天体議会の世界…信号燈2013年09月22日 19時51分38秒

ペンシルロケットを海洋気象台の屋上から発射した水蓮と銅貨。
しかし、どうやら打ち上げは失敗し、目標地点のはるか手前にロケットは落下してしまいます。

「高速軌道〔カプセル〕の橋のあたりじゃないか。」
 銅貨は北側の手摺に駆け寄り、山の方角に目を凝らした。
「かも知れない。行ってみよう。山の斜面まで届くと思ったのに、手前で落下するなんて予定外だ。人に当たってなきゃいいけど。」
「まさか、」
 少年たちは顔を見合わせたあとで、非常階段の方へ走り出した。(p.59)


この後、二人はロケットが落ちたとおぼしい、街の北側の峡谷越しに線路が伸びている陸橋付近まで様子を見に行きます。その夕闇の濃い谷あいの斜面で、ふたりは意外な人物に出会います。

「その後どうだ、眼の具合は。」
「何だって。」
 そろって声をあげた水蓮と銅貨の目の前に現れたのは、鉱石倶楽部で出逢ったあの少年だった。〔…〕額と両膝から血を流すほどの怪我を負っているのもわかったが、少年は平然としたようすで佇んでいた。(p.63)


謎の少年は、水蓮のペンシルロケットが足もとで破裂したはずみで斜面から転げ落ち、けがをしたのでした。それにしても、なぜ彼はこんなところにいたのか?
今、彼はもう一人の人物と、あるゲームをしている最中であり、そのゲームとは、当局の取り締まりの目をかいくぐって、鉄道の信号灯をいくつ壊せるかを競うものだ…と彼は言います。


「赤洋燈〔ランプ〕を狙っても意味はないよ。壊すのは青だけでいいんだ。」
〔…〕
「だってね、青なら十点、赤は一点、黄色は三点だ。そうなれば当然、きみだって青信号を狙うだろう。」
「何の話だ。」
「遊戯〔ゲーム〕だよ。さっきまで持ち点百五十点で勝っていたのに、谷底へ転落しているあいだに抜かれた。」(p.64)


呆然としている水蓮と銅貨をよそに、少年は懐中電灯を消し、さっさと斜面を昇った。そして橋の上を、声をたてて笑いながら走り去ってゆく。甃石〔しきいし〕を叩く足音がだんだん遠のき、続いてガチャン、と硝子の割れる音がした。再び号笛〔サイレン〕が鳴り響き、探照燈〔サアチライト〕がぐるぐるまわりだした。(p.66)


   ★

画像はO(オー)ゲージ規格の古い鉄道模型用信号灯。コードが付いているので、豆球が生きていれば光るはず(未確認)。
私に鉄道模型の趣味はありませんが、以前、「銀河鉄道の夜」の世界を再構成するときに使えないかと思って購入しておいたのを、今回ちょっと流用してみました。

   ★

上の信号灯のエピソードは、理科趣味とは縁が薄いですが、これによって例の少年をめぐる謎がいっそう深まり、彼はいったい誰とゲームをしているのか、それが物語後半に向けた重要な伏線ともなっているので、あえて記事として取り上げました。

コメント

_ S.U ― 2013年09月24日 20時50分23秒

つかぬことをお伺いしますが、玉青さんは「固体燃料ロケット」遊びご存じですか? 鉛筆の金属製のキャップや直径1センチくらいのアルミ管(アンテナあるいはマジックペンの胴体が適)の中にセルロイドの破片を適度に詰めて火であぶると飛ぶというものです。私どもの世代で中学生の頃は多くの人が製法を知っていましたが、遠くまで飛ばせた人は少ないと思います。うまく作ると垂直に10メートル、水平に50メートルくらい飛びました。
 火薬や高圧は使わないので爆発の危険は少ないものの、一気に燃焼しない時はどちらに飛ぶかわからない危険な物で、今ではお勧めできるものではありません。

_ 玉青 ― 2013年09月24日 21時26分52秒

おお、これは。何を隠そう、セルロイド片を燃焼させるロケットのことは、今日も記事にしたクシー君の漫画で見て知ったのですが、それまではまったく知りませんでした。
私の子供時代は、爆竹も、2Bも、かんしゃく玉も、何でもやり放題でしたから、特に危険な遊びを抑制されていたわけではないのですが、この差は何なんでしょう。地域的なものなのか、世代的なものなのか…。

…と考えているうちに理由が分かりました。
私が生い育った時代は、その可燃性が問題となって、セルロイド自体が身の回りから急速に消えていった時期と重なるからに違いありません。

(この齢になって何ですが、いっぺんやってみたい気がしなくもありません・笑)

_ S.U ― 2013年09月25日 07時44分57秒

>クシー君の漫画で見て知った
 そうなんですか。クシー君の漫画は見たことがないのですが、そのセルロイドロケットが載っている号は、どうしたら読めますでしょうか。縁があればでいいんですが、読んでみたいと思います。

>セルロイド自体が身の回りから急速に消えていった
 これはそうでしたね。当時は、ピンポン球はセルロイドでしたが、新品はセルロイドの供給源としては重量当たりのコストがべらぼうに高く、卓球場に赴いて廃品をストックする必要がありました。あるいは、年代物のセルロイド製の道具の廃品を普段からあさっておく必要があり、古道具があると、プラスチックかセルロイドか識別をしたものです。

>いっぺんやってみたい気がしなくも
 やられるのでしたらノウハウをそっとお伝えしますが、時には180度スピンしてから直線状に飛んでいくというとても物騒な物ですよ(笑。安全対策のノウハウもありますが)。何よりも広い場所がいるので、大人がやっていると、私有地でもない限り、とても怪しまれるでしょうね。たぶんテロリストと間違えられるでしょう。...ロマンがなくなりましたね。

_ 玉青 ― 2013年09月25日 22時05分37秒

不鮮明なスキャンですが、以下に画像を載せたのでご覧ください。
http://www.ne.jp/asahi/mononoke/ttnd/temp_image/xie_rocket
出典は「ラムネ水は月の光」です(単行本『クシー君の発明』(青林堂→PARCO出版)所収/初出:「子どもの館」1976年2月号)。

ノウハウは、広い場所が見つかってから、こっそりお聞きすることにしましょう。(笑)

_ S.U ― 2013年09月26日 20時00分52秒

>画像を載せた
 ありがとうございます。これは、なかなか淡い味のあるものですね。また、どこかで入手を心がけるようにします。

>ノウハウは、広い場所が見つかってから
 はい、いつでも。
 広い場所はともかく、年代物のセルロイドのストックには不足してらっしゃらないお見受けしました。

_ 玉青 ― 2013年09月27日 20時31分27秒

その折にはどうぞよろしくお願いいたします。

老いの手よりロケット銀河三千丈    玉青
(ちょっと意味不明の句ですが;)

_ S.U ― 2013年09月28日 07時18分39秒

>意味不明
 中国かモンゴル帝国の古賢がロケット兵器の開発をしながら夜空を見上げているところが目に浮かびました(笑)。
 老いてなおも大空をめざす興奮の続かんことを願います。

_ 玉青 ― 2013年09月28日 15時16分10秒

そういえば、宇宙飛行士のジョン・グレン(ミドルネームはハーシェル!)は、77歳で再び宇宙に飛び立ったのでしたね。

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