天文古玩の世界への招待(5)…星座早見盤、絵葉書、シガレットカード2006年02月01日 06時28分05秒


 星座早見盤は、スターホイールの名でも知られ、多くの書店や博物館で買うことができる。ふつうは厚紙やプラスチックで出来ていて、任意の日付と時間における星座を表示できるよう、円形の可動式の星図が付いている。星座早見盤は古代のアストロラーベから進化したものであり、後者は祈祷の時間を決定するため中東諸国で使われた。数年前、私は1920年頃にさかのぼるハメット社製の星座早見盤を手に入れた。表面はダークブルーと黒色、そこに白い星や、金文字、豪華な装飾があしらってある。裏面には説明文のすぐ上に「ジャッキーへ、サンタより」という書き付けがある。これは長い間忘れられていたクリスマスの楽しい思い出の品なのだ。

 実に様々な天文学の形見の品々が、骨董市やオークションには現れる。最近、東部諸州博覧会で催された骨董市で、私は絵葉書業者のブースをいくつか回り、天文台や天体の描かれた古いカードを探した。20世紀初頭にさかのぼる絵葉書の大部分は、1ドルから3ドルという、まだ非常にリーズナブルな価格である。ある業者は年代物の立体写真をすすめてくれたが、その中にも天文学をテーマにしたものがあった。

 19世紀末から20世紀初頭にかけて、タバコの箱の中に(後にはティーバッグの箱にも)しばしば小さなカードが入っていた。天文学も含め、多くのテーマを扱う、それこそ何千というシガレットカードのセットが発行された。そのリトグラフィー(石版画)の質の高さは、しばしばため息が出るほどである。1930、40年代の果物箱やシガーボックスのラベルも、色刷り石版画の見事な例であり、シガレットカードと同様、今や恰好の収集の対象となっている。

 我々は現在ハイテクによる天文学研究と新発見の黄金時代に生きている。そして、だからこそ、こうした過去の世代の科学機器や、古書や、思い出の品々を観賞することで、我々のルーツを再確認する喜びは一層増すのだと思う。

 ここに掲げた20世紀初頭のシガーボックスラベル〔図版省略〕は、有名なイギリスの天文学者、エドムンド・ハレーを描いている。彼は後に自分の名前がついた彗星が太陽の周りを76年周期で回っていることを発見し、1758年の回帰を予言した。

(サンダーソン氏のコラムは今回で完結です。)
(写真はイメージです。)

天文古玩の世界への招待(6)2006年02月01日 20時01分07秒


 以上、リチャード・サンダーソン氏の天文コラムをご紹介しました。

 真鍮製の望遠鏡、オーラリー、天球儀、アストロラーベ、古書、星座早見盤、絵葉書、シガレットカードなど、何とも魅力的なアイテムの数々です。

 観望機材にかけるお金の一部でも、こうしたモノに回せば、天文趣味もまた別の滋味を発揮するのではないでしょうか?

化石の売買2006年02月02日 20時58分39秒

(かつての宝物。今はくつろいだ表情で余生を送る…)

天文の話はお休み。少し目先を変えます。

たぶん昭和時代を生きた元・理科少年は、「流通革命」ということを肌で実感されていることと思います。

昔、化石や鉱石は、本当に貴重でした。

老舗の販売店は当時も営業していたはずですが、当時の少年少女には遠い遠い存在で、そうした店があることすら知りませんでした。

アンモナイトや三葉虫は図鑑の中でしかお目にかかったことがなく、その化石は途方もなく高価で、発見されればすぐ博物館に収められるのだ、と素朴に信じていたのです。

たまたま近所に化石産地があれば、「新生代の広葉樹の葉」や「新生代の貝」は手に入ったでしょうが、それ以上のものではありませんでした。

時代が平成になってからでしょうか。様相が変わったのは。東急ハンズあたりで化石を売るようになって、「化石は誰でも買えるんだ!」という驚きを味わいました。

今ではどこのミュージアムショップでも小学生のお土産用に、三葉虫やアンモナイトの化石を売っています。街には鉱石ショップが林立し、かつての稀品がバーゲン品になって売られています。

良いこと、なんでしょう。たぶん…。しかし、有り難味が薄れたのは否定できません。

それにしても、ああいった商品の流通経路(産地から小売店まで)はどうなっているんでしょうか。その点は今でも謎めいた雰囲気を感じます。

鋼鉄の巨人2006年02月03日 20時35分31秒


19世紀の後半から始まる巨大望遠鏡の建設ブーム。

そこで生み出された黒々とした巨人達には、現代の「すばる望遠鏡」とは異質の、重厚な存在感があります。なんとなく宮崎駿監督の作品に出てきそうな趣もあります。

「新時代の夜明け!」「科学の勝利!!」といったアナクロなスローガンがぴたりと添う感じです。

写真はカリフォルニアのリック天文台 91cm屈折(1888完成)。

ちょっとチープな彩色が時代を感じさせます。
それにしても凄い迫力…

ヤーキス天文台2006年02月04日 06時48分22秒


ヤーキス天文台 101cm屈折(1897完成)

ウィスコンシン州のヤーキス天文台の内部です。
こちらも堂々たる「鋼鉄の巨人」です。

周囲には見学者(学校の生徒のようです)が群がり、この驚異の新技術に見入っています。

こういう望遠鏡が実際に動くさまはどんなのでしょうか?

完成度が高ければ高いほど、滑らかに、静粛に動くはずですが、想像の世界だと、辺りを震わせながら、「ズーン.....グォゴゴゴゴ.....ドゴーン!」と重低音の唸りを上げて旋回するイメージですね。

スミスの図解天文学2006年02月04日 09時50分49秒


エイサ・スミス 『スミスの図解天文学』

Asa Smith
Smith's Illustrated Astronomy Designed for the Use of the Public or Common Schools in the United States.
New York, Cady & Burgess, 1849 (4th ed.)
68pp, 24.5x30cm

長年月のうちに、表紙はかなり傷んでいます。
しかし、中身の方なかなか見応えあり(これから順次ご紹介します)。

著者のスミスは、ニューヨーク市第12パブリックスクールの校長先生で、同じ出版社から「スミス・シリーズ」と銘打って地理学や幾何学の教科書も出している教育者。

初学者向けに、全巻見開きで片方に図版、他方に一問一答集と構成にも工夫を凝らしています。第1課は次のような問答から始まります。

問 我々がその上に住んでいる物体は何と呼ばれますか?
答 それは地球、または世界と呼ばれます。
問 古代人は地球の形についてどのような考えを持っていましたか?
答 丘や山によって凹凸した広大な平面だと彼らは信じていました。
問 なぜ彼らは広大な平面だと考えたのでしょう?
答 彼らはその見かけだけで、判断を下したからです。

……………………………………………

授業はこうして地球、月、惑星の運行を順々に説き起こし、最後に「第54課 星雲」の章で終わります。

なお、この本は早くも明治4年(1871)に、神田孟恪訳『星学図説』として日本でも紹介されています。

スミスの図解天文学(2)2006年02月05日 07時02分42秒


前日に続き、同書の挿絵から。

オーラリーと天体望遠鏡を使って授業中です。

実にいい雰囲気です。

クールなチェッカーボードの床もいいし、後ろ手を組んでピンと姿勢良く立っている生徒たちも好感が持てます。真ん中にチョコンと座った生徒は力いっぱいハンドルを回して、オーラリーの操作に集中している様子。先生も堂々として威厳があります。

ジョバンニの教室もかくやと思われますが、全員無表情なのが、ちょっとシュールな味わいを生んでいます。

みな漆黒の大宇宙を振り仰いで、粛然としているのでしょうか。

雪のペーパーウェイト2006年02月06日 21時00分18秒


今日は午後から雪でした。

あとからあとから落ちてくる雪をじっと見上げていると、自分の方が空に舞い上がっていくような不思議な気分になります。

写真のペーパーウェイトは、石川県加賀市の「中谷宇吉郎 雪の科学館」で購入したもの。

お饅頭のようなガラス塊の中に、気泡がぽつぽつと浮いているのが愛らしい。地元の工芸作家の方の作品です。

ここは湖畔に立つ静かな博物館で、併設のカフェから見た初冬の景色がいい思い出として残っています。

同館HPは http://www.city.kaga.ishikawa.jp/yuki/

スミスの図解天文学(3)2006年02月07日 06時41分16秒

太陽についての章より。

左上の図に注目。「太陽の断面図」です。

宇宙物理学誕生以前、天体の構造がどう理解されていたかを端的に示しています。当時の天文学者は、黒点の存在から、太陽の構造を以下のように推測していました。

「既知の事実に照らせば、以下の説がもっとも合理的であろう。太陽本体は不透明であり、それを透明な気体が取り巻き、その気体中には輝く雲が2層に分かれて浮かんでいる。下層の雲はより濃密で不透明であり、上層の雲はより強く輝いている。さらにその上には透明な気体が非常な高さにまで存在している。太陽が生み出す莫大な光と熱の源については不明である。類似の現象を示すものとしては電気のみが知られているに過ぎない。」

その輝く雲の「破れ目」から、その下にある太陽本体が見えているのが太陽黒点の正体だ!と考えられたのです。

「上層の雲から出る熱は、下層の雲によって遮られるので、太陽の表面は生物が住めるはずだと唱える者もいるが、これには反対意見もある。…仮に生命がいたにしても、厚い覆いに閉じ込められた彼らは、惑星や恒星の知識も持たず、広大無辺の宇宙に存在する無限の驚異とは無縁であろう。」

今思えば一種の奇説ですが、当時の知識に照らせばこれこそが合理的な結論だったわけです。さて、現代のわれわれの宇宙理解には将来どんな評価が下るのでしょうか?

同書の図版はほとんど白黒ですが、ときどきこのような彩色図版が入っています。

月光絵葉書2006年02月08日 05時30分43秒


神戸タワーから写した戦前の月絵葉書です。

「月の日三十るた見りよーワタ戸神」
「行発ーワタ戸神」


右書きのキャプションが時代を感じさせます。

神戸、月、タワー、望遠鏡…と来れば、これはいかにもハイカラな、タルホ(稲垣足穂)っぽい取り合わせ。


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THE MOONMAN

ホフマンスタールの夜景に昇った月の中から人が出てきて 丘や 池のほとりや 並木道を歩きまわって 頭の上に大きな円弧をえがいて落ちる月の中へ 再びはいってしまった その時パタン! という音がした 月の人とは ちょうど散歩から帰ってきてうしろにドアをしめた自分であったと気がついた

稲垣足穂 『一千一秒物語』 (1923)

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ちなみに同タワーの開業は大正13年(1924)。