星と石2025年06月08日 18時49分31秒

徐々に通常の話題に戻していこうと思いますが、もう少し「和」の話題を続けます。

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星と石、天文学と鉱物学。

両者は高校地学の二枚看板で、星も石も両方好きだよという方もきっと多いでしょう。賢治もそうだったし、足穂もそうでした。知識の多寡を無視すれば、かくいう私だってその一人に加わる資格はあります。

そんな次第ですから、古本屋の目録で「星石」を名乗る人物を知ったとき、すかさず「いいね」と思い、その人の筆になる古びた短冊をそそくさと注文したのでした。


星石山人作、月下吹笛図。


川面に舟を浮かべ、無心に笛を吹く男。


その姿を眺め、その楽に耳を澄ますのはひとり月のみ―。

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この短冊をしたためたのは、宋星石(1867-1923)という人物です。
「そうせいせき」と聞くと、なんだか中国や朝鮮王朝の文人を想像しますけれど、まぎれもなく本朝の人で、鎌倉以来、対馬国を領した宗氏第36代当主、宋重望(しげもち)がその本名。

彼が宋氏の当主となったのは、既に時代が明治となってからですが、大名華族として伯爵に列せられた彼は、まあ普通に言えば「対馬の殿様」と呼ばれうる立場の人です。もちろん殿様だからエライ…ということはないんですが、後半生を文人画家・書家・篆刻家として、もっぱら風雅の道に生き、東京南画会会長も務めた彼は、そのことを以て偉いと称しても差し支えないでしょう。

彼が星石という号を用いた理由は寡聞にして知りません。
呉石とか琴石とか耕石とか、「○石」という号を名乗る人は多いので、星石もそのバリエーションに過ぎないといえばそうかもしれませんが、何にせよ星と石が仲良く同居しているのは素敵な字配りで、私も使いたいぐらいです。

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宋星石とは関係ないと思いますが、ネットを見ていたら、「星石」とは隕石の古い言い方の一つだと知って、そのことも素敵だと思いました。