天体議会の世界…雲の観測映画2013年09月21日 16時24分04秒

水蓮と銅貨の二人が、ペンシルロケットの打ち上げを準備しながらの会話。

「昨夜〔ゆうべ〕、フィルム図書館で借りた真珠母雲〔しんじゅもうん〕と夜光雲の観測映画を見たんだ。なかなか面白かった。真っ黒な夜天〔よぞら〕で、雲の縁だけが白銀に煌き、海月のように漂うのさ。」
 固体〔ソリッド〕ロケットを組み立てながら、水蓮は銅貨に話しかけた。
「夜光雲って、真夜中に光り出す雲のことだろう。」
「ああ、よく極光〔オオロラ〕に間違われるらしい。」
「ぽくも借りてみよう。フィルム番号は、」
「FPの五六…、待って、図書カードを見るから。」
 水蓮は上衣のポケットから、カードを取り出して確認した。磁気性で、番号は表面に刻みこまれている。
「FPの五六一四。」
 その番号を銅貨が記入しているあいだ、水蓮はロケットを組み立て終え、ポケットから角砂糖のような固体燃料〔キューブ〕を掴みだした。(pp.56-57)

『天体議会』の舞台である未来世界よりも、現実世界の方が先を行っていることはいろいろありますが、このフィルム図書館もそのひとつ。

我々は、フィルム図書館で映画を借り出さなくても、真珠母雲にしろ、夜光雲にしろ、それぞれの英名である「Mother-of-pearl clouds」や「noctilucent clouds」をYouTubeで検索すれば、たちどころにその映像を自宅で目にすることができます。

とはいえ、YouTubeを持ち出して事足れりとしていては、あの風情を味わうことは到底できませんから、がんばって雲の記録映画を探したのですが、そうそう都合よく事は運びません。似た路線で、辛うじて見つけられたのは、戦前の雲のスライドフィルムでした。


最初期のカラースライドフィルムである、ドイツの「アグファカラー・ノイ」による1930年代後半の撮像で、生フィルムをガラス板で挟み、さらに全体を、昔のスライド機器メーカー「Filmosto」の刻印が入ったメタルケース(サイズは5×5cm)に封入してあります。
その硬質でカッチリした感じが、何となく水蓮好みというか…まあ、この辺は単なる強弁です。


上はありふれた積雲の写真ですが、


明度とコントラストをいじると、ちょっと夜光雲のイメージっぽくなります。


上は雲間から日光が差し込んでいる情景、いわゆる「天使のはしご」。


こちらも全体を暗くすると、夜光雲のイメージに近づきます。

   ★

…というわけで、今回はまったくの羊頭狗肉になってしまいましたが、気長に探していれば、いずれは雲の観測映画も見つかるかもしれません。その折には、またひょいと「ホンモノ」が登場することになるでしょう。(それまでこのブログが続いていれば…の話ですが。)

コメント

_ S.U ― 2013年09月22日 07時50分58秒

 私が子どもの頃には、学習教材映画として、自然ドキュメンタリーなどの短編映画(16ミリフィルム)が何種も学校に貸し出しになって授業で使われていました。のちにはビデオテープに変わったでしょうが(そもそも映写フィルムはオープンリールで破損しやすく中学生に自由に貸し出したとは考えづらく、それならビデオテープであろうと考えます)、現在はこのようなものはどうなったのでしょうか。教材なので投稿のYouTubeで代用できるとは思えないのですが、今は、CS番組やインターネットチャンネルの録画のDVDライブラリか何かで小中学校向きにもカバーできているのでしょうか。

_ 玉青 ― 2013年09月22日 20時03分11秒

今はその辺どうなんでしょうねえ。
理科教材のカタログを見ると、「理科映像資料集」のようなものは今でも販売されていて、メディアは当然DVDに置き換わっていますが、内容は昔ながらの…という感じです。
教育系のテレビ番組も健在のようですし、あるいは、事前に登録することで、コンテンツの配信を随時受けられるサイトもあるようです。いろいろ現場で選択の余地はありそうですね。

_ S.U ― 2013年09月22日 22時34分28秒

久しぶりに未記入をやってしまいました。再投稿させていただきますので、前項を削除下さいませ...
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>内容は昔ながら
 今でもあるのですね。安心しました。ネットでダウンロードができれば今のほうが配信が容易で、フィルムのような貸借・返還は必要なく、保管も簡単ですね。
 インターネットの世になってからは、なんでもパブリックドメインの知識で用が足りますが、教材用ライブラリというのは、勉学中の小中学生にとっては、一つの「知の殿堂」として寄りかかれるものであり、独特の効用のあるのではないかと思います。

 その点で行くと、百科事典というものはなくなったのでしょうか。かつては、学研の学習百科なり、平凡社の世界大百科なりを子どもが「知の殿堂」の定番とし家庭や学校で手に触れることができたのですが、ネットはその役割をなしているのでしょうか。かつての偉人の幼少時代をみると、エンサイクロペディア・ブリタニカや和漢三才図会を読みふけって大物になったという話がありますが、そういうのは昔話になってしまったのでしょうかね。(Wikipediaを読みふけって大物に、というのは、どうも、ちょっと)

_ astray ― 2013年09月23日 07時29分06秒

先刻御承知とは存じますが。。。

物理や天文とは少し内容がずれるかもですが、
このサイトは登録は要らないようです。
http://www.kagakueizo.org/

工学関係には、なかなか感動的な資料もあります。
岩波や学研の作品が少ないのは、
現役の教材は up されないということなのかも。。。

_ 玉青 ― 2013年09月23日 09時18分07秒

〇S.Uさま

ネットの情報はあまりにも真偽、精粗、さらには賢愚がごたまぜなので、使い勝手が悪いということもあるでしょうが、答が欲しい時にググってみれば、とりあえず何か出てくるというのも、子供にとってあまりよろしくない気がします。「子供をダメにする一番簡単な方法は、何でも欲しがるものを買い与えてやることだ」と言いますが、ネットが知の鍛錬にマイナスなのも、要はそこではないでしょうか(子供ばかりでなく、大いに自戒をこめての言ですが;)。

〇astrayさま

お知らせありがとうございます。
これは感動ものです。日映の「結核学術映画「空洞を探る」」とか、「雪にいどむ」とか、思わず見入ってしまいました。それぞれのテーマもさることながら、当時の社会の空気や、「科学観」みたいなものが同時に写し込まれているようで、その辺も見どころが多いですね。
できれば岩波の名作・力作をもっと見たいのですが、NPOが地道にデジタル化を進めている現状では、あまり多くを望むのは贅沢というものかもしれませんね。
ともあれ、非常に意義のある活動と思いますので、今後も科学映像館の取り組みには期待したいと思います(と口で言うだけでなく、寄付とかもすべきなんでしょうが、まずは言葉でエールを送ります)。

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