ガラスの星空2021年08月25日 07時16分24秒

昼はツクツクボウシの声を聞き、夜はコオロギの声を聞く。
暦はすでに秋を迎え、実感としても秋近しですね。これでコロナが収束してくれれば、言うことはないのですが、こちらの方はとてもそんな長閑な話ではなさそうです。
とはいえ、気分だけでもちょっと涼しげな品を載せます。

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14cm×15cmという、わずかに横長の箱。
パカッとふたを開けると、


中にこういうものが入っています。


そこに書かれた文字は、「COELUX Das kleine Schulplanetarium」――「コールクス 小さな学校用プラネタリウム」。うーむ、なんとも素敵な名前ですね。「Coelux」という商品名は、たぶんラテン語の「宇宙 Coelestis」と「光 Lux」をくっつけた造語でしょう。

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これが何かといえば、要は幻灯機で拡大して眺めるガラス製の星座早見盤です。
いかにプラネタリウム大国のドイツとはいえ、全国津々浦々の学校でプラネタリウムを演示するのは無理ですから、こういう愛らしい工夫が求められたのでしょう。

メーカーはシュトゥットガルトにあったテオドア・ベンツィンガー幻灯社(Theodor Benzinger Lichtbilderverlag)で、考案者はクルト・フランケンバーガー(Kurt Frankenberger)という人です。

フランケンバーガー氏は伝未詳ですが、ベンツィンガー社の方は、ネット情報によれば20世紀初頭から半ばにかけて営業していた会社のようです(参考LINK)。よく見ると「D.R.P angem.」とも書かれていて、これは「ドイツ帝国特許出願中 Deutsches Reichtspatent angemeldet」の意味ですから、1945年以前の品であることは確実で、全体の雰囲気としては1930年代頃のものと思います。


裏返すと、これが星座早見盤であることがよく分かります。使い方も全く同じです。


光にかざすとこんな感じ。実際にはこれが何倍にも拡大されて、教室の壁に投影されたわけです。そして盤をくるくる回しながら、先生が星空の説明をするのを、生徒たちがじっと見守った…そんな光景がありありと目に浮かびます。

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同工の品としては、以前フィリップス社の幻灯早見盤を採り上げました。


今回の品はそれに続く2例目で、これは相当珍品だろうと思いましたが、例のグリムウッド氏の星座早見盤ガイド(LINK)を見たらあっさり載っていて、先達はやはり敬すべきものです。

(ただし、グリムウッド氏が製造年代を「1950年頃」としているのは、上に書いたような理由で若干訂正が必要と思います。)

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下界の憂いをよそに、まもなくガラスのように澄んだ空に、秋の星座が静かに光りはじめます。