【閑語】妖しの筒が青い空を飛び、青い海に墜つるとかや2022年11月03日 11時12分27秒

今日は11月3日、文化の日。
特異日の名に恥じず、今年も快晴です。

穏やかな気持ちで朝食の席に着き、テレビを付けたら、全局が北朝鮮のミサイル発射のニュースを流していました。えらいお祭り騒ぎだなあ…と思うと同時に、建物内に避難するよう真顔で呼びかけるアナウンサーの声に、何だか茶番めいた印象も持ちました。

朝刊に目を落とせば、原発の運転期間延長のニュースが紙面を飾っていて、「そういえば、原発にミサイルを撃ち込まれたら、日本は即座に詰むぞ…と言われた件、あれは今どうなっているのかな?」と思いました。他国のミサイルの脅威を目一杯あおりつつ、同時に日本海側に原発を多数展開するというのは、たしかに整合しない話です。

このことについて、国の公式見解はどうなっているのか?
関連する成書も多いとは思いますが、新聞報道や国会でのやりとりをパパッと見た限りでは、今でもあまり本気で考えているようには見えませんでした。

例えば、国の原子力規制員会は、環境省の外局として原発の安全策を担う部署ですが、委員会の立場としては、武力攻撃に対する防御策を電力会社には求めず、それは防衛省の役割というスタンスのようです。一方、自衛隊は、ミサイルが飛んで来れば、空・海・陸から対空ミサイルで迎撃するわけですが、それは国土一般に共通の話で、特に原発だけを手厚く守っているわけでもありません。撃ち漏らしてミサイルが原子炉を直撃した場合どうなるかは、原子炉の対爆性能が非公表のため、全くのブラックボックスです。仮に直撃に耐えても、外部電源を喪失すればメルトダウンは避けられず…ということで、なかなかお寒い感じです。

もちろん、ミサイルは撃つ方が悪いのです。
でも、それを奇貨として、敵基地先制攻撃能力だ何だと煽り立てるのは、考える順番が違うし、ましてやそれを新たな金儲けの種にしようとか、すわ支持率アップの好機とほくそ笑むなどというのは、不徳義な振る舞いと言わざるをえません。


------------------<以下参考:赤字は引用者>----------------------

■東京新聞(2022年3月4日)

【見出し】
原発に攻撃、日本の備えは…「ミサイルで全壊、想定していない」 テロ対策施設の未完成、再稼働した5基も

【リード】
 ロシア軍によるウクライナ最大のザポロジエ原発への攻撃。日本の原発は2011年3月の東京電力福島第一原発事故以降、地震津波対策は厳しくなったが、大規模な武力攻撃を受けることは想定外だ。航空機衝突などテロ対策で義務付けられた設備は、再稼働した原発の一部でしか完成しておらず、外部からの脅威に弱い。(小野沢健太)

【記事本文】
 「武力攻撃に対する規制要求はしていない」。政府が次の原子力規制委員長の候補とした山中伸介規制委員は4日、参院の議院運営委員会で原発が戦争に巻き込まれた際の対策を問われ、答えた。規制委事務局で原発の事故対策を審査する担当者も取材に、「ミサイル攻撃などで原子炉建屋が全壊するような事態は想定していない」と説明した。

 原子炉は分厚い鉄筋コンクリートの建屋にあり、炉も厚さ20センチの鋼鉄製だ。どの程度の攻撃に耐えられるかは、規制委も電力各社も非公表。しかし炉が難を逃れても外部電源を失えば、原発停止後に核燃料を冷やせず、福島第一原発のようにメルトダウン(炉心溶融)に至るリスクを抱える。

 航空機衝突などで中央制御室が使えなくなった場合は、テロ対策として秘匿された構内の別の場所に設置する「特定重大事故等対処施設(特重)」で炉内の冷却などを続ける。ただ再稼働済みの10基のうち、特重があるのは5基。5基は特重が未完成のまま稼働している。

 廃炉中を含め全国18原発57基の警備は電力会社、警備会社、機関銃などで武装した警察、海上保安庁が担う。自衛隊が配備されるのは「有事」となってからだ。

◆国会で何度も質問も、政府「一概に答えられない」
 日本国内の原発への「軍事攻撃」に対する危険性は過去の国会で何度も取り上げられたが、政府側は言葉を濁してきた。(市川千晴)

 2015年の参院特別委員会で、参院議員だった山本太郎氏(現れいわ新選組代表)は、原発がミサイル攻撃に備えているか質問。原子力規制委員会は「(電力会社に)弾道ミサイルが直撃した場合の対策は求めていない」と説明。当時の安倍晋三首相は「武力攻撃は手段、規模、パターンが異なり、一概に答えることは難しい」とかわした。

 民進党(当時)の長妻昭氏は17年の衆院予算委で、原発がミサイル攻撃を受ければ事故以上に被害が大きくなり「核ミサイルが着弾したような効果を狙える」と指摘し、対応を質問。規制委は「そもそもミサイル攻撃は国家間の武力紛争に伴って行われるもので、原子力規制による対応は想定していない」と答えた。
 
同年の参院審議でも、自民党の青山繁晴氏がミサイル攻撃があった場合の避難想定の不十分さを指摘。「地域住民の不安、社会的混乱もすさまじいと思われる」と対策を求めたが、政府側は「武力攻撃による被害は一概に答えられない」としていた。



■第208回国会 参議院 外交防衛委員会 第15号 令和4年6月7日

○羽田次郎君 〔…〕山口原子力防災担当大臣が、ミサイルが飛んできて、それを防げる原発はないと、世界に一基もないと、これからもできないと五月十三日の会見でおっしゃっていますが、これは、政府として、防衛大臣としても同じ御認識ということでよろしいのでしょうか。

○国務大臣(岸信夫君) 我が国に飛翔します弾道ミサイルに対しましては、まず海自のイージス艦による上層での迎撃、それから空自のPAC3による下層での迎撃、これらを組み合わせた多層防衛で対処するということとしています。また、巡航ミサイル等については、航空機、艦艇、地上アセットから発射します各種の対空ミサイルで対応している、することとしております。〔…〕

○羽田次郎君 その山口大臣の、担当大臣のその記者会見のお話だと、今後も迎撃というか、ミサイル攻撃から守れることはないというふうにおっしゃっているように感じたんですが、その認識とは防衛大臣とは違うということでよろしいのでしょうか。

○政府参考人(増田和夫君) お答え申し上げます。五月十三日の山口大臣の会見の中で、委員おっしゃるとおり、ミサイルが飛んできて、それを防げる原発はありませんと、世界に一基もありませんと、このように申しておりますが、〔…〕その前の段階で質問、記者から質問を受けて山口大臣は、原発の防衛を高めるということということはもう当然のこととして受け止めておりますと、これはもう防衛省に関わることでありますと。
 ですから、原発の防衛という観点から申し上げますと、先ほど岸大臣が申し上げたとおり、我々としては、上層、下層での弾道ミサイル防衛、そして巡航ミサイルに対しては各種のアセットで対応すると、その中には当然原発の防衛というのも入っていると、こういうふうに思っているところでございます。

○羽田次郎君 結局、明らかに、ミサイルが飛んできてそれを防げる原発はない、これからもできないというふうに明言されているのとは何かちょっと違うような感じはしますが、防衛省、そして防衛大臣がしっかりと守っていけるとおっしゃるんであれば、その言葉を信じたいとは思いますが。〔…〕

コメント

_ S.U ― 2022年11月03日 11時49分19秒

けっこう、お金もかかるのでしょうが、今時、景気の良い国もあるものだと感心します。

 さて、日本のほうですが、素朴に見て、原発と安全対策、防衛との関係は、まったく考慮されていないように思います。安全・防衛で重要なところは、日本海、北海道の自衛隊、核燃料研究だと思いますが、舞鶴海上自衛隊は高浜原発のすぐ近くにあり、北海道の部隊の中心は、泊原発に比較的近い大都市札幌周辺にあり、東海村の原子力研究施設は東海第二原発のすぐ近くにあり、いずれも、原発の非常時の対応には近すぎるように思います。原発を攻撃から守れないなら、ますますこんなに近づける必要はないと思うのですが。

_ 玉青 ― 2022年11月03日 13時01分48秒

昔、『危険な話』というのがベストセラーになりましたが、相変わらず危なっかしいですね。でもひょっとして、こんなにノンビリ構えているのは、「実弾」が飛んでくることがないことを、関係者は知っているからなんでしょうかね(なんだか陰謀論めきますが)。

仮にそうだとしても、金正恩体制が盤石なうちはそれでもいいですが、体制が崩壊した後の権力の空白と混乱期に何が起きるのか、北朝鮮は現に核を搭載したミサイルを飛ばせるだけの技術と能力を有しているわけですから、真に懸念すべきはその点であり、たぶん周辺各国も思いは同じでしょう。(正恩氏の側からすると、だからこそアメリカも中国も、当面本気で現体制をひっくり返す気はないと踏んでいるのかもしれません。何にせよ相当なタフ・ネゴシエーターです。)

_ S.U ― 2022年11月04日 08時39分50秒

私の指摘した内容を掘り下げて意味があるかどうかはわかりませんが、いずれも、自衛隊基地や研究所よりも商業用原発の立地が後発で、それが決定された1960~70年代は、冷戦時代ではありましたが、科学・技術・産業が優先され、戦争は悪で(それはいまでもそうですが)原発が善で、善が悪に譲る必要がないということで、原発が優先されたのでしょう。原発に関する攻撃が問題にされ始めたのは、純粋学問上で東西冷戦やイラン・イラク情勢が悪化した1980年ごろのことと思います。それでも、日本政府は、ほとんど気にしなかったものと思います。
 おそらく倫理や戦略としては、原発を善として優先した当時の判断には分があったと思いますが、原発技術が頼りないことが知られた今となっては、それも原発の安全性に含めて検討する必要があるのは当然でしょう。科学技術と産業と安全性の政策の情勢変化への対応のようなものについて、何らかの重要な教訓を含んでいるように思いますが、どちらがどうともいいがたく総括することは難しいです。

_ 玉青 ― 2022年11月05日 10時46分32秒

原発は確かに「善」の顔を以て登場し、「明るい未来」そのものでしたね。
それがいつしかダークな存在になり、忌まわしいものとなりました。
原発はプロメテウスの火であり、アダムとイブの林檎であり、人類が負っているものの象徴のように感じられます。さすれば原発とは即ち「原罪発電所」の謂いではありますまいか。

_ S.U ― 2022年11月05日 13時03分49秒

>「原罪発電所」
 無理に総括しますと、これが教訓の一つなのでしょうね。
 みんながよかれと思い、みんなで賛成して心を込めて頑張った行為ですら、後からふり返ると厳しい反省が必要なことがある。あの時はあれで正しかったのだと主張しても、今困っている状況の助けにはならない。悲しいことですが、人生も歴史もそのようなことの連続だと思います。

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