コペルニクスの肉声を求めて2021年08月21日 09時36分13秒

新型コロナというのは、最初の頃は「ああ怖いねえ」と言いながら、テレビのニュースで見るものだったと思います。少なくとも私はそうでした。でも、その後「リング」の貞子みたいに、コロナはテレビの「向こう」から「こちら側」に這い出してきて、日々のささやかな営みも、不穏な存在によって絶えず脅かされています。

とはいえ、不安と恐怖に圧倒されるばかりでなく、一方で日常をしっかり守ることも大事ですから、記事を続けます。

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語学の勉強を細々と続けています。
前々回の記事の画像には、コペルニクスの『天球の回転について』が写っていますが、もちろんコペルニクスを原書で読もうとたくらんでいるわけではありません。でも章題とか目次とか、部分的にでも読めたら嬉しいし、ドイツ語の本だったら児童書ぐらいは読めたらいいなと思っています。

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コペルニクスの『天球の回転について』は大部な本で、全6巻から成ります(…といっても本の体裁が全6冊というわけではなくて、現代風にいえば、これは「第1部~第6部」に相当し、本としては全体が1冊の本です)。

(1927年に仏のHermann社が出した『天球の回転について』1543年初版の複製本)

その原典を全訳したのが、高橋健一氏による『完訳・天球回転論』(みすず書房、2017)で、これは非常な労作と拝察しますが、残念ながら現在品切れで、古書価も相当なことになっていますから、私の手元にはありません。


私の手元にあるのは、同氏がそれ以前に出された『コペルニクス・天球回転論』(同、1993)です。これは全6巻のうちの総説的な第1巻を訳出し、解説を付したものです。まあ白状すれば、私はこの抄録版すらちっとも目を通していないのですが、その「まえがき」には大いに心を打たれました。

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そこにはこうあります(太字による強調は引用者)。

 コペルニクス研究に取り組み始めてから、かれこれ10年近くになる。本格的に取り組むようになったのは、九州大学教養部のゼミナールで『天球回転論』を読んだときからであった。学生はたった一人しかいなかった。この個人授業で、学生は日本語訳と英訳とを読み、私はラテン語原典に目を走らせていた。学生の熱心さがこちらにも乗り移り、時間を延長してゼミをするのが通例となった。こうしてテクストを精読するうちに、新しい日本語訳の必要性を痛感するようになった。

読んだ瞬間、うらやましい!と思いました。
何と濃密な時間がそこにはあったことでしょう。こういうことが最近の大学でもありうるのかは不明ですが、話に聞くオックスフォードやケンブリッジの「チューター制」を思わせる光景です。こういうのはコストカッターの手にかかると、真っ先に屠られてしまいますが、こういう環境からしか生まれない知的営為というのも確かにあるでしょう。現に高橋氏の訳業がこうしてあるわけで、またその薫陶を受けた有為な学生とは、現在早稲田で科学史を講じておられる加藤茂生氏です。

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にわかに表現しにくいですが、「こういう世界」に私は憧れます。
ひとりひとりの人間は、根無し草のように世界に漂っているのではなく、時代と国を超えて多くの人と結びついている…というのは、ある意味当然のことですが、そのことを本やモノを通じて実感したいというのが、これまで倦まず綴ってきたことです。

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コペルニクスの肉声が、かすかにでも聞き取れたら…と思いながら、今日もテキストを開きます。

コメント

_ S.U ― 2021年08月21日 13時37分39秒

こういう、にわかに表現できない世界、損得を度外視して興味のあることを自由に勉強するというか、そういう雰囲気に憧れる、というのは、私が大学3、4年生の時には、確かに大学内の研究室に存在し、これはすごい、さすが大学、いいなぁ、と思った記憶があります。ところが、それ以降は、世の中が変わったのか、私の受け止め方が変わったのか、それとも私の錯覚とか慣れに因るのか、わかりませんが、そういう感触も憧れも感じなくなったように思います。たぶん、両方で、客観的環境も自分の感性も消えてしまったのだと思います。

_ 玉青 ― 2021年08月22日 11時35分29秒

アカデミアの中に入ると、また見える光景も違ってくるのでしょうね。「来てみればさほどでもなし富士の山」というか、「学問は遠くに在りて思うもの」というか。でも、近年の大学の実質的な環境変化は、それ以上に大きいのかなあ…と外からは感じています。その基本構図は国全体が「貧すれば鈍す」に陥っていることと思いますが、それ以外にも、人々の時間感覚が加速して(処理すべき情報が多いからでしょう)、視野が極度に短スパンになっていることも影響しているかもしれませんね。

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