世界のヴンダーショップ(4)2009年08月22日 10時11分47秒

(↑http://www.flickr.com/photos/bip/440533140/in/photostream/より)

天文ネタで書きたいことは多々あるのですが、時いまだ至らず、もう少し天文以外の話題を続けます。

  ★

先日、おやつさんにコメント欄で新たな博物系ショップを教えていただきました。
まずその1軒目が、パリのシテ島に程近いクロード・ナチュール。

■Claude Nature
 http://www.claudenature.com/index.asp?p=114

何となくこの店名に聞き覚えがあるような気がしたのですが、「ん、そういえば…」とさっき思い出しました。
以前、奥本大三郎・今森光彦両氏による『ファーブル昆虫記の旅』(新潮社、2006)を紹介したときに、この店のことも書かれているのをメモしたことがありました。
 http://mononoke.asablo.jp/blog/2007/02/28/1216422

改めて元の本を見ると、クロード・ナチュールのことに、かなり字数が費やされています。
このお店の雰囲気がよく分かるので、それを以下に転記してみます。

 ■□

 デロールの次はサン=ジェルマン大通りのクロード・ナチュールに
行く。この店は親父さんがそれこそバリバリの現役虫屋で、自分で採
集にも行く、標本も作るという調子。息子がまたよく手伝っている。
金髪のおばさん店員はいつもハナ歌を唄いながらボール紙で標本箱
を作っている。

 フランス人虫屋がまず買わないような、ごく普通のフランスの虫ま
で、丁寧に標本にして売っているのがこの店のありがたいところで、
私はここで、ファーブルの『昆虫記』に登場する虫の見事な標本をず
いぶん入手することができた。見事な、というのは、この親父がマニ
アックなだけあって、標本を作ってここに売りに来るアマチュア虫屋
連中も、凝りに凝った標本を作り上げるからである。

 たとえば、ユーフォルビアスズメという蛾の幼虫は有毒で、自分の
毒性を誇示するためであろうか、まさに毒々しい、華美な色彩を有す
るのだが、その幼虫の内臓を丁寧に抜き、体内に空気を吹き込んで
膨らませながら乾燥させた、感心するしかない美しい標本を作る人が
いる。

 あるいはまた、キンイロハナムグリという甲虫の、卵から幼虫、蛹
の標本をきれいに並べたものを作る人がいる。もっとも卵だけは模造
品らしい。

 というようなわけで、クロード・ナチユールの親父、クロードさん
とはもう何年も親しくつき合っている。それに彼のいいところは、守備
範囲が広くて昆虫以外の生き物についてもよく識っていることである。
店内にはありとあらゆる生き物の標本が飾ってある。デロールの店とは
蒐集品の時代が違うから、虎や白熊とはいかないけれど、狩猟の獲
物や、交通事故に遭ったらしい小動物、蜘昧、蠍、それこそ鳥獣から
蛇蝎に至るまで揃っている。去年、私と一緒に来た魚やカエルの好
きな男とは、一方はフランス語を知らず、他方は日本語を知らないの
だが、カエルの声について議論するのに、互いにラテン語の学名と、
ケロケロとカエルの鳴き声とで話が通じるようであった。

 今森さんが、コルシカのラスパイユマイマイの殻があるか訊くと、家
から明日持って来て置いておくとのこと。しかし二、三日して店に行って
みると、本人は採集に出て不在、約束の物は忘れたらしい。金髪お
ばさんが、「お尻ぺんぺんしとくから」という調子。

 それでも頼めば何でも調達してくれそうで、現に店内には、中世の
伝説の、一角獣の骨格標本まで飾ってある。カモシカの額に北極海の
イッカクの角を生やしたものであろう。(上掲書、pp.105-109)

 ■□

何だかとても楽しそうですね。

サイトを見ても守備範囲の広さがうかがえますが、品目は主に生物標本限定で、医療・解剖系の品や鉱物は対象外のようです。また古書やアンティークの店とも一寸畑が違います。こういった店が、それぞれの色合いを保ちつつ軒を並べるパリは、やはり相当に奥が深いですね。

「日本人なら誰でも知っているファーブルを、フランス人はほとんど知らない」ということがよく言われますが、それはファーブルという「点」だけ取り出したときの話で、博物趣味の「面」的広がりにおいては、依然フランスに一日の長ありと認めざるを得ません。