お伽の国の天文学者2017年08月27日 13時05分48秒

「お伽の国の天文学者」と聞くと、19世紀末に出た、ロリダン神父の『アストロノミー・ピットレスク』の表紙をすぐに思い出します。

(背景が自然主義)

この立派なフォリオサイズの本の表紙をかざる天文学者。


お伽チックな街の、お伽チックな塔から、星を眺める姿を描いていますが、もちろんすべては空想世界に属するイメージです。

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現代の我々は19世紀フランスと聞くと、何となくベルエポックなロマンを連想しますけれど、19世紀の人は19世紀の人で、「つまらない日常」を逃れるべく、よその時代に夢を託すことに必死で、その具体例がこの表紙絵なのだと思います。


19世紀末のフランス人にとって、アンシャン・レジームは既に遠い過去であり、ましてや中世ロマンの世界は、遠い遠い歴史の霧に包まれた世界です。
逆に、そういう遠い世界だからこそ、自由奔放な夢を託すことができたわけで、これは現代の日本人が、不思議な「戦国ロマン」を語るのとパラレルな話だと思います。

また、仮に中世の吟遊詩人の時代に遡ったところで、そこで語られるアーサー王の物語は、彼らよりさらに500年以上も昔のお話なのですから、結局どこまで行ってもきりのない、逃げ水のような話です。

現実逃避というのは、いつの世でも起こり得るものです。
このブログにしたって、その例に漏れません。むしろ、「現実以外の現実」を生み出せるところが、人間の特殊性でもあるのでしょう。


【おまけ】

(本書のタイトルページ)

この本は純然たる天文学入門書ですが、カトリックの聖アウグスチノ会と、カトリック系のデクレー=ド・ブルーヴェル出版が組んで発行したというのが、ちょっと変わっています。タイトルページには刊年の記載がありませんが、ネットでは1893年刊という情報を目にしました。

なお、この本は「ピットレスク(英語のピクチャレスク)」を謳っていますが、ビジュアル的には、ところどころ白黒の挿絵が載ってるだけなので、購入の際は一考あって然るべきだと、老婆心ながら付け加えたいと思います。(こういう「表紙倒れ」の天文古書はたくさんあります。)