空の旅(11)…コペルニカン・アーミラリー2017年04月30日 11時43分12秒

下は以前の記事に使った写真の使い回しです。


似たような写真は、これまで何回も登場していて、たいていは人体模型が話題の主でしたが、今日の主役は、その脇にチラッと写っているもの。


1786年に、フランスのデラマルシュ(Charles François Delamarche、1740-1811)が製作したアーミラリー・スフィアのレプリカ。

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「アーミラリー・スフィア」と称する品は、今でも売られていて、きっとアメリカのホームセンターに行くと、たくさん並んでいることでしょう。

(eBayで売られているアーミラリーの例)

それらは、単なるインテリアやエクステリアの飾り物と化して、もはや実用性を失っていますが、本来のアーミラリー・スフィアは、天体の位置変化を視覚化する一種の小型プラネタリムであり、星の位置を知るアナログ計算機として、また人が中から覗けるぐらい大型のものは、天球上での星の位置を見定める観測器具として、古代から使われてきました。


伝統的なアーミラリー・スフィアは、地球を中心に天球の回転を表現していますが、この品では太陽を中心に置き、その周辺を惑星が回転する様を表現しています。

この種のものを、地動説を唱えたコペルニクスにちなみ、「コペルニカン・アーミラリー」と呼びます。(同様に、伝統的なアーミラリーは、プトレマイオスにちなんで、「プトレミック・アーミラリー」と呼んでもいいのですが、あまりそういう言い方はしないようです。)

(太陽の周囲を回る水星、金星、地球、さらに地球の周りを月が回転している様を表現しています)

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「空の旅」も徐々に時代が下って、今日は18世紀のパリ。


バロック科学の精華と風格を感じさせるこの品、レプリカとしてはなかなかよく出来ていて、オリジナルの雰囲気を十分醸し出しています。

フランス南部の町にある工房で作られたもので、工房の主は「これは有名な映画の小道具にも使われたんだぞ」と自慢していました。

その映画とは、2007年に公開された『パフューム』で、私は観てないんですが、18世紀のパリを舞台に、異常な嗅覚を持った調香師を主人公とする、猟奇と耽美の世界を描いた暗いムードの映画だそうです。

で、その主人公が勤める店内の、薬品や香料がずらりと並ぶ一角に、何となく妖しのムードを漂わせるアーミラリーが置かれていて、それと同じものが我が家にもあるというわけです。


昔のパリの調香師の店に、本当にアーミラリーが置かれていたかどうかは分かりません。映画の世界だけのことかもしれませんし、実際に置かれていたとしても、単にムード作りの小道具なのかもしれません。

そうなると、この宇宙の真理を教えてくれる、優れて学理的な品も、アメリカの郊外住宅の庭先に置かれたデコレーションと、その性格において、あまり違いがないことになります。でも、それを言い出したら、私の部屋に置かれているそれだって、ムード作りの小道具の域を出るものではありません。

まあ、所有者の理解の程度はさておき、人間が昔から宇宙に憧れ、宇宙的なイメージを漂わせるものを手元に置いて、常に愛でたいと思ってきたことは、間違いのない真実でしょう。