ガリレオの瞳2017年02月18日 14時46分01秒

先日、ガリレオ(Galileo Galilei、1564-1642)の誕生日が2月15日だというので、いくつか関連の記事を目にしました。

ただし、ガリレオはユリウス暦とグレゴリオ暦の端境期を生きた人で、誕生日の2月15日というのも、昔のユリウス暦のそれだそうです。今の暦に直すと、1564年2月25日が誕生日。いずれにしても、彼は今月で満453歳を迎えます。

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ガリレオの名を聞いて思い出したのが、下のカメラ。
1950年代前半に出た、イタリアのフェラーニア社製「エリオフレックス」。


これも「クラシック・カメラ」と言って言えないことはないのでしょうが、戦後の量産品ですから、わりとどこにでも転がっています。それでも、これを購入したのは、その出自がやっぱり天文古玩的な色彩を帯びているからです。


それは、このカメラが、ガリレオの名を負っていること。
レンズの脇には「オフィチーネ・ガリレオ(ガリレオ製作所)」の名が見えます。


オフィチーネ・ガリレオは、1862年にさかのぼるイタリアの老舗光学メーカー。
今では光学機器にとどまらず、光電子機器の製造も行なっています。

光学機器メーカーとしてはちょっと異色ですが、オフィチーネ・ガリレオの創設者は、二人の天文学者、アミーチ(Giovanni Battista Amici、1786-1863)と、ドナティ(Giovanni Battista Donati、1826-1873)で、さらに遡れば、1831年にアミーチが職人たちをモデナから呼び寄せ、フィレンツェ天文台の隣に光学機器製造の工房を設けたのが、その淵源だそうです。当然、その社名は尊敬する大先輩のガリレオにちなむものでしょう。

(19世紀の広告カードに描かれた、往時のオフィチーネ・ガリレオの建物。中央上部にガリレオの肖像。「オフィチーネ・ガリレオ創立150周年記念展」の案内ページより。

同社の光学製品は、明治の日本海軍にも納入されたそうですから、日本との縁も浅からぬものがあります。そして、その後も長く軍用品の製造に携わったのは、同社の技術力の高さを物語るもので、同社はイタリア国内のメラーテ天文台や、アジアーゴ天文台のような、プロユースの大型望遠鏡も手がけました。

(eBayで見かけた、オフィチーネ・ガリレオを舞台にした戦前の労働争議の図。ジブリの「紅の豚」的光景。歴史が長ければ、それだけいろいろなドラマがあるものです。)

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そんなわけで、この安手のカメラは(今では埃にまみれているとはいえ)「ガリレオの瞳」を持ち、その向うにイタリアの光学機器製造の歴史が仄見えるのです。


なお、冒頭、このカメラをフェラーニア社製と書きましたが、同社の本業はフィルムメーカーで、オフィチーネ・ガリレオ製のカメラに、自社の名前を入れて販売していた由。つまるところ、このカメラは、ボディも含めて全てオフィチーネ・ガリレオの工場で生まれたもののようです。


【参考リンク】

1)オフィチーネ・ガリレオについて
Museo Galileo「Scientific Itineraries in Tuscany(トスカーナ地方科学の旅)」より
 「オフィチーネ・ガリレオ」の項

2)フェラーニア社とガリレオ社について
クラシックカメラの物語「デザインのイタリアカメラ」