羊飼ひもすなる日時計といふものを…2024年12月15日 11時40分18秒

日時計といえば、最近こんな日時計を見つけました。

(頂部のつまみを含む全高は約24cm)

ロンドンのブルックブレイ社(Brookbrae Ltd)から1976年に出たものです。

てっぺんから横に突き出た真鍮製の「時針」が作る影で時刻を読み取るタイプの日時計で、その形状から「柱状日時計(Pillar sundial)」とか、「円筒形日時計(Cylinder sundial)」と呼ばれるものです。あるいは 「羊飼いの日時計(Shepherd's dial)」の別名もあって、これはピレネー山脈の羊飼いが、こういう形式の日時計をわりと近年まで常用していたことに由来するそうです。

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柱状日時計は。言うまでもなく日の出から日没まで、太陽の日周運動に応じて、影の長さと位置が規則的に変化することを利用しているわけですが、太陽の高度は季節によっても変わるし、緯度によっても変わります。

前者に対応するため、柱状日時計は時針の付いたパーツが可動式になっており、これをクルクル回して、その日の日付けに合わせて使います。


この日時計も、てっぺんが蓋になっていて、取り外すことも、かぶせた状態で回すこともできます。


日付け合わせは、本体下部の月名をたよりに行います(ここに見える「A M J J」は、April、May、June、Julyの意味)。厳密は期しがたいですが、まあ大体合ってれば用は足ります。

一方、後者の問題はにわかに解決することが難しく、個々の柱状日時計は、基本的に特定の緯度でしか使えません。この日時計はイギリス製なので、北緯41度用に作られています。

柱状日時計の便利なところは、普通の日時計のように盤面を南北に合わせる手間が不要なことで、その辺にポンと立てて、本体に影が落ちさえすれば、時刻を読み取ることができます。

そのための工夫として、同一時刻に落ちる影の先端の位置(それは日時計の置かれた向きによって変化します)を結んだ曲線(時刻線)が、あらかじめ本体に描かれているわけです。

(ゆるやかなカーブを描く時刻線)

この日時計には、いちばん下から午後1時、正午&午後2時、…、午前8時&午後6時、午前7時まで、計7本の時刻線が描かれています。まあこれも厳密は期しがたく、大体の時刻が読み取れるだけですが、羊飼いならばそれで十分なのでしょう。

なお、いちばん下の曲線は、太陽がいちばん高く昇り、影がいちばん(鉛直方向に)伸びる時刻ですから、本来「正午」の時刻線のはずです。私も一瞬「?」と思いましたが、これはサマータイム表示だからで、箱裏の説明書には「冬期には表示時刻から1時間引くこと」とちゃんと書かれています。


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(外箱のイラスト)

この日時計は、蓋をとれば筆立てにもなるという便利グッズですが、製造元のブルックブレイ社は、1973年から2016年まで営業していた日時計専業メーカーで、グリニッジの「ミレニアム日時計」を据え付けたのも同社だそうです。したがって、この品も単なるアクセサリーやお土産用というよりも、「まじめな」日時計なんだと思います。

(”Millennium Sundial”, Park Vista, Greenwich. Constructed by Brookbrae Ltd & Christopher Daniel (1933–2022). © Andy Smith / Art UK. 出典:https://artuk.org/discover/artists/brookbrae-ltd-active-19732016


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【参考】 「羊飼いの日時計」については、以下に非常に詳しい説明がありました。ヨーロッパ天文教育連合(European Association for Astronomy Education;EAAE)のサイトに掲載されたものです。

■Simón García("EAAE Summerschools" Working Group)
 The Pyrenean Shepherds' dials

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