海の青さを測るには…水色番号の話2010年03月10日 22時10分59秒

(昨日のつづき)

本書の挙げる気象観測の要目は、気圧、気温、風向、風力、雲量、雲形、天気、海水温度、それに海面状態なのですが、それ以外に「雑象」として、いろいろ特記すべき現象が挙がっています。

たとえばセント・エルモの火。

「海洋上に在る船舶の帆檣、帆架等の尖端に、放電の花火に
似たる現象顕はることあり、之を聖エルモ火(St. Elmo’s Fire)
と云ふ、此花光の盛なるものにありては、全船に「イルミネー
ション」を施したる如く、頗る美観を呈す。」

かと思うと、「極光〔=オーロラのこと〕は、両極に近き地方の高空に顕はる、電気的の現象にして、頗る美観なるものなり」という風に、文中には盛んに<美観>が顔を出します。

「海光」、というのは海蛍の類と思いますが、これまた壮観で、「海光の盛なるものは、海一面に光輝を発し、恰も昼間の如く、帆檣上のものまでも明視し得ることあり」と派手に書かれています。

どうも海上には妖しく美しい光が満ち満ちている感じです。

   ★

さて、<美>という語こそ出てきませんが ― そしてこれは天然自然の描写ではありませんが ―、私自身いちばん美しいと感じた記述が、本のいちばん最後に出てきます。

それは「海色の観測」という項目です。
海の色をいったいどうやって測るのか?

「海洋の水色を観測するには「フオーレル」氏の標準色を便とす、
此の標準は、次の如き色素を調合したる液の色によるものなり、
乃〔すなわ〕ち硫酸銅一瓦〔グラム〕、アムモニヤ九瓦を、
水一九〇瓦に溶解したるものを青色液とし、中性クロム酸加里
一瓦を水一九九瓦に溶解し之を黄色液とし、両液を次表の割合
に混合し水色番号を定む。

水色番号  青色液  黄色液
 一号    一〇〇     〇
 二号     九八     二
 三号     九五     五
 四号     九一     九
 五号     八六    一四
 六号     八〇    二〇
 七号     七三    二七
 八号     六五    三五
 九号     五六    四四
 十号     四六    五四

此混合液を直径八粍〔ミリ〕位の硝子管に封入して保存す。尤も
此の標準液は、次第に其色に変化を生ずるを以て、三四箇月位
を経過せば新液と取換ふるを要す。」


実際に海水色を観察するときには、この標準液の入ったガラス管の下に白紙を敷き、液の色と海の色とを見比べて、いちばん近い色番号を記録すればよいわけです。

   ★

「水色番号」という言葉の響きが素敵です。
透明な青のグラデーション。
ガラス管の中に封じ込められた小さな海。
青色液と黄色液の混合比にも、何か美的なこだわりを感じます。