博物学者の部屋… DARWIN ROOM(2)2011年11月15日 22時24分59秒

(ダレル&ダレル著、日高敏隆・今泉みね子訳、『ナチュラリスト志願』、TBSブリタニカ、1985. 単なるイメージ画像ですが、そういえば日高敏隆さんのお名前も会話の中には出てきました。)

欅の黄葉にはまだ間があります。
いっぽう花水木や染井吉野の葉はすっかり赤く色づきました。
そして路傍のエノコログサは、とうに枯れ色です。
植物たちはそれぞれのペースで、冬への準備を進めているようです。

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さて、前回のつづき。

私が店に入ったとき、清水さんは雑誌取材を受けている最中で、記者氏にいろいろとお店のことを説明されていました。私はその間、店内をぐるぐる回りながら、その品ぞろえに目を奪われつつ、何を購入すべきか考えていました。

取材も一段落し、清水さんがレジに戻られたところで、私も品物の支払いをするべくレジへと行き、清水さんとちょっと言葉を交わすうちに、だんだん熱がこもってきて、「お茶でもどうですか」と誘っていただいたのを幸い、店内のカウンターでさらに長々と話しこんでしまったのでした。

以下は、会話体の部分も含め、清水さんのお言葉そのままというよりも、私の再解釈がまじっているので、その点を含んでお読みいただければと思います。

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まず、以前からの疑問、「ダーウィンルームは、デロールの影響を受けているのだろうか?」という点について、ずばりお聞きしてみました。

清水さんは、これまで商品の買い付けやら何やらで、ヨーロッパには100回以上、アメリカにはさらにそれ以上の回数出かけられているそうです。その旅の途次、関係するショップや場所を見て回り、ご自分のやりたいことを模索し続け、その結果として今のダーウィンルームがある、というお話。

「だから、その過程でデロールから影響を受けたものもあるとは思います。でも、自分はデロールの模倣をしたいわけではないんです」。清水さんは、このことをはっきり述べられました。「デロールは、過去の伝統を今にどう伝えるかに腐心しているようです。でもダーウィンルームは過去よりも現在、そして未来のことを考えていきたいと思っています。だから、ヴンダーカンマー的なものとは、ちょっと方向性が違うんです」。

この辺は、現在・未来の生態系や地球環境の問題を強く意識されているのかな…と思いながら、お話をうかがいました。実際、店内にはそうした方面の書籍がたくさん置かれています。

ザ・スタディルーム(=清水さんが立ち上げたサイエンスショップ)で科学に目覚めた子供たちが、今や大学生や大学院生として、ダーウィンルームを訪れてくれる…という素敵な話もうかがいました。
「でも、この店に一番興味を示すのは、理系の学生よりも、むしろデザイン系の学生ですね。まあ、スタディルームは科学への入口としては良かったんですが、ダーウィンルームでは、さらにその先にあるものを目指したいと思っています」。

「その先にあるもの」とは、店舗名の一部ともなっている「LIBERAL ARTS LAB」、すなわち豊かな真の教養がほとばしる場ということでしょう。

「この土地には、豊かな経験を持ちながら、今はリタイアしているような方が大勢暮らしていますから、そういう人が気楽に立ち寄って交流できる場となったら嬉しいですね。サロンと言ってしまうと、ちょっと後ろ向きな感じがしますけれど。私自身は学者ではありませんが、専門の研究者を招いて、積極的に情報発信していけるような拠点が理想ですね」。

半年前の記事で、「店を支える人的資源がどうなっているか」、要するにスタッフの資質の問題について触れましたが、清水さんもそのことは先刻ご承知で、今後、専門スタッフの確保が課題であるともおっしゃっていました。現状は、これまでの人脈を生かして、上野の国立科学博物館等の諸先生からアドバイスを受けつつ運営されているのだそうです。

上でダーウィンルームは、ヴンダーカンマーとは一線を画すという話がありました。
「でも好奇心という点では、謎めいた要素があってもいいですよね。隠された地下室に物凄い剥製がある、なんていうのも面白いじゃないですか」。

「アンティーク的なものは置かれないのですか?」と私。
「ええ、店の備品として置いてある古い品を買いたいというお客さんもいますし、そういうのを考えないわけではないのですが、なにしろこれだけのスペースしかないもんですから…」。

現在のダーウィンルームが抱える最大の課題は、スペースの問題のようです。
店の「看板娘」であるシマウマの剝製も、スペースの問題からわざわざ子どものシマウマの剝製を選ばれたそうです。そして、驚くべきことに、この店内最高価格の品を買いたいというお客さんがすでに複数いるそうですが、代替品の補充が難しいので、オーダーはすべてペンディングになっているというお話でした。

「この六差路はちょっとカルチェラタンの風情でしょう。店を拡張するとしたら、今のこの場所で広げたいんですけど、隣接するテナントはどこも黒字のようですから、なかなか空きがなくて…」。

さらにパワーアップし、謎めいた香りも漂わせたダーウィンルームの登場が待ち遠しいです。

この日は他にも科博のトロートン望遠鏡の話やら、下北の再開発の話やら、昆虫採集の話やら、気がつけばあっという間に1時間以上経っていたので、お礼を言ってあわてて店を辞去したのでした。

いや、本当に愉しくも充実した時間をどうもありがとうございました。
この場を借りて、改めてお礼を申し上げたいと思います。


(次回はダーウィンルームのお土産編)