『ラピュータ』…天空神の視覚2009年03月21日 16時33分13秒


腰痛で寝ているのは実に退屈なもので、でも退屈なときというのは、内容のある本が読めそうで読めないですね。心が弛緩していて、脳がボヤーンとしているからでしょう。
今回、寝床で眺めていたのは、こんな本でした。

■市川義一(著・写真)『LAPUTA:ラピュータ』、光琳社、1994

飛行機から撮影した、空のステレオ写真集です。
ステレオ写真なので、当然、空や雲が立体的に見えるわけですが、実はここに出現する立体感は、実際に飛行機に乗っても決して見ることのできない、超現実的なヴィジョンなのです。

どういうことかというと、人間の両目は6~7センチしか離れていないので(つまり、三角測量の基線が短いので)、いくら飛行機から見ても、遠くの空や雲にはほとんど立体感を感じることができません。何となくベタっと平面的に広がって見えるわけです。ではどうするか?「飛行機の窓からちょんと写真を撮って、何秒かおいてまたちょんと写真を撮れば、雲の立体写真が撮れる。その何秒かの間に飛行機は何十何百メートルと移動しているわけで、そうやって撮った写真は両目の幅が何十何百メートルという巨大顔の巨人が見ている世界だ」(赤瀬川原平氏による序文より)。

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ある写真では、筋雲、群雲、霞雲…いろいろなテクスチャの雲が、それぞれ別の高度に行儀良く並んでいる様子がくっきりと分かります。美しくも不思議な光景です。

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またある写真では、むくむくと盛り上がった雲の峰を眼下に、その向こうには、練り絹のようになめらかな薄雲が世界の果てまで続いています。その上に広がる空は、青黒いような、凄い色を帯びて宇宙空間へと続き、その遠い遠い果てにポツンと浮かぶ白い月。永劫を感じさせる、超絶的な眺めです。恐ろしい立体感であり、文字通りシュールなレアリスムが漂っています。

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一つ残念なのは、写真印刷の網点が粗く、融合した映像にもはっきりそれが見えてしまうことです。高精細な画像で見たら、もっとすごい体験ができるんでしょうね。ぜひ見てみたいと思います。