近世の天文家は星空にロマンを見た!2008年09月23日 09時25分23秒

腹にズシンとくる本というのがありますね。
迂闊なことに、つい先日まで知らずにいたのですが、元国立天文台の中村士(なかむらつこう)氏が、今年の6月に『江戸の天文学者 星空を翔ける』という本を出されていました。

技術評論社の「知りたい!サイエンス」シリーズの1冊。文章も平易な、ごく一般向けの本ですが、中身は実に濃いです。私にはまったく初めての固有名詞やエピソードが多くて、たぶん平均的な読書人にとっても恐らくそうでしょう。これは裏を返せば、いかに近世天文学史が一般の目から遠い所にあったかということの現れだと思います。

ちょっと前、このブログでも「近世の天文家は星空にロマンを見たか?」という自分なりの問題意識について書きましたが、本書は「彼らと我々をつなぐもの、それは…いつの時代も変わらない、星空に対するロマンである」(表紙)と言い切っています。

江戸時代の観望会の様子を書いた章を見ると、本当にそうだなと肯かれます。各地を巡歴して、天文学の初歩を有料で講演して歩いた啓蒙天文家の存在などは、ただちに同時期のイギリスの巡回講演家を連想させて、おお!と思いました。

章題だけ挙げておきますが、どうですか?興味をそそられませんか?

 第1章 日本天文学の幕開けと渋川春海
 第2章 天文将軍、吉宗の登場
 第3章 浅田派天文学者と寛政の改暦
 第4章 浅草天文台と伊能忠敬の日本全国測量
 第5章 日本人を魅了した新奇な西洋天文儀器
 第6章 望遠鏡の製作と在野の天文家たち
 第7章 いつの時代も天体観望は皆の楽しみ―星空ロマン

近世天文学入門として、また同時に最新の学的水準の一端を知る本として、同好の方に。

【付記】
今、検索したら、天体写真家の林完次氏によるブックレビューが下に載っていました。
■産経ニュース・「週末読む、観る」
 http://sankei.jp.msn.com/culture/books/080907/bks0809070947003-n2.htm