手のひらの異界2014年03月05日 22時52分34秒

「小さいもの」といえば、今週末から桑原弘明氏のスコープ作品の展示が始まります。


■ART GALLERY X at Takashimaya
 〇会期 2014年3月7日(金)~9日(日)
       7日(11:00~21:00)、8日(11:00~20:00)、9日(10:30~17:00)
 〇会場 東京国際フォーラム(ガラス棟地下2階、展示ホール1,2/出展ブースR12)
       東京都千代田区丸の内3-5-1 (最寄駅 JR有楽町)
 〇WEB http://artfairtokyo.com/gallery/8188.html

同展は「アートフェア東京2014」の参加企画。
「アートフェア東京」というのは、数多の画廊・ギャラリーが集い、あらゆるジャンルの美術品を展示・販売する、日本最大のアートフェアだそうで、そういう世界に縁が薄いので想像するしかありませんが、おそらくファインアート界のコミケのような催しではないでしょうか。

   ★

(『スコープ 桑原弘明作品集』、平凡社、2009)

手のひら大の箱をそっと覗くと、その筒先の向こうにどこまでも広がる異世界。
上の本の帯には「ミクロのシュルレアリスム」とありますが、ある意味、桑原氏の作品はこれ以上ないというぐらい徹底したリアリズムに貫かれています。古びた室内、壮麗な礼拝堂、あるいは無人の天文台。いずれも作り物などではなく、現実にある光景を垣間見ているのだとしか思えません。確かにその空間全体は隠喩に満ち、謎めいたシュールさを漂わせています。が、ここで何よりもシュールなのは、そうした世界を生み出す桑原氏の魔術めいた手業そのものでしょう。

   ★

私が桑原氏の作品を拝見して興味深く思うのは、モチーフに顕微鏡や双眼鏡、望遠鏡が繰り返し登場することです。スコープ作品そのものが「覗き見る」ものであるわけですが、その向こうに更に「覗き見る」道具が存在する…というのが、実に不思議な感じがします。さらに光学機器とともに、鏡や窓も頻出するモチーフで、桑原氏にとって「見る」とは、すなわち「覗き見る」ことであり、これは氏の体験様式に深く根ざしているのではないかという気がします。ただ、こういうことは簡単に分かった気になってはいけないので、これからも作品と向き合うたびに考えていきたいと思います。

   ★

今回の展示にも望遠鏡をモチーフにした作品が2点登場する由。

(桑原弘明氏提供)

宇宙をじかに覗き込む不思議な小部屋に置かれた望遠鏡。
その外観からグレゴリー式反射望遠鏡だと即座に分かりますが、この真鍮を削り込んで作った精巧な望遠鏡が、わずか指先ほどのサイズだと信じられますか?

その作品が美しければ美しいほど、いっそう魔術的造形の感を深くします。

コメント

_ 蛍以下 ― 2014年03月06日 15時50分26秒

まるで足穂の部屋みたいですね。
こういう部屋なら一生幽閉されてもいいと思います。本とネットと酒と食事さえ与えてもらえれば・・・

_ 玉青 ― 2014年03月06日 22時55分01秒

それはむしろ贅沢の極みかもしれませんね。
あるいは、贅沢とは獄につながれるようなものであるのかも…。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック