天空をめぐる科学・歴史・芸術の展覧会をふりかえる2020年06月29日 07時05分40秒

昨日の記事で、現在開催中の「大宇宙展―星と人の歴史」に触れました。
このブログと興味関心が大いにかぶる、この種の展覧会はこれまでも度々ありましたが、その歩みを一望のもとに回顧することがなかったので、ここに列挙しておきます。

もちろん、この種の試みは諸外国でも盛んでしょうが、そこまで範囲を広げると手に余るので、取り急ぎ日本限定とします(日本限定といっても、アートシーンは日本だけ孤立して存在しているわけではないので、それらは海外の動向と密接に連動しているはずです)。

以下、ネットでパッと出てきたものをサンプル的に挙げますが、それだけでも結構いろいろなことが見えてきます。テーマの力点が、科学・歴史・芸術のどこに置かれているかも様々ですし、科学といっても「科学史」寄りなのか、それとも最先端のサイエンスなのかでも、違いが生まれます。歴史の対象領域も広くて、世界史があれば、日本史もあり、古代・中世があるかと思えば、ルネサンスあり、近現代あり。さらに芸術に関しも、伝統工芸、古典絵画、現代美術、ポップアートと幅が広いです。それらを組み合わせると、まこと世に展覧会の種は尽きまじ。

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それでは、開催時期の順に挙げていきます。(項目は、タイトル、参考画像、会場、会期、URL、主催者解説の順です。引用文中の太字は引用者)

■日輪と月輪:太陽と月をめぐる美術

(図録表紙)

〇サントリー美術館(東京)
〇1998年9月1日~10月11日
〇関連サイトなし(1990年代以前はネットに情報の蓄積が乏しいです)

 「古来、人間は、太陽と月にさまざまな思いを託してきました。昼と夜、陽と陰など、その組み合わせは、古代から現代まで、この世界を律するものとして崇められてきました。我が国でも、月見の宴や、各地の祭礼など、太陽や月をめぐる風習は多く残されています。

 美術においても、宗教美術をはじめ、水墨画や絵巻、近世の屏風絵など、太陽すなわち日輪と、月の姿である月輪は、古くから芸術家にとって格好の題材となりました。手箱や硯箱などの蒔絵の意匠や、武将が身につけた甲冑武具の前立や軍扇、さらには刀の鐔や女性の身につける櫛かんざしに至るまで、時代や材質形状を問わず、その様相はきわめて多彩です。

 この展覧会は、日月すなわち日輪と月輪が描かれた絵画や、太陽や月をかたどった工芸を一堂に展示し、日月が芸術の世界でどのように表現されてきたかをさぐろうとするものです。思えば、太陽と月は、太古の昔から人間の営為を見守って来ました。この展観によって、日月が芸術の中に占める位置とその意味を、美術作品を通して改めて見直す機会となれば幸いです。」<図録巻頭「ごあいさつ」より>


■天体と宇宙の美学展


〇滋賀県立近代美術館
〇2007年10月6日~11月18日

 「地球上の生命の源である太陽、満天の夜空に輝く星や月、無限に広がる宇宙空間に漂う銀河系。宇宙の神秘と謎はたえず人間の魂を魅了し、人々の想像力をかき立ててきた。古代より星辰の運行は、航海や牧畜、農耕などの日々の労働と生活に密接に結びつき、また惑星と黄道十二宮は、人間の性質や運命に多大な影響を及ぼすと考えられてきた。近代以降、天文学がめざましい発展を遂げ、宇宙に関する知識は飛躍的に拡大深化したが、それでもなお宇宙は人間にとって、無限の謎を秘めた存在であり、今なお人々は夜空を見上げ、星や宇宙に思いを馳せている。

 この展覧会は、近現代美術を中心に、太陽と月、惑星や恒星、銀河などの天体と宇宙を主題にした美術作品を、絵画、水彩、版画、写真、立体作品など、さまざまな分野から155点選び、芸術家が、天体や宇宙をどのように思い描き、作品の中にどのような夢を託してきたのか、天文学からいかなる影響を受けてきたのかなど、人間と天体、人間と宇宙の関わりを美術の中に探る試みであった。」


■七夕の美術―日本近世・近代の美術工芸をみる


〇静岡市美術館
〇2012年6月23日~7月22日【前期】、7月24日~8月19日【後期】

 「「笹の葉さらさら」「短冊」「織姫と彦星」…。七夕伝説は「乞巧奠(きっこうでん)」という、古代中国の魔除けの風習に端を発しています。本展では日本の近世・近代の絵画、工芸などにより、儀礼としての七夕、日本独自のもう一つの七夕・天稚彦(あめわかひこ)物語の絵巻などにより人々の「星に願いを」という思いをお届けします。」


■ミッション[宇宙×芸術]-コスモロジーを超えて


〇東京都現代美術館
〇2014年6月7日~8月31日
 「21世紀最初の10年が過ぎ、私たちをとりまく「宇宙」はますます身近なものになりました。研究開発の進むリアルな宇宙と、アーティストの表現としての内的宇宙は、パラレルワールド=並行世界として急速に拡張/集束しつつあります。本展では、2014年夏の宇宙ブームにあわせて、限りなく私たちの日常に近づく宇宙領域と、アーティストらによる内的宇宙を、個々のコスモロジー=宇宙論を超える多元的宇宙として呈示します。

 日本において戦後すぐに始まったアーティストらの試みは、現代作品(パーティクル=粒子や宇宙線による作品、人工衛星によるサテライトアートなど)として展開を続けています。約10年にわたりJAXAが実施した『人文・社会科学利用パイロットミッション』など、世界的にも先駆的かつ意欲的な活動が試みられてきました。また近年、小惑星探査機「はやぶさ」帰還と同2号機打ち上げ、大規模な博覧会や展示施設のオープン、種子島宇宙芸術祭プレイベントなど、宇宙領域は社会的ブームとして活況を見せています。本展は、アートインスタレーション、人工衛星やロケットの部品(フェアリング)などの宇宙領域資料、宇宙にかかわる文学、マンガやアニメーションなどエンターテインメント領域、参加体験型作品の展示やトーク&イベントを通じて新たな可能性を探り、「拡張/集束する世界をとらえ、描写する」試みです。かつてのような異世界や理想郷としてだけでなく、本当の意味で「日常」となる私たちの「宇宙」について体験し、考えてみましょう。」


■明月記と最新宇宙像


〇京都大学総合博物館 
〇2014年9月3日~10月19日
 「藤原定家の残した日記「明月記」の中には、安倍晴明の子孫の観測した超新星(客星)の記録3件が記載され、20世紀前半の世界の天文学の発展に大きな貢献をしました。
 本特別展では、明月記の中の超新星の記録が、いかにして世界に知られるようになったか、最近明らかになった興味深い歴史と京大の宇宙地球科学者たちとのつながり、さらに関連する最新宇宙研究について解説します。」


■宇宙をみる眼―アートと天文学のコラボレーション


〇志賀高原ロマン美術館(長野県)
〇2015年7月18日~10月12日
 (※コラボした国立天文台野辺山宇宙電波観測所のサイトです)

 「天文学は、宇宙の起源や系外惑星などの研究の急激な進展によって、人間が誰でも思い描く根源的な疑問、すなわち「私たちがなぜここにいるか、私たちがどこからきたか?」といった疑問について、答えることが出来るような時代に入ってきた。この意味で以前にもまして、天文学と芸術とのつながりを模索することは意義があると考えられる。

このような試みの1つとして、「志賀高原ロマン美術館」では、2015年7月18日~10月12日まで、企画展「宇宙を見る眼、アートと天文学のコラボレーション」を開催している。そこでは、「アーティスト・イン・レジデンス in 国立天文台野辺山」の事業としてアーティストが国立天文台野辺山宇宙電波観測所に滞在して得たインスピレーションを反映した全5作品と、長野ゆかりのアーティストによる「宇宙」の作品が展示されている。

この「アーティスト・イン・レジデンス」という活動は、アーティストを地方自治体や研究機関などに数日から数ヶ月招聘し、滞在中の活動を支援する事業であり、本年5月に、国内の天文学研究機関としては初めて、国立天文台野辺山で実施された。これらの作品と共に、現在大活躍中のチリのアルマ電波望遠鏡用の受信機や国立天文台野辺山で実際に使用されていた受信機、東京大学木曽観測所で実際に使用された可視光や赤外線のCCDカメラなどを展示し、人や観測装置による「眼」を通した多様な宇宙像を提示している。

わたくしたちは、このような天文学と芸術にわたる活動自体を新しいアート・天文教育の創造の場ととらえ、冒頭の疑問への答えをさぐれるよう、今後も活動を続けていきたい。」
(改行は引用者)


■宇宙と芸術展


〇森美術館(東京)
〇2016年7月30日~2017年1月9日

 「〔…〕宇宙は古来、人間にとって永遠の関心事であり、また信仰と研究の対象として、世界各地の芸術の中で表現され、多くの物語を生み出してきました。本展では、隕石や化石、ダ・ヴィンチやガリレオ・ガリレイ等の歴史的な天文学資料、曼荼羅や日本最古のSF小説ともいえる「竹取物語」、そして現代アーティストによるインスタレーションや、宇宙開発の最前線に至るまで、古今東西ジャンルを超えた多様な出展物約200点を一挙公開。「人は宇宙をどう見てきたか?」、「宇宙という時空間」、「新しい生命観―宇宙人はいるのか?」、「宇宙旅行と人間の未来」の4つのセクションで構成し、未来に向かっての新たな宇宙観、人間観を提示することを試みます。2016年夏、六本木を宇宙の入り口として「私たちはどこから来てどこへ向かうのか」を探る旅となる本展にご期待ください。」


■天文学と印刷 新たな世界像を求めて


〇印刷博物館(東京)
〇2018年10月20日~2019年1月20日

 「ニコラウス・コペルニクス、ティコ・ブラーエ、ヨハネス・ケプラー、天文学の進展に大きな役割を果たした学者と印刷者の関係を紐解きます。

 天動説から地動説(太陽中心説)への転換が起こるきっかけとなった『天球の回転について』。著者であるコペルニクスの名は知られている一方、本書の印刷者を知る人は少ないのかもしれません。15世紀のヨーロッパに登場した活版および図版印刷は、新たな世界像を再構築していく上で大きな役割を果たしました。学者と印刷者は共同で出版を行うのみならず、学者の中には自ら印刷工房を主宰した人物も存在します。本展では学問の発展に果たした印刷者の活躍を、天文学を中心に紹介します。」


■「星とアート」展―星を忘れない。天空のイメージ―


〇西脇市岡之山美術館(兵庫県)
〇2019年8月4日~12月1日

 「夜空に輝く星の姿は、天空の太陽、月、天の川、さらには雲や山、海原などの地上とからみあう風景的なものと深く関わり、古来から様々なかたちで人々の想像力を刺激してきました。とりわけ夜空に輝く星座のかたちには、神話、物語、伝説の登場人物、聖獣と聖なるものの形象がそこかしこに投影されました。星の姿かたちは、アートの世界に刺激を与え、時代をこえて綿々と語り継ぐ重要な対象となっています。

 本展覧会は、星空を彩るイメージの佇まいに注目し、天空の星を作品のテーマに据えた多彩な作品を一堂に紹介します。幸村真佐男による天体の軌跡の写真をはじめ、日本古来の星座神話の研究で知られる国文学者勝俣隆による星の神話をめぐるドローイングの仕事、星、天使、妖精たちのヴィジョナリーな世界を描く寺門孝之、デリケートな感覚と筆触で月と風景を描く増田妃早子、星空やはるかな宇宙の佇まいと生活風景との予想外の結びつきを取り上げた中山明日香、天体と風景、星と自然とのきずなを深く意識した作品で知られる片山みやびによる多彩な表現を通じて、星とイメージをめぐる人間の想像力とアートの魅力に迫ります。」

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とりあえず資料としてズラズラ並べましたが、ここから何を導くか?

まっ先に思ったことは、こうした「学際的」展覧会が、2000年代以降盛り上がりを見せた(らしい)ことと、2006年にスタートしたこのブログとは、おそらく無縁ではないということです。つまり、時代にひそむ「何か」が、一方で数々の展覧会として形を成し、他方では(規模こそ全く違いますが)私という人間に「天文古玩」というブログを書かしめた…と、想像するのですが、その「何か」が何であるは、これからゆっくり考えます。

当人は「書かされた」意識がまったくないんですが、文化的影響力とはそういうもので、人間の自由意志も、100%何物からも自由ということはありえないですね。