コロナ雑感2020年02月26日 19時04分56秒

新型コロナの件で、国が発表した「対策」について、いろいろ意見が交わされています。そもそもあれは対策の体を成していない、という声も強いですが、一連の議論の中で、ちょっと気になったことがあるので、メモします。

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今、問題になっていることの一つに、国内でのPCR検査の実施件数が、他国より格段に少ないことがあります。そして、この点を擁護する意見として、以下の論を耳にします。

①不安に思う人がいっせいに医療機関に押し寄せたら、医療機関がパンクして、地域医療が崩壊してしまう。

②潜在的感染者が来院することで、院内感染のリスクがある。医療機関が新たな感染源になってしまうことは避けるべきである。

③仮に検査結果が陽性と出ても、新型肺炎自体は特異的治療法(特効薬)がないので、検査をする意味が薄い。

これを読むと、いずれももっともに思えます。

でも、よく考えると、これは新型コロナに限らず、どんな新手の感染症が発生した時でも通用する「無敵の論理」です。果たして、今後さらに感染力が強く、もっと致死性の高い病気が発生しても、特効薬がなければ、常にこの3つを言い立てれば済むのかどうか?

素朴に考えて変だなあ…と思います。そして、こういう「無敵の論理」は、たいていどこかに穴があることを、私の経験と常識は告げています。

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まず①について。

たしかに、検査を希望する人がいっせいに医療機関に押し寄せたら、当然そうなるでしょう。だからこそ、押し寄せる前に、要医療の人と、そうでない人をスクリーニングする必要があるわけです。でも、本来そのスクリーニングのために検査はあるはずなのに、それをしないというのは、入口のところで大きなボタンの掛け違いが生じています。

現在、新型コロナに対して行われているスクリーニングは、もっぱら問診でしょう。
でも、これはスクリーニングとしての確度がきわめて低くて、あまりにも頼りないです。まして重症化した段階でも問診ではねられて、検査すら受けられないなんて論外です。

そもそも論で言うと、現在は検査機関イコール医療機関になっているから、医療機関に人が押し寄せる結果を招いているのであって、両者を分離しても支障はないし、むしろ分離した方が効率的なことは多々あると思います。そこで適切な(必要なら多段階の)スクリーニングを実施して、必要な人だけ医療機関につなぐ体制が望ましいことは言うまでもなく、そのことに反対する人は少ないでしょう。(ここでいう「検査機関」とは、衛研のような検体処理機関ではなくて、被検者から検体を採取する機関という意味です。)

もちろんそのためには、人もお金もかかります。しかし、こういうところに人とお金をかけずして、一体どこにかけるのだろうと思います。

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次に②について。

仮に独立した検査機関ができたとしても、そこで機関内感染が起きては困ります。
でも、最初から検査機関であることを想定するなら、それこそ病院建築の専門家の出番で、その知恵を大いに使えばよいと思います。

独立した検査機関というと、何か巨大な箱モノを想像されるかもしれませんが、要は人の動きと空気の流れを制御し、清潔区域と不潔区域を明確にするだけのことですから、別にささやかな建物でも、既存の施設でも構わないのです。そこは一般の病院のように、いろいろな目的で、人がランダムに移動する空間ではありませんから、はるかに単純な構造で済むはずです(健診や人間ドックの場面を想像してください)。

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最後に③について。

特異的治療法(特効薬)がない病気は、本当に検査をする意味が薄いのか?
そんなことはないでしょう。「あなたは新型コロナだ」と言われたら、他人への感染リスクを考えて、自分も周りも慎重に行動するし、それだけでも結果は大いに違ってきます

特効薬がないのは、ふつうの風邪も同じです。
だからといって、「風邪の人は病院に行くな」とはなりません。そもそも一般の人は、普通の風邪か厄介な病気か分からないので、そのことだけでも、病院に行く理由になります(風邪だろう…と勝手に素人判断すると、お医者さんにひどく怒られたりします)。そして、風邪の場合と同様、対症療法を組み合わせれば、患者さんは楽に過ごせるわけですから、「新型肺炎は家で寝ておれ」と言って済ませるのは、ちょっと違うんじゃないでしょうか。

さらに、個々の患者に意味が薄いことは、公衆衛生的に無意味であることを意味しません。そもそも、定量的データ(どこにどれだけ感染者がいるか)がなければ、対策の立てようがないし、立てても場当たり的になってしまうでしょう。

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以上のことは、素人が布団の中で考えたことにすぎません。
だからこそ、国や専門家には、もっとストラテジックで、骨太の議論をしてもらいたいのです。そういう目で見ると、やっぱりあれは「対策」とは言い難い代物です。