アニー・マウンダー、『天界の物語』(2)2010年05月18日 19時52分30秒

彼女の筆を通じて、それぞれの物語をかたる天界の住人達は、おなじみの太陽、月、惑星、彗星、恒星、星雲、銀河といった面々。

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たとえば<太陽の黒点が語る物語>の章。
彼女はシンドバットが島と間違えてクジラの背に上陸した話がお気に入りらしく、太陽黒点をクジラにたとえて話を進めます。

“黒点は島のように固定された存在ではなく、クジラのように太陽の表面を遊弋している。時には群れを作る。クジラのように棲む海域が限定されている。そして海域ごとに生息するクジラの種類が異なるように、出現位置によって黒点の振る舞いも異なる。”

太陽黒点は、アニーの本領ですので、その筆も実に生き生きとしています。(ただし、黒点の長期消失現象、すなわちマウンダー・ミニマムの話は本書には出てきません)

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この本は20世紀の出版物なので、全編を通じて写真が幅を利かせているのが特徴。
そして、彼女の経歴を反映してか、グリニッジで撮影された天体写真が多数収められています。当時の天文書では、アメリカの大望遠鏡で撮影した写真が幅を利かせていたので、これはちょっと珍しい。

↑マウンダー夫妻も操ったであろう、グリニッジの写真撮影用望遠鏡。パリ天文台が首唱した写真天図作成の国際計画に使用されました。


↑上の望遠鏡で撮影されたプレアデス星団の写真(露出時間40分)。


↑アニー自身が撮影した、はくちょう座付近の天の川(露出時間6時間30分)。
周辺星像が少し流れていますが、女性天文家の草分けの面目躍如たる写真。今から110年あまり前、1900年8月の空の光景です。

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ところで、アニーってどんな女性だったんだろう?と、思うんですが、彼女の肖像写真はまだ見つけられません。でも、下のグリニッジ天文台のブログに載った写真には、ちらっと横顔が写っています。1900年5月のアルジェリア皆既日食の際の観測風景。

アニーはやっぱり太陽がいちばん似合う女性ですね。

アニーには、1898年のインド日食で撮った伝説的な写真があります。

「アニー・スコット・ディル・ラッセル・モーンダーが太陽コロナの見事な
写真を撮ったのはインドでのことだった。非常に感度の良い乾板を使
い、また独自の撮影技法を試みることで、彼女は4本のコロナの流線
を捉えた画像を撮影した。そのうちの1つは、かつてないほど長大で、
宇宙空間に向けて太陽半径の13.9倍も伸びていた。」(A.チャップマン、
『ビクトリア時代のアマチュア天文家』、272ページ)

その実物が『天界の物語』に載っています。当時の写真技術からすると、これはやはり相当驚異的な写真なのでしょう。


このインド遠征の話題を、アニーは同年5月にマンチェスターで講演し、その際の様子が上記『ビクトリア時代のアマチュア天文家』に書かれています。

「モーンダー夫人は一般聴衆の注意を惹きつけておく術を明らかに
心得ていた。あらゆる科学的詳細さに加えて、「マンチェスター・ガー
ディアン」紙によれば、彼女は「いく分郷土色のあるユーモラスな人
柄を話に織り込んで、教育的で面白い講演会を一層愉快なものに
した」。」(上掲書、278ページ)

彼女の人となりが、よく分かるエピソードです。少なくとも「お堅い人」では全然なかったようです。

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最後にもう1枚、彼女が撮影した日食の写真を載せておきます。モーリシャスで撮ったコロナの画像。


撮影日は、1901年5月18日。…おお、109年前のちょうど今日の画像ですね。
(これは狙ったわけではなくて偶然です。)

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