天体議会の世界…蚤〔ピュス〕ゲーム(2)2013年08月22日 05時45分24秒

鉱石倶楽部のカウンターに置かれた「蚤ゲーム」のイメージ。


箱のふたを開けたところ。
箱の大きさは27cm×15cmほどあります。
内容は、赤・白・黄の3色のチップ、木製のカップ、濃緑の厚紙ボード、それに遊び方の説明書が付属しています。


ボードにはいろいろマス目があって、チップを飛ばした位置によって、得点やペナルティが決まる仕組みなのでしょう。印刷された文字には、地獄(enfer)あり、天国(paradis)あり、その中間には祭壇(reposoir)があったり、パリ・ローマ・ロンドン・ブリュッセルの4都市があったり、何となく謎めいています。


この木のカップも重要な役割を演じるはずですが、具体的な役割はよく分からず。


とはいえ、ルールはすべてここに書いてあるので、フランス語に堪能な方なら、遊び方は一読明瞭でしょう。ぜひご教示いただければ幸いです。



コメント

_ S.U ― 2013年08月22日 07時18分37秒

盤の図形と「蚤」の意味からして、日本の野外遊びである「ケンパ」と似ているように思います。

 ちなみに「ケンパ」は、石をそれぞれの枠に巡に投げ、ルールに従って(たとえば他人の石がある枠はスキップする)片足跳びで一周回ってくると次の枠に進めるというものです。

 なんとかフランス語を読んで解明していただきたいです。

 カップは、サイコロの壺ではないのでしょうか?

_ 玉青 ― 2013年08月23日 08時01分21秒

>「ケンパ」

私の子供のころも、「ケンパ、ケンパ、ケンケンパ」と唱えながら、地面に描かれた枠を片足でピョンピョン跳ぶ遊びがありました。もう記憶もおぼろで、どんなルールだったか思い出せません。でも、たぶんS.U少年が遊んだのと大同小異のものだったでしょう。

今、『こども遊び大全―懐かしの昭和児童遊戯集』という本を本棚から出してきて確認したら、これは一般的にいう「石けり」のことで、その跳び方から「ケンパ、チョンパ、チンパ、チョンチョンパ」などの異称があり、遊び方のルールや、地面に描く枠の形も、土地によって千変万化、「長(ちょう)」、「角けり」、「かたつむり」、「ひょうたん」、「どこ行き」、「温泉」、「丸とび」などたくさんのバリエーションがあると説かれています。(私のおぼろな記憶に残っているのは、どうやら「丸とび」に相当するようです。)

この石をチップに、地面に描いた枠をボードに置き換えれば、たしかに両者は非常に似た感じの遊びになりますね。で、何となく説明書の記述もそれっぽく感じられます。

ただ、このカップに関しては、サイコロ壺ではなさそうです。
ピュス・ゲームについては、以下にいろいろなタイプが紹介されていました。
http://www.jeuxpicards.org/puce.html
これを見ると、ポピュラーなのは、ばね仕掛けの「弾き台」を使って、カップを狙ってチップを飛ばし、得点を競うというタイプです。他にも「他のチップを使ってチップを飛ばす」というタイプもあり、記事で紹介したのも箱絵から判断すると、どうやらそれらしいです。したがって、このカップはチップの的らしいのですが、それとボードとの関係は依然さっぱりです。

…と思いましたが、じっと説明書をにらんでいたら、最後の最後に「このゲームには、カップにチップを入れる普通のピュス・ゲームと同様の遊びができるよう、カップも付いています」らしきことが書かれていて、謎が解けました。ボードゲームとカップは最初から関係なかったのですね。

となると、容器をめがけてチップをはじいている水蓮の前に、こんなボードは存在しなかったはずで、これはちょっとミスチョイスだったかも…

_ 蛍以下 ― 2013年08月23日 12時00分32秒

>ミスチョイスだったかも

箱には水蓮が遊んだのと同じ普通のピュス・ゲームが描かれてるので
これはいい選択だと私は思いました。
イラストをふちどる水色が天体議会の世界観にあってるようように思います。

石けりはよく知りませんが、用いられた石けりガラスはコレクターがいるようですね。

_ S.U ― 2013年08月23日 19時21分24秒

「『ケンパ』思い出紀行」におつきあい下さりありがとうございます。また、フランス語の解明もありがとうございます。投石器の様な物でチップを飛ばしてカップに入れるとは思いも及びませんでした。

 ここで、『天体議会』からは少しはずれますが、ゲームのルールの伝搬として興味あることがあるので、もう少し書かせて下さい。

 私が子どもの頃に遊んだケンパはかなり高度なルールがあって、全体が3つのステージ(練習ステージを入れると4ステージ)に分かれていて、かつ、それぞれのステージのプレイヤーが混じった状態でゲームが進むようになっていました。最終ステージは陣取りになっていてその陣の数を点数として争いました。これは子どもの時に考えたことではなく、ピュスの紹介をいただいてから気づいたことですが、ケンパは日本の田舎の子どもが考案したものとはとても思えず、ひょっとしたら西洋のボードゲーム(バックギャモンとかモノポリーのようなものを折衷にした)を参考にしたものではないかと考えました。

 ついでですから、「ビー玉」についても紹介させていただきます。私どものビー玉のルールは、地面に穴を5つ十字架の形に開けて、ちょうど十字架のように一番下の枝だけが他よりかなり長くつくり、この下の穴を「地獄」、対する上の穴を「天国」と呼んでいました。このビー玉にも3つのステージがありました。ビー玉とゲートボールのルールがよく似ていることは広く知られていますが、ゲートボールは日本で子ども向けに考案された物というので、それらのルールは同根で、両者のもととなる西洋の遊びがあるのではないかと想像しています。

_ 玉青 ― 2013年08月24日 17時48分35秒

〇蛍以下さま

そうおっしゃっていただけると、ちょっとホッとします。
ここはあの水色に頑張ってもらうことにしましょう。^^;

〇S.Uさま

>ひょっとしたら西洋のボードゲーム…を参考にしたものではないか

日本の童謡には、古来のわらべ歌、明治期に移入された西洋起源の歌、それらの上に新たに創作された曲が重層的に存在しますが、子どもの遊びにもちょっとそういうところがありそうです。日本の伝承遊びの代表のように思われている「けん玉」も、実は意外に歴史は浅く、明治末年に海外から入って来たものだ…というような例もありますから。

石けりについては、探してみたら既にこんな本が出ていました。

■加古里子(著)『(伝承遊び考 2)石けり遊び考』(小峰書店)
 http://www.komineshoten.co.jp/search/info.php?isbn=9784338226028

アマゾンに掲載された内容紹介を引くと

「明治期に移植され、昭和期に一斉に数を増やし、1980年代以降急速に衰微した石けり遊び。その盛衰の背景を古今の他種の遊びや海外の石けりとの関係、社会状況などから考察するとともに、「大正けんぱ」「かかし」「歌ケン」などのさまざまな遊び方を分析し、石けり遊びに秘められた子どもの姿を探ります。 収集資料数 約3万3000点。
掲載遊び例: カカシ、十字架、おでん、はなやま、うずまきケンパ、ぐるぐるケン、どこゆき、まといれ、瓦あて、陣とり、おんせんケンパ、タンスとび、石段ケン、8とび、メロン、週間カレンダー、天下とび、天王寺まいり、くつとりケン、一歩二歩、歌ケン、音楽とび、対抗ケン、その他ペルー、フィリピン、ロシア、イギリス、スペインの石けり遊びなど。」

…とあって、石けりは明治期に移入された遊びだと明確に書かれています。本文にはその当時の状況が詳述されていると思いますが、残念ながら中身は未見です。S.Uさんが親しまれた複雑なバージョンも、きっと解説されているのではないでしょうか。

_ S.U ― 2013年08月24日 20時21分43秒

加古里子先生は若い頃ファンでした。ご健在のようでうれしいです。ご紹介の参考書は、また見つかればみてみます。私どもの「ケンパ」ルールでは、石を蹴るシチュエーションは出ないのですが、学問上は「石けり遊び」に分類されるのですね。

 私の地方の「ケンパ」や「ビー玉」について、我々は子ども心に、これは土着のルールであることを何となく認識していました。また、いっぽうで、「Sけん」や「水雷艦長」などもたまにやっていましたが、これらは外来の遊びであるように感じていました。地元でルールが熟成された遊びと、何らかの手法で最近に移入(都会地から、あるいは雑誌、図鑑、野外活動指導者などから?)された遊びをある程度区別していたように思います。

_ 玉青 ― 2013年08月24日 22時01分21秒

>「Sけん」や「水雷艦長」

「Sけん」は大いにやりました(私の所ではなまって「エース」と呼んでいました)。
「水雷艦長」は名を聞くのみで、自分自身ではやったことがありません(私の住む地域では伝承が絶えてしまっていたのでしょう)。

考えてみれば、「こども文化」の伝播を知ることは、メディアもなく、また識字率も低かった時代の「大人文化」の伝播のありようを知る手がかりともなりますから、単なる懐古趣味にとどまらず、文化史的にも重要な意味があるように思います。

とは申せ、ふと気づけば『天体議会』からずいぶん遠いところまで来てしまいました。
この議論もそろそろ収束に向かうのが吉と、私の占いに出ています。(^J^)

_ S.U ― 2013年08月25日 04時53分15秒

そうですね。『天体議会』からは遠くに来てしまいました。子どもの遊び、文化伝搬やメディアの効用については、「天文古玩」さんの深層的主要テーマの一つといっていいでしょうから、また出てくるサイクルがあるでしょう。便利なことです。

 加古先生の本は何か読めそうですので、そこに顕著な発見があった場合は、また続きに書かせていただきます。

_ S.U ― 2013年08月25日 11時22分00秒

追加報告です。ご紹介のピュスのボードに近い情報が選られましたのでご報告します。

近所の市立図書館の開架で、ご紹介の

加古里子(著)『(伝承遊び考 2)石けり遊び考』(小峰書店)

を見てきました。

 玉青さんが本欄で紹介されたピュス・ゲームのボードと、ほぼ同じ形状のものが外国から日本に移入された「石けり」の図形の典型例として紹介されていました。351ページに、3つの例の2番めとして挙げられている[10B21型]というものです。加古氏による図を私が模写したものを上のURLリンクに示します(S.Uのところをクリックして下さい)。これは、別のページでロシアでの採集例ととして紹介されていますが、イギリス、スペインにもほぼ同じ形状のものがあり、加古氏はこのパターンをキリスト教社会になじむ特徴のものと考えているようです。

 「石けり」はヨーロッパ文明としての歴史が古いらしいので、このパターンも野外ゲームであったものが、室内ゲームのピュスと合体してご紹介のボードゲームになったものと思われます。また、加古氏によると、日本における石けりは、証拠はないものの、明治の初めに外国から来た宗教家あるいは教育者が日本の子どもに伝えた可能性が高いと考えられるそうです。

 この本は、石けりの幾何学パターンの膨大なバリエーションに重点が置かれており、ステージの進展や戦術に関してはあまり書かれていません。

_ 玉青 ― 2013年08月25日 20時37分46秒

調査結果をお知らせいただき、ありがとうございました。
いやあ、これは本当に「まんま」ですね!
「ケンパ」とピュスゲームのつながりを一目で見抜かれた、S.Uさんの慧眼に改めて驚きました。外遊びと室内遊びのインタラクションというか、意外な距離の近さも面白いですね。

後知恵で云うと、S.Uさんも加古氏の本でお読みになったと思いますが、記事中のピュスゲームと相同の[10B21型]は、昭和の子供が「長、角(ちょう、かく)」と呼んだタイプによく似ています。(ただし、前者では十字交差の向こうのマスが2つに区切られていますが、「長、角」ではその区切りがない点が違います。)

「長、角」の場合、十字交差の向こう側の二ますを、それぞれ「天、上り」と呼びましたが、明治時代の遊戯書(『日本児童遊戯集』、明治34)にも、全く同じ遊びが紹介されており、これを東京では「長石蹴り」と称し、件の二ますは「二天、一天」と呼んだと書かれています。おそらく「二天」の称は、[10B21型]と同様、ここが元来2つの区画に分かれていたことを物語るのでしょう。

そして、ここに出てくる「天」こそ、ピュスゲームにいう「Paradis」と同じ由来のものでしょうから、両者のつながりは、いよいよ確かなものと思います。

それにしても、昭和の洟垂れ小僧たちも、知らず知らずのうちに、キリスト教的「昇天の儀」を日々経験していたんでしょうかねえ。そういえば双六(絵双六)の起源も、中世の浄土双六で、「上がり」の意味するものは「極楽往生」だったそうですから、洋の東西を問わず、遊びと宗教は本来近いものなのかもしれませんね。

_ S.U ― 2013年08月26日 06時39分19秒

加古氏の本にも、「石けり」の区画のあるものを「天国」、「地獄」と呼ぶ例が(多くはありませんが)挙げられていました。

 昭和の鄙びた子どもたちの遊び風景の中にも西洋の厳格な宗教の影響を見ないといけないとなると、何というか、やはり浮き世はままならぬ、としか言えないです。

_ 玉青 ― 2013年08月26日 20時01分05秒

>やはり浮き世はままならぬ

うーむ、まさに。
世間には「遊行」という言葉もありますが、遊びとは即「行」でもあるのでしょうか。なかなか遊びも容易ならぬものですね。

  +

ときに別件ですが、先日の少年技師の話題について、ZAM20さんがさらに論を展開されています。ぜひご一読ください。

http://mmlnp.exblog.jp/20661190/

_ S.U ― 2013年08月27日 07時27分24秒

ZAM20さんの論のご紹介ありがとうございました。そこでおっしゃっている「管理されていない遊び」というのは、ちょうどケンパのルールのバリエーションとつながりそうだと感じました。

_ S.U ― 2024年03月09日 12時52分24秒

前回から10年以上経ってしまいましたが、本日(2024.3.9)の朝日新聞のbe(土曜版)の「サザエさんをさがして」の「石蹴り」(ワカメちゃんがお友達と道で「ケンパー」タイプの石蹴りをしようとしているマンガとその解説)に西洋起源の「ケンパー」のルールが紹介されていました。ここに一部を引用させていただきます。

以下引用です。

  「石蹴りは世界中にある遊び」とスポーツ人類学が専門の早大名誉教授、寒川恒夫さん(76)は話す。「ただ単に跳びはねるだけでない、図形の上を決まり事に沿って跳ぶ遊びは、明治以降に欧米から伝わった可能性が高い」
 寒川さんは『民族遊戯大事典』 (98年)の「石蹴り」の項目で、その歴史を解説している。古代ローマの子どもたちは地面に迷路を描き、その上で遊んでいた。現在も欧米などに残る、外側から中央に向けて進む渦巻き図形の石蹴りは、その名残とも言われる。
 欧米で一般的なのは、縦長の長方形を6マスに区切り、上に半円を載せた7マス形だ。手前に「地獄」「休息」、ゴールの半円部分に「楽園」または「天国」などと文字を書く。石を片足で蹴り進み、「休息」では両足を着けるが、「地獄」は跳び越える。
 「石が苦難をへて天国に至る。遊戯自体がキリスト教世界における魂の遍歴を表している」と寒川さんは言う。

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