天文古書に見る不易流行…19世紀から20世紀へ ― 2020年12月30日 07時46分45秒
久しぶりにちゃんとした天文古書の話題。
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アレクサンダー・キース・ジョンストン(Alexander Keith Johnston、1804–1871)という、エジンバラ生まれの地図製作者がいます。Wikipediaによる解説は以下。
彼は若いころ彫版技術を学んだ一方、経営の才にも恵まれ、兄のWilliamと地図専門の「W. and A. K. Johnston」社を起こすと、子供向けから一般向けまで多種多様な地図帳を発行し、19世紀のイギリスを代表する地図メーカーとして、同社は大いに繁盛しました(企業体としてのジョンストン社は、1960年代まで存続したそうです→LINK)。
天文学者のジョン・ラッセル・ハインド(1823-1895)の監修を仰ぎつつ、ジョンストンが自分名義で出したのが、先日冬至の話題のときにチラッと顔を出した以下の本です。
■A. Keith Johnston(著)
『A School Atlas of Astronomy』(『天文学習帳』と仮に訳しておきます)
William Blackwood & sons(Edinburgh)、1855
『A School Atlas of Astronomy』(『天文学習帳』と仮に訳しておきます)
William Blackwood & sons(Edinburgh)、1855
(画像再掲)
この図を見て、パッとお分かりになった方もいると思いますが、あれは天文古書の世界ではメジャーな以下の本にも登場する図です。
■Thomas Heath(著)
『The Twentieth Century Atlas of Popular Astronomy』
『The Twentieth Century Atlas of Popular Astronomy』
(同じく仮訳 『20世紀天文百科』)
W. and A. K. Johnston(Edinburgh)、1903
W. and A. K. Johnston(Edinburgh)、1903
最初は老舗のブラックウッド社に販売を任せていたのを、後に自社の出版物とし、さらに時代の変化に応えるため、新たにエジンバラ天文台にいたトーマス・ヒース(1850-1926)を著者に立てて(というか、ジョンストンは既に30年近く前に亡くなっています)、出版したのが、後者の『20世紀天文百科』です。
(左:『天文学習帳』、右:『20世紀天文百科(第3版、1922)』)
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元々同じ本なので当たり前ですが、両者の中身はよく似ています。70年の時を超えて、まったく同じ版を使った、まったく同じ図が何枚も含まれているのですから、その本としての寿命の長さに驚きます。でも、さすがに何から何まで同じとはいきません。
たとえば惑星の図。
(1855年)
(1922年)
確かに似ている。けれども違う…。観測技術の進歩で、惑星表面の描写がより精細になっています。こんな風に2冊の本を左右に並べて、同時にめくっていくと、この間の天文学の変遷が、まるでステレオグラムのように「時間立体視」できる面白さがあります。
でも、火星なんかはどうでしょうね。
(1855年)
(1922年)
最新の観測成果として「運河」が登場していますが、さらに100年経った現代の目で見ると、むしろ1855年の『天文学習帳』の方がリアルに感じられます。学問の進歩も直線的には進まず、いろいろ回り道をしながら進むことも同時に実感されます。
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あるいは下の図はどうでしょう。
(1855年)
(1922年)
これなんかは同じ図と言ってもいいですが、左上を見ると、地球の公転運動によって、観測する季節に応じて恒星の位置がずれて見える「光行差(こうこうさ)」の説明図が差し変わっています。
さすがに20世紀にはそぐわない図だったのでしょう。
でも、光行差の現象も、その原理も不変だし、この説明図の妥当性もゆるがないのに、単に風俗が変わっただけで差し替えるというのも、考えてみれば可笑しな話です。
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星の世界は変わらねど、人の世は絶えず移り変わっていきます。
裏返せば、人の世は変われども、星の世界は変わらない。
まあ、星の世界も長い目で見れば、結構な勢いで変わっていますし、人間のうちにも億年単位で変わらない要素があるとは思いますが、ヒューマンスケールでいえば、やっぱり星の世界は不変といっていいでしょう。
まもなく新旧の年が交錯します。
広大な星の世界を思い浮かべながら、変わるものと、変わらざるものに思いを凝らすことにします。
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