日本の星座早見盤史に関するメモ(14)…恒星社『新星座早見盤』2020年06月25日 06時27分04秒

さっそく自力で新しい発見があったので、追記します(ちょっとしつこいですね)。

連載第6回「昭和50年頃の早見盤界」に出てきた、恒星社版の星座早見の正体が分かりました。記事中では「南北天両面式」「直径15cm」という説明だけが、かろうじて判明していた品です。

夕べ、古い天体観測入門書を見ていたら、図入りでその説明がありました。


■鈴木敬信・中野繁(著)
  『中学・高校生の天体観測』 (誠文堂新光社、昭和27年/1952)


 「星座早見にも市販のものがいくらかあるが、窓の形の不正確なものがかなりある。楕円形にしたり、あるいはそのほか勝手な曲線にしたりしている。信頼できるものをあげると

(1)日本天文学会編 星座早見(北緯35°用) 三省堂刊
(2)水路部編 星座盤(北緯30°用)
(3)宮本正太郎案 新星座早見(北緯35°用) 恒星社刊

などがある。(1)、(2)はほぼ同じようなものであるが、(2)は日本近海を航海する船が利用するようにつくってあるので、基準緯度が低くなっている(郵船会社その他海図を売っている所にある)。印刷が美しい上に、回転部分がガタつかないように、入念につくってあるので、きわめて使いよい。(3)は小型でポケットにはいる程度である。天の赤道をさかいにして、それより北の空と南の空とが、別々に現れるようになっているので、なれないと使いにくい。

 (1)(2)型の星座早見では、星図が北極中心になっており、南の星ほど図の外側にくるので、南極に近い星座ほど、南北にくらべて東西がのびており、星座の形がいちじるしくずれている。さそり座・いて座など東西にひどくのびて、初心者は実際の空と比較するときに、とまどうほどである。(3)では星図が、天の赤道をさかいして、北極中心のものと、南極中心のものと2枚にわかれているので、(1)(2)に見られるような南天星座の変形はない。この点はひじょうにべんりだ(よくいうことだが、天はニ物を与えたまわぬようだ)。」 (pp.34-5、太字は引用者)


なるほど、「南北天両面式」というのは、南十字星のような南半球の星図と、北半球の星図が両面に描かれているのかな…と思ったら、そういうわけではなくて、あくまでも日本国内から見上げた星空を、北の方角を向いたときと、南の方角を向いたときとで描き分けたものだったのですね。(そうすることで、星座の形と大きさの歪みが小さくなるメリットがあるわけです。)

考案者の宮本正太郎氏(1912-1992)は、京大の花山天文台長もつとめられたプロの天文学者。一般向けの本も多く書かれたので、オールド天文ファンには親しい名前かもしれません。

その宮本氏が1952年、ないしそれ以前の段階で、こういうものを世に問うていたというのは、時期的にも相当早いですし、内容も斬新ですから、日本星座早見盤史にその名を記し、記憶にとどめる価値が十分あります。(ただし、このアイデア自体は、ドイツの古い早見盤に先行例があります。)

   ★

そしてまた、印刷が美しく入念な仕上げが施された、水路部編の『星座盤』というのも、これまた目にしたことはありませんけれど、大いにそそられるものがあります。

こうして探索の旅は、さらに続くのです。

(今度こそ本当に、一応この項おわり。でも追記は随時します)

コメント

_ S.U ― 2020年06月25日 08時34分19秒

>ちょっとしつこい

 に私もしつこく付き合わせて下さい。

 嘉数氏の「なにわの科学史」のページに、

佐伯恒夫編『新星座表』
  全天型早見盤では、・・・ 北天と南天を分離し、表面が北天、裏面が南天の星空を表示するが、その窓の形が特徴的である。
 学校の副教材としてつくられたものと思われるが、・・・
 (引用文中 ・・・ は略)

とあります最後の部分に注目しました。小学時代に、表裏面方式の「南北天両面式」を学校教材として見たことがあるような気がするからです(以前、コメント欄に書かせていただきました通り、私の所持になったものではありません)。 私の勘違いで学習雑誌の付録だった可能性もありますが、勘違いでなければ学校教材系の製品にこの方式の系列があったのだと推測します。今では画像を見つけられないので、全盛は、1960年代後半~80年代あたりの比較的短期間に限られているのかもしれません。

 さらに、両面連動式(くるっと手前を向こうに裏返せばそのまま同時刻の南天図になる)のアイデアは、これまたすでにコメントさせていただいた足立信順の「中星儀」でおそらく実現されているのでないかと思います。(「中星儀」は星座早見ではありませんが、このアイデアとしては日本最古かも)

_ 玉青 ― 2020年06月26日 07時13分14秒

あはは。ではお付き合いさせていただきましょう。
とはいえ、あくまでもアウェイの話題ですので、はかばかしくお答えができないことをご承知おき下さい(まあ私の場合、たいていの話題はアウェイなんですが・笑)。

さて、お尋ねの件。
件の佐伯恒夫氏の早見盤、どうもメーカー名が見えそうで見えなくて、もどかしいですね。他に既出の品でいうと、以前話題にした大和科学製の星座早見盤が南北両天式で、これまた学校現場に入り込んでいましたから、該当する可能性はありますね。
http://mononoke.asablo.jp/blog/2020/05/31/9252606
(大和科学の製品は今でも両面式ですが、今のは普通の星座早見と、裏面が月の満ち欠け説明盤になっていて、それはそれで教育目的に叶うのですが、昔の物とはだいぶ勝手が違います。)


両面連動式に関しては、ドイツ製の南北両天式の例が、以前紹介した『Card Planispheres』に何点か出てくるんですが、
http://mononoke.asablo.jp/blog/2020/05/17/9247630
その中で最古のものは、実に1808年のもので、この形式の歴史は予想以上に古いようです。中星儀の実体はよく分からないものの、やっぱり同様の工夫をしているとすれば、世界的に見て、それに次ぐ古例と言えるかもしれませんね。

_ S.U ― 2020年06月26日 20時00分58秒

ありがとうございます。
まずは、大和科学教材研究所ですね。
 おそらく小学生の時にかなりの理科教材でお世話になったんだろうと思います。
 当時の星座早見を探してみたいですが、こういうものは数が出たわりには残っていないのでしょうね。

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