生物学の授業1939(その2)2022年06月19日 16時07分32秒

今でいうところの中学2年生に進級した川崎浩君。

川崎君が在籍した学校名を探したのですが、それはどこにも書かれていませんでした。ウィキペディアによれば(↓)、旧制の7年制高校は台湾の台北高校を含めて9校のみで、わりとマイナーな存在のようです。創立はいずれも大正末から昭和の初めにかけてで、時代的にもかなり限定されます。


このうちのどこかに在籍した川崎君の生物学の勉学のあとを追ってみようと思うのですが、まず外形的なことを述べておくと、このノートは1学期が18回、2学期は16回、3学期は22回の合計56回分の講義録から成ります。(なお、当時の学期の区切りは今と違って、2学期の授業は6月26日から、3学期の授業は11月22日から始まっています。)

そして全ての回について、その都度ノートを先生に提出して添削を受け、ときには「も少し丁寧に書きなさい」と注意を受けたりしながらも、延々と川崎君はノートを書き継いでいきました。


その間に、Nの向きを間違えることもなくなったし、最初は「NOⅡ」(第2回講義の意)としか書かれてなかった冒頭部も、最後の方は「第十八回 第九章 第二課 下等生物の生殖(其の二)」とシステマティックに書くようになり、川崎君にも成長のあとが見られます。


(川崎君の悪筆は最後まで変わりませんが、レタリングは上手くなりました)

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授業は、1学期の最初の方は、

第1回 生物が生存する条件
第2回 生物と無生物、純正生物学と応用生物学
第3回 細胞
第4回 キュウリの種まき、植物の細胞観察、細胞の構造

…という具合に始まって、以下、細胞分裂、単細胞生物と多細胞生物、生物の栄養法、光合成、澱粉、下等動物の栄養法、昆虫の消化器、蝶の構造と観察、甲殻類と軟体動物、脊椎動物、哺乳類、(ここから2学期)寄生虫と寄生植物、生物の呼吸作用と循環作用、排せつ作用、蛙の解剖、植物の外皮、貝殻の真珠層、動植物の護身作用、(ここから3学期)保護色・警戒色・擬態、動物の移動運動、動物の感覚

…と続き、3学期の最後の方は

第15回 第9章 生殖 第1課 下等生物の生殖(其の一)
(アメーバ、バクテリア、ゾウリムシ)
第16回 同(ヒドラ)
第17回 同(菌類、スギゴケ、シダ)
第18回 第2課 下等生物の生殖(其の二)(つくし、とくさ)
第19回 同(サンショウモ、クラマゴケ)、第3課 顕花植物の生殖
第20回 第4課 下等動物の生殖(クラゲ、サナダムシ)
第21回 同(肝蛭、肝臓ジストマ、ミミズ、ヒル、回虫)
第22回 同(十二指腸虫、蟯虫、ウニ・ヒトデ、タコ・イカ・ハマグリ・アサリ・サザエ・ホラガイ)


…と、生殖作用に多くの時間をかけて、1年間の授業を締めくくっています。

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次回以降、ノートの中身を見ながら、当時の生物学の授業を振り返ってみようと思いますが、ここで次の疑問に答えておきます。

そもそもこのノートはどのように作成されたのか?

このノートには丁寧な彩色図がたくさん入っており、いろいろな図版の切り抜きも貼り込んであります。授業を聴きながら、そんな作業をする余裕があったはずはないし、「今日は○○について習った」という書きぶりから察するに、これは講義の最中に筆記したのではなくて(そういう本当の意味でのノートはまた別にあったはずです)、授業後に、今日習ったことをまとめた「復習ノート」なのでしょう。(それを先生に提出して、チェックしてもらっていたわけです。たくさんある科目のひとつに過ぎない生物学でも、それだけ時間をかけて学んでいたとなると、全体としては相当な学習量ですね。)

(応用生物学の例として挙がっている金魚の品種改良)

それともう1つ気になったのが、ノートに貼られた図です。
そこには学習雑誌の付録っぽいのもありますが、どうも教科書から切り抜いたとしか思えないものもあって、教科書を切り刻むというのは、今の感覚からすると違和感を覚えますが、それを先生も咎めていないところを見ると、少なくとも川崎君の学校では、既成の教科書よりも、自分の手でまとめた講義録に重きを置いていたような気がします。

(鳩の解剖図)

(この項つづく)