閑語… I’ll see you in hell ! ― 2025年06月23日 21時59分03秒
日食の話題の途中ですが、ちょっと寄り道します。
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「地獄」というのは、どの文化圏でもたいてい地の底にあることになっています。したがって、その最大距離は足元から約6400km(=地球半径)で、それだけ掘り下げれば、早くも「地の底」に達します。
反対に地表から6400km上昇しても、月までの距離の38万kmに遠く及ばず、せいぜい中軌道の人工衛星ぐらいの高さにしかなりません。ましてや惑星や恒星は、まだまだ遥かに遠い存在です。
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距離を基準にした場合の、天上世界と地下世界のこうした極端な非対称性は、ギリシャ人には既知のことでした。
廣瀬匠氏の『天文の世界史』(インターナショナル新書)を参照すると、ギリシャ人は観察と推論にもとづき、月までの距離は地球の直径のおよそ30倍である…と正しい結論に達していました(少なくとも紀元2世紀の人であるプトレマイオスは、著書にそのことを記しています)。そして太陽は月よりもずっと大きく、ずっと遠くにあることも分かっていました。
古代インド人の場合、純粋思弁ではありますが、やはり似たような結論に達しています。
もののサイトによると、地獄の最下層にある「無間地獄」は、地上から4万由旬の距離にあるそうです。1由旬の解釈は諸説紛々としていますが、最短で約100メートだとか。これにしたがえば、無間地獄の位置は地下4000kmとなり、ちょうど現実の地球半径と同じオーダーになります。
一方、天界は遠いです。須弥山の山頂にあって、地上とは地続きの忉利天(とうりてん)にしても海抜8万由旬。さらに上層に浮かぶ「本当の天上世界」といえるのは、同じく16万由旬にある夜摩天(やまてん)からですが、これは天上世界のほんの「とば口」に過ぎず、その上に兜率天(とそつてん)、化楽天(けらくてん)、他化自在天(たけじざいてん)…と多くの「天」が積み重なり、最後は遥か無限のかなた、空間をも超越した無色界天に至るというのが、仏教の説く「天」だといいます(諸説あります)。
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いずれにしても地獄はすぐ近くにあるのに、天界の住人になるのは大変です。
裏返せば、人間世界は天国よりも地獄に一層近い様相を呈しており、眼前の事実を前にして、それを否定できる人は少ないでしょう。
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死後の世界としての地獄が本当にあるのかどうか、まあ無いのかもしれませんが、ネタニヤフやトランプという人を見ていると、人間が地獄という観念を必要とする理由がよく分ります。
トランプ氏あたりは、ひょっとして「地獄の沙汰も金次第」と高をくくっているかもしれませんが、現世でずるい商売をした悪徳商人には、彼ら専用の地獄が用意されているそうで、地獄もなかなか遺漏がないです。
(奈良国立博物館蔵・原家本『地獄草子』より。桝目をごまかした商人の堕ちる「函量所(かんりょうしょ)」)
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