夜と昼の幻を追って2023年05月28日 11時25分50秒

(昨日のつづき)

しばらく前に見つけた、「ちょっと変わったもの」とは、これです。


世の中には「絵の絵」もあるし、「写真の写真」もあるので、「幻灯の幻灯」があってもちっともおかしくはないですが、これまで類例を見たことがないので、一瞬虚を突かれました。「幻灯」といい、「マジックランタン」といい、要は「夢幻の映像」の謂なのでしょうが、夢幻の映像の向こうに、さらに夢幻があることの不思議さに、何だか頭がぼんやりとします。

このスライドが、いったい何のために作られたかは不明です。
あるいは天文学史の授業や、スライドの進化を説明する講義で使われたのかもしれません。いずれにしても、当時(このスライドは1940~50年代のイギリス製のようです)、木枠に収まったヴィクトリア時代の幻灯は、すでに遠い過去の存在であり、こうしてスライドで紹介するに足るものと見なされていたのは確かでしょう。

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被写体の細部に注目してみます。


この幻灯は、昨日登場したものと同じです。


まあ「同じ」といいながら、比べてみると絵柄の違いが目立ちますが、


木枠に貼られたラベルを見ると、両方とも、「〔MOVABLE〕 ASTRONOMICAL SLIDERS. NO.7」という同じタイトルを持ち、その下の解説も同文ですから、要は同じ製品の別バージョンなのでしょう。

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形あるスライドは真であり、そこに写った映像は幻なのだ…と頭では理解しても、こうして新旧ふたつのスライドを並べると、徐々に真と幻の境が曖昧となり、頭はますますぼんやりするばかりです。

コメント

_ S.U ― 2023年05月30日 06時19分41秒

私の推測ですが、おそらく、これは、古美術商が営業に持ち歩いた「骨董品カタログ」ではないでしょうか。教材カタログ説を否定するものではありませんが、私の記憶では1970年頃の日本で、何ということはない(無名と思われる)壺やアンティーク家具が写っている何十枚というスライドセットを見たことがあるように思います。カラーでした。

 今、思いついて、ネット検索で、「"アンティークカタログ” 幻灯スライド」などで画像検索してみましたが、現在では幻灯スライド自体がアンティークだったり、天文古玩さんやメルキュールさんのコレクションが引っかかったりで公平に望む物は出てきません。"lantern-slide catalogue of antique products"でも、スライドや幻灯機本体が骨董になっているため、うまく機能しません。どうすりゃいいんじゃ、これは。

_ 玉青 ― 2023年06月01日 20時09分43秒

おお、これは新説登場ですね。

ただ、文字通りの「骨董品カタログ」というのは、いくぶん不審な点があります。というのは、カタログ用ならば写真の方がはるかに簡便だし、取り扱いも楽でしょうから。これがスライドであるということは、とりも直さず多くの人に同時に対象を見せる必要があったからで、S.Uさんの説をさらに発展させて、これは売り立て(オークション)の会場で、参加者にモノを示すために使ったんではないか…という第3の説を提示したいです。

すなわち、「さあ、お次はオークションナンバー107、ロット番号76、地球の自転を映す歯車式の古い幻灯です。まずは15ポンドから始めましょう。いかがですか?…はい、手が上がった。20、25…もういませんか?はい、7番の方、25ポンドで落札」…みたいな場面で使われたんじゃないでしょうかね。

もちろん狭い会場なら、直接現物を見せれば用が足りるんですが、広い会場だとそんな工夫もあったんじゃないかという、これは昔のオークション風景を知らない者の勝手な憶測に過ぎませんけれど、そんなことを想像しました。(白黒というのが一寸気になりますが、オークションには事前に下見会があるので、モノがどんなモノかは参加者もよく承知しているはずで、投影するのが白黒画像でも一向に構わないわけです。)

_ S.U ― 2023年06月02日 06時02分16秒

なるほど、オークション会場でのディスプレイ用ですか。ありそうですね。
まあ、それも広い意味での骨董カタログに含めて下さればありがたく存じます。

 現在では、オークションカタログが、ネットの画像として、また一部では印刷物、雑誌として出回っていると思います。過去がどうなっていたのかは興味はありますが、私が研究できる範囲外のことになりますので、ここは、写真技術の普及の面から宿題として考えておきたいことが2つほどあります。

1)モノクロ、カラーのそれぞれにおいて、スライド(リバーサル)と写真(印画紙プリント)の発達、普及(価格)状況の変遷の比較。

2)商品の営業に利用されたスライドの探索。

 確信があるわけではありませんが、ひょっとすると、バライタ印画紙やグラビア印刷をして配布するよりも、スライド転写かリバーサルフィルムに仕上げて幻灯機で演示して回るのが手軽だった時代もあった可能性があるのではないかと考えます。

_ 玉青 ― 2023年06月03日 12時41分49秒

見どころの多い、過去への旅を私ものんびり続けるつもりです。
S.Uさんにおかれましても、独自の視点でのご考究につき、また「旅の土産話」のご披露をどうぞよろしくお願いいたします。

_ ofugutan ― 2023年06月03日 14時59分14秒

過去が時間の積み重なりで現在に至っていることを感じさせる、面白いアイテムですね!

メカニカルな幻灯スライドは初めてみたときに凄く魅力を感じ、絶対手に入れたいと、思い入れのある蒐集品なのですが(しかしNO.7はタッチの差で入手できず…代わりに手にしたのがNO.2)。

わざわざ、これを紹介するための幻灯スライドが作られたということは、当時から魅力を感じる人が多かったのかもしれませんね。

最近、ロウソク仕様の古い三球儀を逃したのでへこんでたのですが。興味深い話をお聞きすると、少し蒐集のモチベが戻ってきます。

_ 玉青 ― 2023年06月04日 10時38分14秒

そういえば、ofugutanさんのご所蔵品は、先日実演されたのをディスプレイ越しに拝見しましたね。ちょっと文脈は異なりますが、100年ちょっと前にも、あんなふうに聴衆が固唾を呑んで見守る前で、演者が言葉巧みに天文学の講義をしていたんだなあ…と、心はいつか過去に飛んでいました。そして半世紀あまり前にも、人々は別の場所で過去の遺物に憧れの目を向けて、ぜひ我が物にしたいと念じたのかも知れませんね。まさに時間の積み重なりです。そしてofugutanさんも、私も、間違いなくその一コマなのでしょう。

古い三球儀、残念でしたね。
私にとっても憧れですが、なかなか懐に余裕がないので、夢を果たせずにいます。ぜひ素敵な品を手元に引き寄せられますように!(私もいつか!)

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