千年の古都で、博物ヴンダー散歩…島津創業記念館(1)2011年10月21日 21時27分16秒

島津製作所といえば、ノーベル化学賞をとった田中耕一さんのいる会社。
で、何をやっている会社だね?…と重ねて問われると、あまり明瞭なイメージがない方もいらっしゃるでしょう。私も五十歩百歩です。

その名の通り、ここは基本的に機械メーカーです。現在は分析・計測・医用・産業の4分野にわたって、先端的な科学機器の製造販売を行っています。

しかし、天文古玩的には「理科教材メーカー」の印象が強く、実際、創業当初はそれが本業でした。まあ、当時はそれこそが「先端的な科学機器」だったので、その意味では事業へのスタンスは不変だともいえます。

同社の創業は明治8年(1875)。
創業者は初代・島津源蔵(1839-1894)。没後は息子が二代目・島津源蔵(1869-1951)を襲名し、この2人の源蔵が古都に根を張り、明治日本の科学の進歩を側面から支え続けたのでした。

その島津製作所創業の地、京都木屋町二条に建つ「島津製作所創業記念資料館」(以下、島津創業記念館)に行ってきました。ここは明治時代の木屋町本店の建物を、そのまま生かした造りになっていて、内部には古風な科学機器が詰まっています。益富地学会館に続き、ヴンダー趣味満載の場所です。

■島津創業記念館公式サイト
 http://www.shimadzu.co.jp/visionary/memorial-hall/

(リーフレットと入場券)

   ★

ところで、創業記念館に向かう途中で、そのすぐそばに立っている、島津製作所の旧本社も見たいと思ったのですが、残念ながら改装中で、見ることができませんでした。
この旧本社は、すぐそばの京都市庁舎と同じく武田五一(名和昆虫博物館の設計も彼)の手がけたもので、いずれも昭和2年(1927)の竣工。

ここは、何となく長野まゆみ氏の『天体議会』に登場する「鉱石倶楽部」に通じる空気を感じたのですが(関連記事はこちら)、まあ近々商業施設として生まれ変わるそうなので、いずれ内部も含めてじっくり見る機会もあるでしょう。

(京都市役所)

(改装中の島津製作所旧本社)

在りし日の旧本社の表情は、以下のページで見ることができます。

■京都の島津製作所河原町別館:レトロな建物を訪ねて(by gipsypapa様)
 http://gipsypapa.exblog.jp/6600807/

(この項つづく)

コメント

_ たつき ― 2011年10月21日 23時37分19秒

玉青様
島津製作所のページ゛に行ってきました。日本最古の顕微鏡などいろいろ面白そうなので、また京都に行く機会があればぜひ記念館に行ってみます。
ところでこの島津さん島津藩とは関係なかったのですね。ノーベル賞さわぎのとき、なんとなく先進的だった島津藩と検査機器の島津製作所を重ねてみていました。
あのときどこかのキャスターがこの島津は島津藩と関係があるんだ、と言っていたのを聞いたようなような気もするのですが、気のせいだったのでしょうか。家紋と会社のマークは同じなのですけれどね。
いや、お聞きしているのではないので、聞き流して下さい。
失礼しました。

_ astray ― 2011年10月22日 00時54分36秒

> 島津さん島津藩とは関係なかったのですね

wikipedia に拠ると。。。

> 薩摩の島津義弘が、京都の伏見から帰国の途上に、
> 豊臣秀吉から与えられた播州姫路の領地に立ち寄った。
> その際、そこに住んでいた井上惣兵衛尉茂一は
> 領地の検分などの世話をした。それに対する褒美として
> “島津”の姓と“丸に十の字(くつわ)の家紋”をもらった。

となってますなあ。

個人的には、潜水艦のバッテリーを作っていた話に
興味があるのですが、GS ユアサ方面に切り離されたせいか、
関連する記述が見当たりません。

_ S.U ― 2011年10月22日 08時13分17秒

私は京都府の出身なのですが、私が高校生の時は、島津製作所は理系の生徒の最大の憧れの的の会社でした。単に将来の就職希望の人気が高い、というだけでなく、それ以上の価値が見いだされていたように思います。

_ 玉青 ― 2011年10月22日 16時43分48秒

○たつき様、astray様

おや、もうすでに問題解決のようですね。(^^)

島津姓と轡(くつわ)紋が、島津の殿様から許されたものだというのは、私もどこかで聞いた気がします。ただ、私は漠然と幕末ごろ(島津源蔵その人)のエピソードかと思っていました。改めて聞いてみると、はるか昔の秀吉の頃の話なのですね。

で、たつきさんからは「答えるに及ばず」と制止されましたが(笑)、こういうのは気になる性質なので、勝手に考証を進めます。どうぞお気になさらぬよう。

astrayさんに教えていただいたWikipediaの記述と同じ内容の文章が、島津製作所公式サイトの「沿革」ページにある「社章の由来」という項に書かれています。
http://www.shimadzu.co.jp/aboutus/company/history.html

煩をいとわず、そちらからも引用すると、

「島津源蔵の祖先は、井上惣兵衛尉茂一といい、1500年代後半に播州に住んでいました。薩摩の島津義弘公が、京都の伏見から帰国の途上に、豊臣秀吉公から新たに拝領した播州姫路の領地に立ち寄った際、 惣兵衛は、領地の検分などに誠心誠意お世話をしました。その誠意に対する感謝の印として、義弘公から“島津の姓”と“丸に十の字(くつわ)の家紋”を贈られたと伝えられています。」

…とあります。
一方、科学機器の歴史にお詳しいroyalblueさんは、同社が作成した冊子『島津製作所の歩み 科学とともに100年』(昭和51)から、以下の記述を引用されています。
http://www.geocities.jp/web_royalblue/rika/shimadzu.html

「島津製作所の創業者島津源蔵の祖先は、井上惣兵衛尉茂一といい、慶長年間には播州姫路の城主黒田孝高の家臣として明石に住んでいました。時あたかも関が原の合戦(1600年)に敗れた薩摩の島津義弘は、一族を率いて海路国元に引きあげて参る途中、薩摩灘で海難に遭い、難じゅうをきわめたという。これを見た井上惣兵衛尉は、多数の船を出して、島津一族を救い、その功によって義弘から島津の姓と丸に十の字(くつわ)の家紋を用いることを許されたといい伝えられています。」

しかし、ここでまたwikipediaを参照すると、黒田孝高(如水)は関ヶ原の合戦では徳川方にくみし、国東半島沖の豊後水道付近まで逃れてきた島津義弘その人と戦い、島津の軍船を焼き沈めています。その後も徳川と島津の和議が成立するまで、黒田勢は一貫して島津攻めに参加していました。
したがって、上の伝承はいかにも不自然で、主君と敵対する武将から贈られた姓と家紋をうやうやしく戴くなどというのは、決してありうべからざることです。

このように島津製作所が公に表明している内容自体、異説や矛盾を含んでいることは、島津姓の由来がすべて島津家の「家伝」のレベルにとどまり、詳細はすべて歴史の闇に消えているということでしょう。はっきりしているのは、初代・島津源蔵は、京都の仏具商の次男として生まれ、源蔵以前から同家では代々島津の姓を家伝(島津義弘公から下されたものだ云々)とともに私称していたということ、そして源蔵にはおそらく先祖を誇り、顕彰する意識があったということです。

まあ、よその家のことでそんなに熱くなる必要もありませんが(笑)、この件は一応上のように整理してみました。(同社はその後も新たな社史を出しているので、この辺の記述は少し変わっているかもしれません。)


○S.Uさま

島津製作所に独特のオーラがあるというのは、何となく分かるような気がします。
勝手な想像で言うと、創業者の強烈な個性、常に最先端のものに挑戦し続ける姿勢、「商品ではなく、技術を売っているのだ」という自負、そして何といっても科学に対するロマンがそこはかとなく漂っているという辺りが大きいように思いますが、いかがでしょう。

_ S.U ― 2011年10月22日 17時26分58秒

>「商品ではなく、技術を売っているのだ」という自負、そして何といっても科学に対するロマン

 思うに、高校生が感じたのはこの二つでしょうね。
 府北部の地方都市の高校生たちにまでオーラを届けた島津製作所も偉いが、それを感じ取った私の同級生たちも偉かったと、評価してやって下さい(笑)。

_ たつき ― 2011年10月22日 18時07分11秒

astrayさま、そしてもちろん玉青さま。いろいろと調べていただきありがとうございました。
「島津」という名は家伝・伝承であったとしても、やはりこの会社自体がずっと丸に十という家紋を大切にしている、ということがわかりました。
田中さんのインタヴューのときも、机には大きく丸十のマークが描かれた旗(のようなもの)が掛っていて、宣伝だけではなく、本当にみんなが自分の会社を大切に思っているのが伝わってきました。
S.Uさんが書かれている通り、科学へのロマンと技術屋(蔑称の逆の意味で使っています)としての自負をもった、いい会社なのでしょう。
そして、いつまでもそうした場所であったほしいと、科学・化学技術の暗い面が強調されるこのごろだけに、強く思います。
失礼しました。

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