恒星社 「新星座早見」2020年11月01日 16時57分07秒

雑談ばかりではしょうがないので、本筋のことも書きます。

   ★

ヤフオクで、最近こんな星座早見盤を見つけました。

(差し渡し16.7cm、円盤の直径は15cm)

これは嬉しい発見でした。しばらく前に話題にして、その画像だけは目にしていたものの、その実物に接するのは初めてだったからです。

日本の星座早見盤史に関するメモ(14)…恒星社『新星座早見盤』

上に掲げた写真は、北緯35度の地点で、北を向いたときに見える星空で、裏返すと…


今度は南を向いたときに見える星空が描かれています。


よく見ると、運がよければ南の地平線すれすれに見えるカノープスが、顔をのぞかせています。


この製品は、以前も書いたように、恒星社(※)が戦後まもなく出したもので、考案者は京大の宮本正太郎博士ですが、宮本博士の名前はどこにも表示がありません。また発行年の記載もありませんが、脇に捺された検印から、手元の品は「昭和23年8月28日」に完成したことが分かります。


今回、実際に現物を見て分かったのは、クルクル回る円形星図が、どこにも固定されておらず、地平盤の「ポケット」に挿入されているだけだったことです。

(星座名は、戦前のままの古風な漢字表記)

そして南天用の星図には、日本からは見えない星座もきちんと描かれており、表裏をひっくり返して「ポケット」に入れれば…


地平線から35度の位置に、不動の天の南極があって、その周囲を南の星座がぐるぐる回転しているのが見えます(方位が逆転しているので、「北」は「南」に読み替えてください)。すなわち、これは南緯35度の土地(シドニー、ブエノスアイレス、ケープタウン等)から見た星空なのです。

そして北の方角を向けば、

(上と同じく図中の「南」が、真北の方角になります)

はくちょう座が地平線の近くを低く飛び、日本の北の空を彩る周極星(北斗やカシオペヤ)は、常に地平線下にあって、決して見ることのできない「幻の星座」であることも分かります。

   ★

デザイン的には地味ですが、端正な表情をした、機能的にも興味深い佳品です。


---------------------------------------------
(※)メモ:恒星社について

恒星社は「恒星社厚生閣」が正式名称ですが、私は「恒星社」の下に引っ付いている「厚生閣」というのが何なのか、今一つ分かっていませんでした。さっき調べたら、下のブログにその経緯が詳しく書かれており、結論から言うと、両者はもともと別の会社です。

しかし、人的つながりや、業務上の関係が以前からあって、戦時下の企業統合で合併したまま今に至っている由。さらに、恒星社を起こした土居客郎(1899-1966)は、「土井伊惣太(どい・いそうた)の別名で活動していたことも、これを読んで初めて知りました。

■出版・読書メモランダム:
 古本夜話739 土居客郎、恒星社、渡辺敏夫『暦』

コメント

_ S.U ― 2020年11月03日 07時40分28秒

これは、素朴ながら玄人好みの佳品ですね。

 脱線してすみませんが、南緯35度の土地の空に見やすい きょしちょう座 が「トーカン」になっていたので、オヤと思ってちょっと調べました。

 巨嘴鳥というのは、鳥の名前(科名)で、英語では toucan なのですが、日本語ではオオハシと呼ぶみたいです。巨嘴鳥は中国名で、「きょしちょう、キョシチョウ」という音読みは、日本語のネット検索では星座名関係以外はほとんどヒットしません。

https://kotobank.jp/word/%E5%B7%A8%E5%98%B4%E9%B3%A5-1755992

辞書によると、「巨嘴鳥」と書いて「オオハシ」とルビを振るようです。

 私は、これまでテレビや動物園などでこの鳥を見ると、「キョシチョウだ、キョシチョウだ」と騒いでいましたが、これは私だけだったみたいです。

_ 玉青 ― 2020年11月03日 09時51分59秒

ありがとうございます。これは、細かいところにご注目いただきました。
“キョシチョー”は、耳で聞いても分からない言葉の代表ですよね。

ここから「オオハシ」と「キョシチョウ」という言葉、さらにその実体は日本でいつから使われ、知られていたのか…という疑問に通じますが、おもむろに開いた荒俣さんの『世界大博物図鑑』にも記載がなくて、ちょっと分かりませんでした。

星座の方は、明治43年の日本天文学会(編)『恒星解説』において、すでに「巨嘴鳥(きょ志てう)」とあって、早くから「キョシチョウ」一択です。でも、昭和8年の山本一清(著)の『天文学辞典』では「きょしちょうざ 巨嘴鳥座 Toucan トウカン座とも云ふ」とあるので、「トーカン」も一部併用されていたようです。まあ、「トーカン」も聞いてもよく分からない言葉ですが、これは元々南米現地語の借用で、鳴き声に由来するらしいので、別の意味では「聞いていちばんよく分かる」のかもしれません。

_ S.U ― 2020年11月03日 13時34分07秒

お調べをありがとうございました。

>ここから「オオハシ」と「キョシチョウ」という言葉、さらにその実体は日本でいつから使われ、知られていたのか…という疑問

 もし、先に実体が「オオハシ」という名前で知られていたならば、「キョシチョー」だの「トーカン」だの外来のわけのわからない訳名を星座につけた日本の天文学者の責任問題になります(笑)。

 外国の鳥なので、責任問題といってもたいしたことはありませんが、今後、日本に伝わった経緯に注意してみたいと思います。

_ ガラクマ ― 2023年06月07日 13時53分50秒

 古い記事に返信で申し訳ありません。最近、善通寺市の地域おこしに関わる頃があって、
恒星社の創業者って善通寺市の出身とどこかで聞いたことがあったと思い、探してみるとさすが玉青さんの記事に辿り着きました。
 確か原田三夫氏のなんとかの70年だったような。調べてみます。

_ 玉青 ― 2023年06月08日 06時33分36秒

いやあ、お役に立てたのか、立てなかったのか判然としませんが(笑)、何はともあれガラクマさんが必要とする情報に行き着かれたのであれば何よりです。それにしても、天文界の周辺も話題に事欠きませんね。そんな話題をツマミに、そろそろまた皆さんで楽しく歓談する機会があればと思います。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック