昆虫宝石箱(後編)2011年10月16日 20時00分28秒

(昨日のつづき)

ラベルには1930年代の日付とベルギーの地名、それに「Coll. A. Fouassin」という文字が見えます(Coll.は、collectionの略?)。文字は手書きと印刷が混在しており、フアサン氏は、あらかじめ自分用のラベルを特注していたようです。
 

 

ただし、ラベルは箱の隅に2枚留められているだけて、個々の標本には付いていません。すくい網とか、叩き網とか、そんな方法で一網打尽にした虫たちを、名前調べは後回しにして、とりあえず標本に仕立てたのかもしれません。

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ここまで読んでこられた方は、「ランスハップから来たヴンダーな箱とは、実は箱よりも中身がヴンダーだったのだね」と思われるでしょう。実際、その中身は「70年余り前のベルギーの昆虫標本」という、なかなかディープな品です。

しかし、実はやっぱり箱そのものが一層ヴンダーなのでした。
それは箱の裏側に貼られた1枚のラベルから明らかになります。

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パリにあるヴンダーショップ、デロール好きの方にとっては、「バック街46番地(46, rue du Bac)」という地名が、耳に親しく感じられると思います。デロールは130年前の1881年から一貫してここに店を構え、現在に至るまで博物学の聖地として君臨してきたのですから、それも当然です。
 

しかし、この標本箱に貼られたラベルを見て、私はあっと驚きました。
デロールの住所が「モネ街23番地」になっている!

ここはデロールの初代、ジャン=バプティストが1831年に創業した場所で、3代目のエミールが現在地に移転するまで、半世紀にわたって商売を続けた縁故の地です。
つまり、この標本箱は、中身の標本からさらに半世紀以上遡る19世紀の品で、デロール初期の歴史を雄弁に物語る証人だったのです。

この品をランスハップブックさんのサイトで見た瞬間、「これは<絶対に>手に入れなければ!」と思い、お金のことは放念し、震えがちの手で電話をかけたのでした。
いささか病んでいる感じはありますが、それはともかく、これでデロールの生の歴史に、また一歩近づけたような気がしています。(だからどうした?という疑問は、ここではどうかグッと呑み込んでください。)