ちょっと昔の化石趣味(2)2011年02月16日 19時53分20秒

半世紀余り前、多くの少年少女が楽しんだ化石採集行に、われわれも同行することにしましょう。

まずは服装から。
基本的に動きやすく、けがのないような服装を…というのは昔も今も同じでしょうが、ちょっと時代を感じるのは足元。履物は地下足袋が推奨されています。そして、しっかりゲートルを巻かねばなりません。で、リュックを背負い、帽子をかぶれば、当時の化石少年の仲間入りです。


リュックの中には何を入れるか。弁当、雨具、セーター、水筒、「そのほかに、キャラメルやリンゴのことは、みなさんのほうがくわしいから、おまかせしよう」。(←本書はこういう過剰にフレンドリーな文体が目に付きます。) それに、もちろん採集道具である、ハンマー、たがね、新聞紙、採集袋、ノート、地図、筆記用具も忘れずに。

「これで弁慶と同じように、7つ道具がそろったわけである。しかし、このほかに、物さしや三角定規や虫めがねがあれば便利だし、写真機や、地層のかたむきぐあいや地層ののびの方向をしらべる傾斜儀(クリノメーターともいう)があればすばらしい。〔…〕しかし、“弘法は筆をえらばず”ということわざもあることだし、道具をそろえることばかり考えずに、まず、化石採集にいくことにしよう。かなづち(それもなければ、つるはし)・古新聞・自分でつくったノート、それに、お母さんにつくっていただいた大きなおにぎりをふろしきにつつんで、桃太郎さんのように腰にさげて、いさんで家をでかけよう!」


いよいよ、化石を探しに出かけるわけですが、さて、どこに行けばよいのか?
今ならネットで調べたり、化石のガイドブックに頼るのが普通でしょう。もちろん、当時もそういうツールがなかったわけではありません。
この本でもあとでのべるような、地学関係の本や地図(これを地質図という)をしらべて〔…〕化石を見つけるのも1つの方法である

しかし…と文は続きます。
しかし、みなさんは、まず先生や大学のお兄さんや村の人に産地を聞いて、そこで化石をとることからはじめるのがよいと思う

そう、何でも分からないことは人に聞くというのが当時のセオリーでした。
そのつぎには、その地方の人たち、とくに岩や土をよくあつかっている、土木工事の労働者・農家の人たちなど〔…〕また、町や村の老人・物しり・学校の先生に教えていただくことも大切である

この“何でも聞いてみよう”という姿勢は、驚くほど徹底していて、
石垣や墓石にも注意すること。石垣や墓石を注意して見ると、化石がはいっていることがある。もし、そのようなものがあったら、石垣の家やお墓のもち主の家をたずねて、その石をどこからとってきたかをききだしてしらべればよい
というのですが、今ではちょっと考えにくい行動ですね。

何だか余分な引用ばかりで、なかなか化石にたどり着けませんが、面白いので、もう少し続けます。

(この項つづく)

コメント

_ S.U ― 2011年02月16日 23時07分13秒

うーん。いつの時代のどこの国?、という感じですね。ある意味で私にはショッキングです。こんなに科学の普及に熱心だった時代がずっと以前にあって、それが一旦すたれてしまったのだとすると。現代は、また自然観察ガイドのようなことが盛り返しつつあるのだとは思いますが、...期待をしつつ続きを...

_ 玉青 ― 2011年02月17日 22時00分56秒

これまでS.Uさんの理科少年ばなしを聞いて、私はショックを受けることが多かったのですが、そのS.Uさんにも遠い国の話のように思えるとなると、こういう化石少年風俗は、戦後一時期の仇花というか、ごくごく短命だったんでしょうか…。理科少年史を考える上では、まさに示準化石的体験かもしれませんね。

_ S.U ― 2011年02月18日 18時38分55秒

>示準化石的
 どうなんでしょうねぇ。私が憶えている限りは、大学生のお兄さん、お姉さんが化石探しに連れてってくれるという話はついぞ聞きませんでした。
 私の故郷の丹波地方は化石産地なのですが、大学の地学科がなかったせいか、田舎にいる私まで情報が届かなかったのか、どちらかなのでしょう。当時から、小学生が化石を見つけただの、という話はありましたね。化石ではないですが、石器探しはしたことがあるように思います。

>かなづち(それもなければ、つるはし)
 これ、おかしいです。金槌のない家につるはしがあるものでしょうか。

_ 玉青 ― 2011年02月18日 21時35分10秒

化石は昆虫とは違って、どこでも採れるというものではないので、場所も選ぶし、適切な指導者も必要なのでしょうね。岩石の露頭すら見られない土地で育った人間には、とても縁遠い趣味でした。

>金槌のない家につるはしがあるものでしょうか。

あはは、本当ですね。
星一徹が振り回しているようなものを、小学生が担いで遠出をするというのも変です。
たぶん、ここでいう「つるはし」は、下のような形状のものだと想像します。
http://www5.ocn.ne.jp/~bakin/page_thumb4.html
リンク先では「手鍬」と呼んでいますが、農具というか、雑工具というか、昔はわりと納屋の隅に転がっていた道具のような気がします。家によっては金づちの方が貴重品で、「コラ、大事な槌を持ち出すんじゃない!」と止められた子供が、仕方なしにこういう道具に頼ったんじゃないでしょうか。

_ S.U ― 2011年02月19日 07時27分49秒

>「手鍬」
 あぁなるほど。これだったらあったかもしれません。石を割るには少しやわそうですが、小学生が使う金槌の代用ですからこれでいいですね。
 私の家には農具と工具は一通りありましたが、星一徹のつるはしはありませんでした。スコップで地面に穴を掘るのはしんどいので、つるはしがほしいとよく思ったものです。

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