科学・魔術・芸術…光と闇の画家、ジョゼフ・ライト2010年11月23日 21時13分15秒

「ハリポタの映画のセット」の話題からもう1つ連想したのが、以下の作品。

ジョゼフ・ライト作『錬金術師』(1771)

「賢者の石」を探す過程で、偶然燐(リン)を発見した錬金術師を描いた絵です。画題はドイツのへリング・ブラントによる燐の発見(1669)に想を得ており、ブラントは商売の傍ら、本当に錬金術の研究に没頭していた怪人物らしい。

   ★

啓蒙主義と産業革命の時代、18世紀。
自ずと「科学」というものに、自覚的にならざるを得なかった時代でもあるのでしょう。そんな時代を背景に、科学をテーマにした異色の作品群を発表したのが、イギリスの画家ジョゼフ・ライトです。以下、新潮社版『新潮世界美術辞典』より。

ライト、ジョゼフ Joseph Wright
(通称ライト・オブ・ダービー、Wright of Derby)
1734.9.3-97.8.29 イギリスの風景画家、風俗画家、肖像画家。
ダービーに生れ、同地で没。
生涯を通じて光の効果を追求し、月明の風景、蝋燭の光による
人物や情景を多く描いた。これはアールト・ファン・デル・ネールや
ヘリット・ファン・ホントホルストの影響と思われる。また科学実験の
光景という新しい主題を見出した。『空気ポンプの実験』(1768、
ロンドン、テート・ギャラリー)はその好例。

この人の作品では、私はオーラリーの実演を描いた絵(1766)がいちばん印象に残っています。それと上の引用文中にも出てきた空気ポンプの実験の絵。(下のリンク先で画像をクリックすると、大きめの画像を見ることができます。)

■Maureen Byko,
 Shedding a Light on 18th Century Science: The Works of Joseph Wright of Derby
 http://www.tms.org/pubs/journals/jom/0706/byko-0706.html

いずれも、科学が生み出したマシン、それを厳かに操る科学者、そして両者を好奇と不安の目で見守る人々の表情が、陰影豊かに描かれています。こうした光景は、たぶん実景でもあり、同時に科学(新時代の魔術!)をめぐる当時の社会状況そのものをも象徴しているのでしょう。真空ポンプの中で息絶える小鳥は、科学の冷徹さと、それが孕む危険性に警告を発したものだとも思えます(ライト自身がどこまで自覚的であったかは分かりませんが)。

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