博物趣味は書棚から ― 2011年01月05日 19時47分49秒
(昨日の続き)
Black-poolで目を引かれたのは、古い図鑑からとった1枚の絵でした。
『エルンスト・ホフマン博士のヨーロッパ産の蝶と蛾の幼虫図鑑』(1893)という、名前からして博物趣味の香気がほとばしる1冊。
Black-poolで目を引かれたのは、古い図鑑からとった1枚の絵でした。
『エルンスト・ホフマン博士のヨーロッパ産の蝶と蛾の幼虫図鑑』(1893)という、名前からして博物趣味の香気がほとばしる1冊。
★
荒俣宏氏いうところの「大博物学時代」は過ぎ去ったといえ、19世紀の第3、そして第4四半期に入ってからもなお、市民の博物趣味は盛んで、いろいろと博物学関連の本の刊行が続いていました。むしろ多色石版の流行によって、カラー図版の大量印刷が可能になったぶん、出版点数は前代をはるかにしのぐものがあります。
古い理科室の空気が好きな人は、古い博物画にも魅力を感じるのではないかと勝手に思っていますが、そういう人がフッと手に取りたくなる本、そしてまた実際入手が容易な本といえば、この時代の動物・植物・鉱物学関係の本ということになります。
それらの中には、小粒ながらもピリッとした本、見事な宝石のような―あるいはそこまで言わなくても、きれいなジェムストーンのような―愛すべき本がたくさんあります。
★
そうした本を日本語で丁寧に紹介している、貴重なオンライン書店があります。
その名は「胡蝶書坊」。
上記のBlack-poolの画像も、胡蝶書坊から転載されたものでした。
■胡蝶書坊トップページ
http://butterflybooks.jp/
■『エルンスト・ホフマン博士のヨーロッパ産の蝶と蛾の幼虫図鑑』
http://butterflybooks.jp/modules/items/index.php?content_id=420
経営者は日本の方ですが、なぜか台湾にある不思議なお店。
以下、お店の紹介ページから抜粋させていただきます。
「こどもの頃、博物館や美術館に連れて行ってもらった記憶。
珍しいもの、美しいもの、不思議なものを初めて目の当たりにして心躍り、その感覚をなんとかかたちあるものにして家に持ち帰りたい、と思ったこと。
そんな思いをとげるためにしたことは、展示会場を出てすぐ、ミュージアムショップで絵はがき一枚を買ってもらうことであったかも知れませんし、あるいは次の日、画用紙を取り出してその感激を描きとどめておこうとしたことかも知れません。
そんな心躍る感覚をこの小さな書店からお届けしたい・・・・
一冊の本との出会いが切実なものであって欲しい、と思います。」
自分の手元に美しい経験のかけらを置きたい―。
記憶やイメージだけで満ち足りるという人もいるでしょう。他方、何か形あるモノにこだわりたいという人もいて、私もその1人です。ですから、この感覚はとてもよく分かる気がします。
★
店主である小原氏のブログも拝読しました。で、ちょっと驚いたのが下の一文。
「胡蝶書坊で販売している本はどこでも買える。インターネットがこれだけ発達して、アメリカ、イギリスはもちろん、ドイツ語圏、北欧諸国、チェコ、など海外主要国の古書の情報は多少の外国語の煩わしさをいとわないならば、誰でも入手できる。〔…〕それでもなおかつ僕の本屋が存在していく意義はあるのだろうか?存在していく意義があるためにはどういう本屋にならないといけないだろうか?」
これは事実そうだろうと思いますが、店主の立場でこうズバリ書かれる方は少ないのではないでしょうか。誠実な商いをされている方だなと思いました。
★
ホフマン博士の幼虫図鑑は、胡蝶書坊の「売れて行った本」というページに載っていて、今はもう同店にもない本です。美しい本だけに、なおさらはかなさを感じます。
で、上の文章を読んだ後で何ですが、この図鑑に心を奪われた私は、どうしてもそうしないといけないような気がして、そそくさとそれを他の書店に発注したのでした。
蝶や蛾の研究者でもなければ、愛好家ですらないのに、なんだか愚かしい行為だと思われるかもしれません。その通り、実際愚かしいのです。理科室趣味とか、天文古玩趣味というのが、そもそも愚かしい行為なのです(たぶん)。そして、だからこそ、愛すべき雅味がそこにはあるのです(たぶん…)。
★
この本のことはまた届いてから話題にしようと思います。
【2月5日付記】 文中、「書房」を「書坊」に訂正。失礼しました。
最近のコメント