと、1972年に京都府福知山市のユーハン工業の敷地を借りて観測所を建てそこで試験観測し、1977年に奈良県大宇陀町の観測所の移転したということです。だとしますと、まず、鏡筒が福知山市にやってきて、のちに全体が奈良県に出て行ったということになると思います。大宇陀には、1987年まであったそうですが、「『天文年鑑』表紙」の写真対応は、1970~80年代のバックナンバーが現在手元になく、ネットの古書の写真だけでは同種の架台は確認できませんでした。これは、私の勘違いで、年鑑内部か、天文ガイドかその別冊の勘違いだった可能性もありますので、この部分は保留とさせて下さい。友繁姓は、丹波地方(京都、兵庫)では珍しくはないのですが、これが「ユーハン」の社名になったというのは、この記事で昨日初めて知りました。ネットの情報はありがたいものです。
天体写真集については、1959年版を初めて見た頃には、異国異世界の画像でしたが、1980年代になると、望遠レンズかシュミットカメラに冷却カメラをつけてこれに近い写真を撮っている国内のセミプロのアマチュアの方々も現れたので、比較的身近な技術延長線上と感じるようになりました。
ユーハン工業の当該望遠鏡について、ご関心をたまわりありがとうございます。これは、京大40cmシュミットカメラのことと思われます。
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/observatories/Ouda/intro.html
によりますと、1972年に京都府福知山市のユーハン工業の敷地を借りて観測所を建てそこで試験観測し、1977年に奈良県大宇陀町の観測所の移転したということです。だとしますと、まず、鏡筒が福知山市にやってきて、のちに全体が奈良県に出て行ったということになると思います。大宇陀には、1987年まであったそうですが、「『天文年鑑』表紙」の写真対応は、1970~80年代のバックナンバーが現在手元になく、ネットの古書の写真だけでは同種の架台は確認できませんでした。これは、私の勘違いで、年鑑内部か、天文ガイドかその別冊の勘違いだった可能性もありますので、この部分は保留とさせて下さい。友繁姓は、丹波地方(京都、兵庫)では珍しくはないのですが、これが「ユーハン」の社名になったというのは、この記事で昨日初めて知りました。ネットの情報はありがたいものです。
_ S.U ― 2023年05月15日 10時30分41秒
訂正をいたします。
パロマー山の主焦点ケージは、やはり筒先ですね。
ニュートン式が主焦点で、副鏡サポート内にあり、副鏡が凸面鏡になっていて、カセグレン焦点が筒の底にあるということのようです。主焦点距離16.76m、カセグレン焦点81.3mだそうです。
https://sites.astro.caltech.edu/palomar/about/telescopes/hale.html
10000mmをはるかに超す長焦点で、網状星雲やオリオン大星雲の全体をとらえられているというのはすごいです。昨今の技術はやはり違うように感じます。
パロマー山の主焦点ケージは、やはり筒先ですね。
ニュートン式が主焦点で、副鏡サポート内にあり、副鏡が凸面鏡になっていて、カセグレン焦点が筒の底にあるということのようです。主焦点距離16.76m、カセグレン焦点81.3mだそうです。
https://sites.astro.caltech.edu/palomar/about/telescopes/hale.html
10000mmをはるかに超す長焦点で、網状星雲やオリオン大星雲の全体をとらえられているというのはすごいです。昨今の技術はやはり違うように感じます。
_ 玉青 ― 2023年05月16日 20時05分13秒
なるほど、「友繁=ユーハン」なんですね。そこに目が向いていませんでした。林と内藤を合わせて「リンナイ」的なネーミングですね。(笑)
ところで、同社の沿革には触れられてませんでしたが、初代社長である友繁四司二氏のお名前で検索したら、以下のような記事が出てきました(「天文月報」1966年11月号)。
■ペルー国に寄贈した太陽観測機について
https://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1966/pdf/19661204.pdf
同社と望遠鏡とのかかわりはこのあたりからでしょうか。納品先がペルーとは華のあるデビューですね。私は漠然と初代が天文好きだったので、趣味と実益を兼ねて架台づくりに仕事の手を広げたのかな…と想像してたんですが、どうも純粋に技術者としてこの計画に参画したらしく、そこに硬派なものを感じました。
ところで、同社の沿革には触れられてませんでしたが、初代社長である友繁四司二氏のお名前で検索したら、以下のような記事が出てきました(「天文月報」1966年11月号)。
■ペルー国に寄贈した太陽観測機について
https://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1966/pdf/19661204.pdf
同社と望遠鏡とのかかわりはこのあたりからでしょうか。納品先がペルーとは華のあるデビューですね。私は漠然と初代が天文好きだったので、趣味と実益を兼ねて架台づくりに仕事の手を広げたのかな…と想像してたんですが、どうも純粋に技術者としてこの計画に参画したらしく、そこに硬派なものを感じました。
_ S.U ― 2023年05月17日 08時43分38秒
ご紹介ありがとうございます。同社が京大向けの望遠鏡の架台を手がけた1960年代の前半からのようですから、その関連のようです。機械の構造や加重にこだわった記述で職人魂が感じられます。昨今のように、(ヘタに、)宇宙へのロマンや国際貢献に言及されていないのがいいです。
今さらながらに親しみが湧いてきます。これだったら、1970年代に、我々の天文同好会で見学・取材に行けばよかったと思います。京大観測所があった当時は、同好会は設立3~4年くらいでハクもなにもなく、私にはそんな度胸はとてもなかったのですが、今から思えば、同社の工場は同好会の発祥拠点である出身中学のすぐ近くで、同じ町内(自衛隊官舎)には設立メンバーも住んでいたので、近くを通ることもしばしばあり、頼めば気軽に見学させてくれたような気がします。
今さらながらに親しみが湧いてきます。これだったら、1970年代に、我々の天文同好会で見学・取材に行けばよかったと思います。京大観測所があった当時は、同好会は設立3~4年くらいでハクもなにもなく、私にはそんな度胸はとてもなかったのですが、今から思えば、同社の工場は同好会の発祥拠点である出身中学のすぐ近くで、同じ町内(自衛隊官舎)には設立メンバーも住んでいたので、近くを通ることもしばしばあり、頼めば気軽に見学させてくれたような気がします。
_ 玉青 ― 2023年05月18日 19時08分45秒
それは惜しいことをされましたね。でも、同好会の皆さんは当時と変わらず柔らかい心をお持ちのようにお見受けしますので、ぜひ半世紀前の気分で、同地で久しぶりの定例会を兼ねて、工場見学会を敢行するというのはいかがでしょうか?
_ S.U ― 2023年05月19日 08時42分03秒
ありがとうございます。そうですね。折りを見て地元のメンバーに相談してみます。
_ Linf ― 2023年05月20日 13時01分19秒
prime focus cage (chair)で検索すると、
Palomar 200-inchの主焦点ケージ内での観測体験録。
椅子は、手動。
(スリーポインティッド・スター型の構造物は、ケージ入退を補助する手すり)
https://www.cloudynights.com/topic/769663-what-classics-do-you-want-before-you-die/page-5
投稿者 jkmccarthy
ESO 3.6m 主焦点ケージ内の椅子。ケージ全体が回転する。
https://www.eso.org/sci/publications/messenger/archive/no.7-dec76/messenger-no7-3-4.pdf
計画図 主焦点ケージ内の椅子
https://adsabs.harvard.edu/full/1966IAUS...27..182L page-186
いずれも観測中に快適な姿勢を保てるようです。
1989年以来主焦点で長時間露出に伴うガイドが必要な写真乾板での撮影をしなくなったので、
観測機器の取り付け後、観測者はPalomar 200-inchのケージ内にとどまらない。
https://palomarskies.blogspot.com/2009/08/prime-time.html
Palomar 200-inchの主焦点ケージ内での観測体験録。
椅子は、手動。
(スリーポインティッド・スター型の構造物は、ケージ入退を補助する手すり)
https://www.cloudynights.com/topic/769663-what-classics-do-you-want-before-you-die/page-5
投稿者 jkmccarthy
ESO 3.6m 主焦点ケージ内の椅子。ケージ全体が回転する。
https://www.eso.org/sci/publications/messenger/archive/no.7-dec76/messenger-no7-3-4.pdf
計画図 主焦点ケージ内の椅子
https://adsabs.harvard.edu/full/1966IAUS...27..182L page-186
いずれも観測中に快適な姿勢を保てるようです。
1989年以来主焦点で長時間露出に伴うガイドが必要な写真乾板での撮影をしなくなったので、
観測機器の取り付け後、観測者はPalomar 200-inchのケージ内にとどまらない。
https://palomarskies.blogspot.com/2009/08/prime-time.html
_ 玉青 ― 2023年05月20日 19時15分02秒
これは痒いところに手が届く情報をありがとうございます。
なるほど、クイズタイムショックというか、バリウム検査というか、あんなふうに観測者がグルグル回ることは、昔もなかったわけですね(まあ、正確にガイドするなら当然かもしれませんが…)。今はその苦労もなくなり、75歳のパロマーは今も進化を続けながら第一線で活躍中であることを知り、頼もしい限りです。
なるほど、クイズタイムショックというか、バリウム検査というか、あんなふうに観測者がグルグル回ることは、昔もなかったわけですね(まあ、正確にガイドするなら当然かもしれませんが…)。今はその苦労もなくなり、75歳のパロマーは今も進化を続けながら第一線で活躍中であることを知り、頼もしい限りです。
_ S.U ― 2023年05月21日 07時07分00秒
Linf様、情報をありがとうございます。
観測中も中にいるのですね。観測の質を維持するためにそのような設備は必須だと理解いたしました。
観測中も中にいるのですね。観測の質を維持するためにそのような設備は必須だと理解いたしました。
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
http://ktymtskz.my.coocan.jp/S/space/tent0.htm
この場所に入るのが、プロパーな観測の一環なのかいまだに謎です。どうなんでしょうか。
この望遠鏡は、天体写真集や新彗星の観測にも使われたので、アマチュアにとっても有用で親しみ深いものでした。まだ75歳だそうですので、引き続き今後の活躍に期待したいです。
かつて、ご引用の、コーニング社の巨大な鏡が、地元の町を運ばれていったという記述は秀逸ですね。自分は2歳半で(たぶん記憶にはまったくなくて)単に両親といっしょにいた というのがさらにいいです。 何でかわかりませんが、独特の誇りのようなものが出ていていいです。
我田引水ですみませんが、私にも似たような記憶がありまして、高校を出る頃、故郷に望遠鏡の架台を作っているメーカーがあって、京都大学に納品されたニュースを知りました。天文年鑑の表紙に出ていました。具体的には何も知らない機械ですが、近くで作られて近くを運ばれて行っただけというで、独特の感覚でワクワクしました。
ネットはありがたいもので、今調べると、当時の事情がちょっとだけわかる資料が見つかりました。
http://www.u-han.co.jp/profile/pamphlet.pdf
https://www.pref.kyoto.jp/sangyo-sien/company/uhan.html