竹類標本のはなし2025年02月11日 16時03分58秒

竹類図譜の話題につづいて、「わが家に竹類図譜はないけれど、実物標本ならあるぞ」という話題を書こうと思いました。こんな折でもなければ、話題に上ることのない至極マイナーな品ですから、ちょうど良い機会だと思ったのです。

でも、それがあるはずの場所をいくら探しても見つからず、おかしいなあ…と首をかしげました。そしてしばらく考えてから、「あ、理科準備室か」と思い出しました。

「理科準備室」というのは、自室からあふれた理系古物をしまっておくためのスペースです。私の部屋が「理科室風書斎」なら、その予備スペースは「理科準備室」だろう…というわけですが、「室」といっても、別にそういう独立した部屋があるわけではありません。部屋に作りつけのクローゼットをそう呼んでいるだけのことです。

しかし、そこからモノを取り出すのは容易なことではありません。


人体模型のケースの奥が、普通の壁ではなく木製の扉になっているのが見えるでしょうか。これが即ち「理科準備室」の扉です。

この扉を開けるのがどれだけ大変か、それは部屋の主である私自身がよく知っています(昔は開ける方法がありましたが、今は人体模型のケースの前も横も、びっしりモノが並んでいるので、それをどかすことから始めなければなりません)。「遠くて近いは男女の仲、近くて遠いは田舎の道」と言いますが、この扉の向こうも、たしかに「近くて遠い」場所の典型で、そこに至る労力を考えたら、毎日電車に乗って通う職場の方が、自分にとってはよっぽど近いです。

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日本は竹の国ですから、竹ばかり集めた標本セットというのが、かつて理科教材として売られていました(今でもあるかもしれません)。


例えば、昭和13年(1938)発行の『理化学器械、博物学標本目録』(前川合名会社)を開いてみると、


植物学標本の通番83に「竹類標本…30種…ボール箱入」というのが見えます。その脇の数字は価格で、小型台紙(195×270mm)を使ったセットが3円60銭、その倍大の大型台紙(270×390mm)に貼付したセットが5円50銭となっています。このカタログが出た昭和13年(1938)は、小学校の先生の初任給が50円の時代なので、今だと1万5千円とか2万円ぐらいに相当するでしょう。

ちなみに、この「竹類標本」はタケ科植物のふつうの押し葉標本ですが、竹の幹というか茎というか、要するにいろいろな種類の竹筒を並べた「竹材標本」というのが別にあって、そちらは30種入りで15円と、一層高価なものでした。

(通番164~166を参照)

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「至極マイナーな品とはいえ、手元の標本はたしか明治期に遡るもので、島津製だったはず。となると、これは思いのほか貴重な品かもしれんぞ。何とかそれを取り出す方法はないだろうか?」…と「理科準備室」の扉をじっと凝視しているうちに、はたと気づきました。

(些細な話題で引っぱって恐縮ですが、この項つづく)