彗星酒場に夜はふけて ― 2017年07月21日 21時00分41秒
うん、こいつはいけるね。キリッと冷えてて…第一飲み口がいいよ。
ノドにもガツンと来るしな。
狭い了見かもしれないけど、こういうのを飲むと、やっぱり枝豆に合うビールこそビールだなあ…としみじみ思うね。でも、バルセロナにも枝豆はあるのかしら?
ふん、なければ輸出するまでさ。まあ枝豆も悪かないが、そろそろグラスの中身を替えないか?
いいね。
お前さん、ウィスキーはいける口だっけ?
うん、好きだよ。
よし、それならこれでいこう。
おや、これは?
「コメット・ウィスキー」。本場ケンタッキーのバーボンさ。しかも、こいつはただのバーボンじゃないぜ。
何だか気を持たせるね。
こないだ、こんな本を買ったのさ。
(Martin Beech, 『The Wayward Comet: A Descriptive History of Cometary Orbits, Kepler's Problem and the Cometarium (気まぐれな彗星 ― 彗星軌道・ケプラー問題・コメタリウム全史)』、2016)
へえ、なんか面白そうじゃない。
そのイントロダクションに、このウィスキーのことが出てくる。
え、じゃあ、これって何か現実の彗星と関係してるの?
そうらしい。そもそも、この「バーンハイム・ブラザース」っていうのは、1889年から1919年までバーボンを作ってたんだが、その後、禁酒法の時代になっても、医療用として特別にアルコール製造を認められていた数少ないメーカーの1つでね。そこらへんも、ちょっと一筋縄でいかない感じだろう?
へえ。
で、この1889年から1919年という年代で彗星といえば…
あ、1910年のハレー彗星か。
その通り。で、1910年のハレーといえば、例の彗星騒動で「世界最後の日」に便乗した悪乗り商品がいろいろ出た時期でね。最期の時を陽気に過ごそうと、呑み助は酒場に集って、「俺はハレー・ハイボール」、「僕は青酸フリップ」、「こっちはコメット・ウィスキーを頼む」と、大いに気炎を上げたのさ。
なるほどなあ、末期の酒ってわけか…。まあ、連中は理由を見つけちゃ呑むからね。
ははは、お前さんも他人のことは言えないよ。
確かに。じゃ、僕たちも大いに気炎を上げようか。でも、何に対して?
世界の復活のために―でいいさ。
よし、じゃあ世界の復活のために、乾杯!
乾杯。
★
こうして上の2人は勝手なことをしゃべりながら、バーボンを痛飲し、翌日は再びお酢ドリンクの世話になるのですが、まあ酔っぱらいは放っといて、ちょっと補足します。
文中に出てきたマーティン・ビーチの本は、コメット・ウィスキーを検索していたら、たまたまヒットしました(「The Wayward Comet」で検索すれば、Google ブックスでも読めます)。
上の青い人は多少話を盛っていますが、コメット・ウィスキーが彗星騒動の渦中で愛飲されたことは、たしかに事実らしいです。ただ、メーカーがそれを当て込んで、わざわざコメット・ウィスキーを売り出したのか、たまたまこのブランド名が同時代の酒徒に受けたのかは、イントロダクションを読んだだけでは、よく分かりませんでした。
なお、メーカーのバーンハイム・ブラザースについては、創業者「Isaac Wolfe Bernheim」の名前が、英語版Wikipediaの項目になっています。何でも、有名な「I. W. ハーパー」を作ったのも元は同じ人で、「I. W.」とは、バーンハイムのイニシャルから採ったのだそうです。(参照:https://en.wikipedia.org/wiki/Isaac_Wolfe_Bernheim)
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