理科室アンソロジー(8)…ダレル&ダレル『ナチュラリスト志願』2006年10月21日 08時36分47秒

(ファーブルの部屋。本書より。)

いよいよ、理科室アンソロジーの第1期完結です。
昨日は化学系理科少年の部屋をのぞきましたが、今日は生物系理科少年の部屋です。

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○ジェラルド・ダレル、リー・ダレル著 『ナチュラリスト志願』
 (TBSブリタニカ、1985)より

「彼ら〔=家族〕は私に動物を飼うための特別の部屋をくれた。この部屋は寝室 兼 博物館 兼 小動物園になった。それは一階にある大きな部屋で、フランス窓からそのまま庭へ出ることができた。

一方の壁にそって水槽を置き、私はタツノオトシゴ、トンボの幼虫、ヤドカリ、水生の甲虫、カエルやヒキガエルの卵といった淡水産や海水産の生きものを飼った。それらの隣には正面をガラス張りにした木箱がいくつか並ぴ、中にはヘビ、ヒキガエル、カエルが収容されていた。

〔…中略…〕

この壁の向かい側の壁には、蝶や蛾や甲虫やトンボのコレクションを収納した、上側がガラス張りの木製キャビネットがびっしりと並んでいた。これらのキャビネットは、私自身の設計にしたがって村の大工さんが作ったものであった。その大工さんと二、三日値段の交渉を重ねたあげく、やっと私が納得のいく値段で折り合いがついたのである。私は、ワインのコルク栓(私の家でこれがなかったためしは一度もない!)を縦に半分に切ってキャビネットの底に敷き並べ、それに標本をピンでとめた。

部屋の一方の端にはベッドが置かれ、また迷惑なことに、母が私の衣服を収納する衣装だんすを置いてくれた。これは貴重な空間のはなはだしい浪費であると私は思ったのだが、魚釣り用の綱と捕虫網の全部、保存用のエーテルとアルコールの小さなたる、剥製に使う麻と綿の入った箱をベッドの下に置くことで、それを補った。

衣装だんすには(衣服をすべてぎゅっと押し詰め)かろうじて、キャンバス地のバッグに入った特別製の採集箱をつるすだけの空間を手に入れた。採集箱はどれも内部が細かく仕切られていて、さまざまな大きさの試験管、小さな缶、広口びん、動物を殺す毒びん、ピンセットなどのほかに、田舎での散策に重要な同様の道具が収められていた。

部屋の中央には大きなモミ材のテーブルが置かれ、その上で顕微鏡をのぞいたり、昆虫を固定したり、解剖や剥製づくりを行なった。テーブルには、つねにもっとも新しい掘り出しものの入った容器を置いておき、作業をしている間もながめられるようにしていた。もちろん、私のささやかだが貴重な書物のコレクション、特にダーウィンとファーブルの本のための書棚もあった。

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つい引用が長くなりましたが、生物好きの少年の伸びやかな暮らしぶりがよく伝わってきます。著者の1人、ジェラルド・ダレル(1925~1995)が少年時代を過ごした、ギリシャのケルキラ島での思い出です。さながら著者の敬愛するファーブルの部屋の小型版。

コーヒー瓶、ジャム瓶、イチゴパック、菓子の空き缶など、手近なものであれこれ工夫して、飼育容器や標本箱を作って得々としていた、自分の子ども時代も思い合わされます。

澄んだ水の底にゆらぐ光の波紋。水草に潜む川蝦の透き通った体。雑念もなく生き物と向き合った、あの透明な日々…

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