社会貢献2題2020年10月25日 12時16分05秒

ブログの更新が止まっても、「天文古玩」的活動が止まることはないので、いろいろ見たり、聞いたり、考えたり、買ったりすることは続いています。ただし、書くことだけは止まっている…そういう状態です。

まあ、書くにしたって、内向きのつぶやきばかりでは、あまり社会的活動とは言えませんが、「天文古玩」も、ときに社会に向けて開かれた活動をすることがあります。

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たとえば、寺田寅彦に触れた8月の記事。

明治科学の肖像

あそこで紹介した東大の古い卒業写真の複製パネルが、現在、高知市の寺田寅彦記念館に飾られています。記事をご覧になった、「寺田寅彦記念館友の会」の山本会長からお問い合わせをいただき、画像ファイルを提供したものです。

(友の会会報 『槲(かしわ)』 第89号より)

山本氏によれば、この時期の寅彦の写真、しかも正面向きの像は珍しい由。そう伺うと、なんだか有難味が増しますが、私一人が有難がっていてもしょうがないので、これは寅彦ゆかりの場所で、多くの寅彦ファンの目に触れるのが正解です。(もちろん現物を寄贈すれば、なお良いのですが、そこは趣味の道ですから、今しばらくは手元で鍾愛することにします。)

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もう1つはアートに関する話題です。

今年は各地で展覧会の休止が相次ぎましたが、そんな中にあって、苦労の末に開催まで漕ぎつけたのが、横浜美術館で開催された横浜トリエンナーレ2020です(会期:2020年7月17日~10月11日)。

そこに私が多少かかわった…というのも謎ですが、さらにこの現代美術の祭典に、ヴィクトリア時代の天文家、ジェイムズ・ナスミス(1808-1890)が、アーティストとして参加していた…と聞くと、いっそう訳が分かりません。その分からないところが現代美術っぽいわけですが、事情を述べればこういうことです。

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ナスミスは、月に強い関心がありました。
そして望遠鏡で覗くだけでは飽き足らず、石膏で月面の立体模型をこしらえる作業に熱中しました。月の地形をいろんな角度から眺めたかったのでしょう。実際、彼は出来上がった模型をいろいろな角度から撮影して、「月面に立って眺めた月の光景」を仮想的に生み出し、それを本にまとめました。それが『THE MOON』(初版1874)で、これについては昨年記事にしました。

ナスミスの『月』

今ならCGでやることを、19世紀のナスミスは模型という形で実現したのです。
そして、ナスミスの奔放な想像力が生み出したこれら一連の作品と、その営為が、現代アートの先蹤と捉えられ、晴れて「ヨコトリ」に登場となったわけです。

今回、ナスミスに目を留めたのは、イベント全体のディレクターを務めた「ラクス・メディア・コレクティブ」(ニューデリーを拠点にするアーティスト集団)であり、ナスミスの作品――『THE MOON』所載の図を拡大出力したもの――は、「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」をテーマとする本展覧会の、いわば「プロローグ」として、会場入口付近に並べられたのでした。

(内山淳子氏撮影。以下も同じ)


で、私が何をしたかといえば、手元の『THE MOON』を主催者にお貸ししただけで、結局何もしてないに等しいのですが、それでも説明ボードの隅に、「「天文古玩」コレクション “Astrocurio Collection”」という文字を入れていただき、「どうだ!」と、家族の手前、大いに面目を施したのでした(いじましいですね)。

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夏炉冬扇といい、無用の用といい、無駄なように見えてこの世に無駄はないものです。
大地に生物地球化学的循環があり、あらゆる生物がそこに参画しているように、「天文古玩」もまた、この世における作用者として、なにがしかの意味と機能を有しているのでしょう。

コメント

_ S.U ― 2020年10月26日 08時28分47秒

いいですねぇ。

 ナスミスの月面模型は、解説板を読まない人に、模型という発想が浮かびますでしょうか。実写かCGだと思う人がほとんどだと思いますが、レトロな雰囲気を感じることのできる人には、これはおかしいと見破られるかもしれません。お客さんに尋ねてみたら、芸術的鑑識眼の試金石になりそうで面白いです。

 ここに展示されている月面の写真は、全体像や月面に観察者がいるものも含めすべて模型なのでしょうか。

_ 玉青 ― 2020年10月28日 06時11分24秒

ええ、いいでしょう。(^J^)

>すべて模型

ここはひとつ「答」を抜きに、現実と幻想のあわいを彷徨う感覚を、S.Uさんにぜひ味わっていただければと思います。(例の本はまだ返還途上なので、実は私にも「答」が分からないんですよ。)

_ S.U ― 2020年10月28日 08時55分50秒

では、「客観的な答」はここでは求めないことにしますが、依然として「お客さんの主観的な答」は気になります。その前提として、解説板には「答」が説明されているのでしょうか。

 と思ったら、例によって「バーチャルツアー」がありました。

https://www.yokohamatriennale.jp/2020/tour/yma/

案内図から、3Fの「ジェイムス・ナスミス」をクリックすれば展示が見られますが、解説板の文字は読めそうで読めないようで読めそう・・・

_ 玉青 ― 2020年10月30日 06時59分56秒

うーむ、これは読めなそうで、読めそうで、やっぱり読めないですねえ。(^J^)
ここはしばし、現実と幻想の、そして客観と主観の「あわい」をたゆたうことにしましょう。

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