デロール、ミレニアム回顧2009年04月15日 23時36分39秒

ちょっと情報が古くなってしまいましたが、「芸術新潮」の4月号の特集が「パリと骨董」で、その中にデロールの紹介記事がチラッと(記事1ページに写真2ページ)出てきます。

それを読んで、“ああそうだったのか”と知ったことがありました。
記事中、デロールの歴史を紹介する中で、

「(…)100年まえは社員が300人いたが、いまは10人しかいない。2001年、倒産寸前だったデロールを大手の園芸品店が買収、店内を改装して雰囲気をあかるくした。」

というくだりです。

デロールの苦戦については昔、BRUTUS(97年5月1日号)にも書かれていて、そこでは

「2年前〔1995年〕、この老舗が売りに出されているという噂が広まった。(…)/自然保護運動の高まりやワシントン条約の締結で、動植物を自由に取り扱えなくなったのも大きな理由のひとつだが、一部の専門家やマニアしか対象にできなかった老舗の古い経営体質にも敗因はあったようだ。(…)老舗の運命は、パリジャンの興味を大いに掻き立てる話題だった。/そこに颯爽と名乗りを上げたのが、30代の若き骨董商リシャール・マロル。商品もスタッフも職人も164年の伝統もろとも引き受けた彼は、老舗の威厳はそのままに、店内の古い空気を入れ替えて新しいコンセプトで店の立て直しを図った。」

と書かれていました。

なるほど。とすると、颯爽たるマロル氏の奮戦も空しく、デロールは今世紀初頭に2度目の危機を迎えていたと。ということは、私がデロールを知るきっかけとなった、今森光彦さんの本『好奇心の部屋デロール』は2003年に出ているので、マロル氏からさらに園芸品店に経営が移った後の姿だったわけですね。

「芸術新潮」の記事は、ラオラさんというデロールの店員さんの声を紹介しています。

「いまのデロールはすこし商業的なので、僕がまたむかしのように、学術的な陳列にかえてゆくよ、とラオラさんは語り、ほほえむ。文化や伝統というのは、たとえ一度とだえても、こうしてうけつがれるものなのだろう。」

昔のデロールと今のデロールは、おそらくかなり異質な空間になっているんじゃないかと思うんですが、度々の経営危機と試行錯誤を経て、再び往時の姿に帰りつつある(らしい)のは、素敵に頼もしい気がします。博物学の聖地として、この先も長く君臨してほしいものです。

コメント

_ mistletoe ― 2009年04月16日 17時25分07秒

ワタシも買わなきゃ。芸術新潮…およ。4月号ですか。
まだあるかしらん?
デロール。
それは、それは昔に比べたら異質だと思います。
現在はアーティスティックなイメージがあるし、
ある意味乙女受けが良いですものね。
これが成功に繋がったというのは納得です。
さすがフランス人的なイメチェンだな…と関心。
確かに学術的な香りはもう少しほしいところですね!

_ 玉青 ― 2009年04月16日 21時40分51秒

私はAmazonでバックナンバーを買いました。最近は本当に何でも売ってますね。(でもAmazonにも時に陥穽があって……その話はまた今度)

「乙女受け」。うむ、この場合、ちょっと特殊な乙女でしょうかね。あるいは乙女というより、Z女(ぜっとめ←今作った語)に受ける空間かもしれません。

デロール関連の話題は、今ちょっと「ため」をきかせているので、また折を見て記事にします。

_ S.U ― 2009年04月16日 23時55分12秒

玉青様、こんばんは。
よく出てくる「デロール」というのが何なのか長いことわからなかったのですが、今回のご説明でようやくおおむねわかりました。パリのオルセー美術館の近くにある店舗ですよね。そこの南側の地下鉄の走っている通りは2年前に同美術館に行った時に歩いて通りました。聖地の近くまで来ていながら先達がいないために参拝せずに帰る、というのはよくあるパターンではありますが。
 ピントはずれのコメントですみません。
 ついでに無粋な質問で恐縮ですが、ワシントン条約には引っかからない化石や生物標本などが、検疫などで没収になることはないのでしょうか。ご存じでしたらお教え下さい。

_ 玉青 ― 2009年04月17日 22時33分57秒

交わらざる世界線。
この場合、相手が動かざるデロールだったので、後からそれと知れますが、これが人と人の場合だったりすると、まさに神のみぞ知る、ですね。
出会いとすれ違い。運というか、縁というか、本当に不思議なものです。

生物標本は、ワシントン条約対象外でも、家畜伝染病予防法や植物防疫法で引っかかるとダメみたいです。化石はどうなんでしょうね。よく分かりません。当該国で輸出禁止措置が取られているものだと、引っかかる可能性があるかも(全くの想像です。持ち出しはダメでも、持ち込みはいい?)。

_ S.U ― 2009年04月18日 08時05分25秒

玉青様、
思い出してみると確かに不思議なんですよ。私がデロールから100メートルのところを知らずに通り過ぎる1~2時間前には、モンパルナスでルヴェリエの墓を偶然見つけて喜んでいました。聖地を一つ見つけて一つ見逃せばおあいこです。

 植物のタネとか土がついたものは検疫で引っかかるそうなのでちょっと気になったのですが、化石は考えてみますとコチコチの石ですから問題ないでしょうね。でも、輸出禁止だったら何でもだめか~。没収されると丸損ですから、やはり輸入業者さんから買うべきでしょうか。

_ 玉青 ― 2009年04月18日 22時10分15秒

人によっては、同じルートを歩いても、ルヴェリエの墓に全く気づかず素通りしたことも大いにありえたでしょうから、Uさんの場合、やはりルヴェリエに「引かれた」のでしょうね。一方、デロールは未だ機が熟していなかったのでしょう。「縁」とは本当に不思議なものです。

もちろん輸入業者から買えば確実ですが、当然マージンの分割高になるので、とりあえず先方(海外の売り手)に確認してみるのがいいのではないでしょうか。個人輸入の場合、露骨にまずい品以外は、よっぽどいいような気もしますが…。(私自身は税関で引っかかった経験はまだありません。)

_ koko ― 2009年04月22日 21時39分01秒

お久しぶりです!
6月にパリに行くことになりました。
コンサートもするのですが(夏至の音楽のお祭りの日です)、
ナントのLes machines de l'ileに行くのと、
デロールに行くのが今回の楽しみです!
自然博物館の中の古生物陳列館、鉱物陳列館もまた見たいし‥‥。

昆虫採集でいろいろな国に行きましたが没収されたこと、ないですね。
(生きた昆虫の持ち込みに関しても規制が緩くなっています)
もちろんワシントン条約違反のものは持ってきませんけど、
トリバネアゲハは、マレーシアでは平気で標本が売られています。
現地のコドモはつかまえておしりに草刺して飛ばしてますっ!!
トリバネアゲハは今は生態系も明らかになったので、それよりむしろ絶滅寸前の、守るべきチョウはたくさんいるような気がするのですが。

化石じゃないけど石ころもたくさん持ち帰っています。
土がついてるとよろしくないようですね。

_ 玉青 ― 2009年04月23日 19時26分51秒

kokoさま、ちょっとのご無沙汰でした。フランスの肝を総ざらい…!何とも羨ましい限りです。コンサートはもちろん、ぜひ充実した時間をお過ごし下さい。

うーん、トリバネアゲハにちょっと同情しますが、自然と人間が近いというのは、それ自体とてもいいことですね。まあ、そもそも人間は自然の一部なのですから、こういう言い方自体不遜なのかもしれませんが。

ところで、私は最近、昆虫にずいぶん感情移入できるようになりました。それは人間の脊椎や頚椎が、無脊椎動物の体節構造の名残りそのものだと気づいたからです。それ以来、昆虫の身体感覚が実感として感じられるようになりました。。。(←今日はちょっとSMAPの某氏のようにお酒が入っているので、発言が意味不明ですね。)

_ SBOD ― 2009年04月24日 23時18分42秒

玉青様,

Though I know nothing about the case but I just want to show you something.

http://farm4.static.flickr.com/3644/3471032700_b40542fdf0_o.jpg

The combination of the present and the past, a pool scenery and a dragonfly fossil, appearing in the same frame. This is my last year homework, and I was highly inspired by the 19 century photography, Cyanotype and Photogram, though mine was achieved by Photoshop.

I wondered if that dragonfly once lived in such environment. That is the motivation to produce the image.

I hope you would like it.

Regards,

SBOD

_ 玉青 ― 2009年04月25日 18時11分23秒

SBODさんは、創作系の活動もされているんですね。

美しい。実に美しいです。
化石化した蜻蛉が永遠に見続ける長い長い夢。
…あるいはここに描かれているのは、「夢の化石」そのものなのかも。
水面の波紋に不思議な時の流れを感じます。

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