天文と気象(4)…小学館版・『気象天文の図鑑』2010年03月22日 19時26分23秒

今日は散髪に隣の駅まで行ってきました。
いつもは地下鉄で行くのですが、明るい日なので久しぶりに地上を歩きました。
マンションができ、見慣れた店がつぶれ、新しい店ができ、だいぶ様子が変わっていました。「町も人もやっぱり変わっていくんだなあ…」と、当り前のことをぼんやり考えながら、坂道を下っていきました。そういう自分自身、気づかぬうちに少しずつ変わっているのでしょうけれど。

  ★

さて、講談社の好敵手、小学館の図鑑です。


■気象天文の図鑑(学習図鑑シリーズ6)
 荒川秀俊、鈴木敬信、巻島三郎、大滝正介(著)、小学館、昭和45年改訂19版発行(昭和31年初版、昭和39年改訂新版発行)

私の手元にあるのは、昭和31年に初版が出た後、昭和39年に大幅に改訂され、その後マイナーチェンジを繰り返しながら、昭和45年に改訂19版として出た本です。前年のアポロの月着陸の記事がしっかり入っています。

表紙の見た目は似ていますが、講談社の図鑑とは約10年隔たっているので、内容的にはかなり進化している感じです(ちなみに表紙絵の画家は中島章作氏。講談社の図鑑で人工衛星の絵を担当した人です)。

これは時代的な差に加えて、天文篇を担当した鈴木敬信氏(1905-1993)の功績かもしれません。鈴木氏は歯に衣を着せぬ物言い(一種の毒舌)で有名だったらしいですが、同時に正しい天文知識の普及には非常に熱心だった人で、この子供向けの図鑑でも、一本芯を通したかったのでしょう。

恒星の解説ページに、そのことはよく現われています。
そこでは、恒星の質量と絶対光度の関係や、絶対光度と恒星の数の関係について両対数グラフを示し、さらに恒星の色(=温度)と絶対光度の関係図(ラッセル図)を挙げて、恒星の種族について解説しています。これは高校レベルの地学の内容で、今ではほとんどの人が地学を習わないそうですから、文句なしに高度な内容です。


また太陽系の形成に関して、講談社の図鑑では、「カント・ラプラスの星雲説」、「ジーンスの潮汐説」、「うずまき説」を併記するにとどまりますが、小学館の図鑑では、前2者を「歴史的にも有名なものですが、今ではどれも正しいものとは考えられていません」と断言した上で、「ホイルの星雲説」、「ワイゼッカーの星雲説(=上記のうずまき説のこと)」、「アルフェンの宇宙塵雲説」、「ホイップルの宇宙塵雲説」を挙げて、「どれが正しいのかということはまだ分かっていません」と、態度を保留しています。子供たちにどこまで伝わったかは分かりませんが、この辺の記述も細かいですね。


では、そうした熱意と厳密さで、火星の描写はどうなったか?

「現在わかっていることは、大気はあるけれどもうすく赤茶けたところはさばくで、緑色のところは植物地帯だということです。有名な運河は存在することが確認されました。しかし、人工的なもの、つまり水を流す運河ではありません。火星の谷間にそって発達した植物地帯のすじだと考えられています。」「植物はこのような下等植物です」


ついに動物が消えて、植物も「下等植物」にまで後退しました。
いささか不用意に植物の存在を断定しているようにも見えますが、巻末の解説では、

「緑色地帯のスペクトルをしらべてみますと、ある種のコケや地衣類のスペクトルににています。〔…〕おことわりしておきますが、火星にはこんな植物があるというのではありません。緑色部の様子がこんな植物ににていることをつきとめただけなのです」

と、厳密な態度をくずしていません。

もう1つおまけにプラネタリウムの記述を見ると、

「現在は大阪の電気科学館と東京の東急文化会館〔=五島プラネタリウムのこと〕をはじめ、その他各地にあります。」

おお、10年間でだいぶ増えましたね。

  ★

一見、無個性な図鑑にも個性はあります。
独りよがりな記述はいただけませんが、多くの場合、個性のある図鑑が良い図鑑のような気がします。

コメント

_ toshi ― 2010年10月10日 12時07分13秒

はじめまして.
グロティウスの星図で検索していてこちらにたどり着きました.
気象天文の図鑑 見せていただけた全てが懐かしいです.多分S39改訂新版だったと思いますが,これから起こる日食という図版もありましたね.
これから他のブログ記事も読ませていただきます.楽しみです.

_ 玉青 ― 2010年10月10日 19時47分17秒

toshiさま

はじめまして。お立ち寄りいただき、ありがとうございます。

図鑑好きの子どもっていますよね。比喩ではなしに、文字通り穴の開くほど同じ図鑑を繰り返し眺め、挿絵の隅々まで記憶してしまうような子どもが。かくいう私もそうでした(今だと、“ちょっと発達に問題が…”とか言われかねません・笑)。そういう図鑑に、大人になってから再会したときに味わう、あの不思議な感覚(まるで瞬間的に時間を移動したような)に共感していただけたものと、勝手に決め込んで恐縮ですが、とても心強く思います。

toshiさんのサイトも拝見しました。桁が3つぐらい違う世界でご活躍のようで、何と申し上げていいものやら分かりませんが、しかし素晴らしい美術蒐集の1ジャンルに、今後は天文趣味の品を是非お加えいただきたく、グレゴリー式望遠鏡やドッペルマイヤーの天球儀につづく逸品の招来を強く期待しております。(そして、いつの日か眼福を得させていただければ真に幸いに存じます。)

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

_ toshi ― 2010年10月11日 22時30分11秒

お寄りいただいてありがとうございました.
 まだ両品とも手元に届いていないので(併送の時計を修理していたため),届きましたらご連絡させていただきます.
 本日付でこちらのブログをご紹介させていただいたのですが,もし不都合がございましたら,ご一報いただけますでしょうか.
 これからも一天文好きとして,よろしくお付き合いくださいませ.

_ 玉青 ― 2010年10月11日 23時20分38秒

>届きましたらご連絡

おお!それは願ってもないことです。
眼福にそなえ、今から眼をよく洗っておきますね(笑)。

拙ブログをご紹介いただき、ありがとうございました。
toshiさんの方にもコメントさせていただきました。
こちらこそ、天文好き、古玩好きとして、ご交誼願えればまことに嬉しく思います。
上記ご連絡の件も含め、改めてどうぞよろしくお願い申し上げます。

_ 虎ちゃん ― 2025年01月25日 16時14分34秒

この小学館の図鑑には、地球で2メートル飛べる人は月では12メートル飛べる、少年が畑の中で宵の明星を見上げる絵、地球から月へは歩くと何の位で特急電車だとどのくらいか示した絵、光子ロケットなどの未来の輸送機関は何時ごろ完成するとかの説明は掲載されていますか?
懐かしいものでもし載っているのなら見てみたいと思います投稿しました。
現在73歳です。

_ 玉青 ― 2025年01月25日 18時20分05秒

こんにちは。さっそく件の小学館の図鑑を見てみました。お問い合わせいただいた事項のうち、手元の図鑑で確認できたのは、「月はこのくらい遠い」という図解のみで、歩いて行けば(時速6km)約7年、ひかり号(時速200km)なら約12週間、飛行機(時速1000km)だと約16日…云々の絵解きがありました(p.75)。

それ以外は、月の重力について、「重力くらべ」という記事があり、地球上でセメント袋(?)を1つ担いでいる人が月面では6つ担いでいる絵とか、未来の宇宙旅行について、巻頭に「未来の宇宙ステーション」という想像図がありましたが、遠い将来の光子ロケット等の記載はありませんでした。明星を見上げる少年についても同様です。

記事本文で書いたように、手元の『気象天文の図鑑』は「改訂19版」で、この図鑑は短期間で頻繁に改訂を繰り返していたため、同じタイトルでも時期によって大幅に内容が異なる可能性が高そうです。虎ちゃん様がご覧になったのも、あるいは別の版ではないか…と想像します。子供時代に熱心に眺めた記憶は鮮明ですから、必ずやお尋ねの説明図はどこかにあるものと思います。

(なお、同文のコメントが重複投稿されておりましたので、先に投稿された分を非表示にさせていただきました。)

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