古書の行く末を論じる前に、今日買う古書をどうするか2010年11月25日 08時15分45秒

<電子書籍vs.紙の本>という単純な構図ではない、そのはざまにあって、最近、古書蒐集家を悩ませている問題があります。

それはリプリントの問題。今、古書検索サイトで19世紀以前の本を探すと、まず大量に“Brand New”とか“Print on Demand”とかいう文字が目に飛び込んできます。要するにパブリックドメインで公開されている古書のデジタルデータを、印刷→簡易製本して届けるという、出版とも言えないような出版サービスを提供している会社がいくつもあって、本当の古書はそれらの隅で小さくなっているという、奇妙な現状があります。

当り前の話ですが、そうやって買えば、間違いなく安いです。手元でプリントアウトしても同じことですが、少なくとも体裁としてスマートですし、資料として取り扱いが容易になることは否定できません。

しかし、「ほら、君の好きな紙の本だよ。画面で見るのが嫌なら、これでどうだい?」と言われても、にわかにうべない難いものがあります。「漱石を文庫で読むのと何の違いもないじゃないか。何が不満なんだい?」と言われると、グッと詰まりますが、何かそれとは一寸違うような気がします。

いや、私もそれを全否定するわけではなくて、実際に買うこともあります。資料としては確かにそれで十分なのです。ものすごく便利です。でも、読み物としては…

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もっとも、この手のサービスもピンキリで、粗悪なものは確かに読み物として不適ですが、ファクシミリ印刷の専門業者に頼んだものならば、紙質も製本も上等、印刷も鮮明で、ルーペで拡大しない限り、本物と区別が付きません(これは提携図書館の本を、高解像度スキャンしているので、格段にきれいに仕上がるのだと思います)。まあ、そこまでいけば読書用としても十分ですが、高いは高いですね。

そう、下世話な話ですが、結局、値段が問題なのです。
ここで踏ん張ってオリジナルを買うか、「読めりゃいい」と割り切ってリプリントを買うか。オリジナルをあきらめれば、リプリントが10冊、いやもっと買えるぞ…という場面で、“愛書家未満”の普通の古書好きは、どうふるまうべきか?
オリジナルの本にしても、1880年代あたりのものだと、その前後にくらべて極端に劣化しやすい紙を使っているので、無理して買っても遠からず崩壊する恐れがあります。それならむしろ中性紙のリプリントの方が、保存には向くわけで…とかなんとか、いろいろ頭を使わねばなりません。

選択肢が増えたことは喜ばしいのですが、何だか妙にややこしくなったのは確かです。

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海外の古書店からメールで配信されているカタログを見て、ハーシェル関連の冊子に即注文を入れましたが、負けた!タッチの差で負けた!意気消沈。
紙の本もまだまだ人気があるようです。嬉しいような、悲しいような、いやいや実に頼もしいことです。

コメント

_ S.U ― 2010年11月25日 19時14分29秒

西洋書のリプリントにはまずないでしょうが、日本の古文書や写本には「虫食い」というのがありますよね。あれは写真にすると、素人目にはシミなのか書き損じなのか文字の一部なのかわからなくなります。テキスト部分ならまだマシですが図面の部分に虫食いのある写真は判読が難しいのではないかと思います。
 素人判定ですが、古文書に虫食いがある限り、原版の地位は安泰だと思います。

_ 玉青 ― 2010年11月26日 21時26分50秒

虫食いが古書を救う。ものすごい逆説ですね。
となると、デジタルアーカイブの未来は、3Dの仮想空間で、虫食い痕も鮮明なリアルな電子古書をパラパラめくるような方向に進化するのかもしれませんね。そこまでいけば、私もイチャモンをつける必要はないのかもしれませんが…んー…今一つ釈然としないものが残ります。

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