まばゆい理科少年・少女たちに思ったこと2011年12月24日 14時54分46秒

今朝の新聞を開いたら、朝日新聞社主催の「第9回 高校生科学技術チャレンジ」の入賞発表の大きな記事が目に飛び込んできました。

ネットでは、以下のページで概要が読めます。
http://www.asahi.com/shimbun/jsec/2011/jsec2011/11fin_winner.html

今回、堂々と文部科学大臣賞を受賞したのは、茨城県・清真学園高校2年生の矢野更紗さん。「土壌動物相に関する研究~異なる植生・気候帯・季節を比較して~」という題目で、ササラダニ類(=吸血性のダニとは違って、落ち葉などを分解して暮らしているグループです)の分布と、その環境的要因との関係を丹念に調べた労作です。

朝日本紙を読むと、矢野さんの研究生活がこう紹介されています。

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 中学3年生から3年間、毎日、顕微鏡をのぞき続けている。土の中の小さな土壌動物を観察し、種を同定した数は4万5千個体を超える。〔…〕

 小さい頃から生き物好き。バッタやカブトムシを追いかける少女だった。自然との触れ合いの中で、環境によって生息する生物が異なることに気づいた。そこには、どんな法則性があるのか。それを明らかにしたいと思ってきた。〔…〕

 自宅のある茨城県内の草原やアカマツ林、カシ林で土を採取し、約2万6千個体の土壌動物を分離した。顕微鏡で種を同定したところ、いずれの環境でもダニ目が一番多いことがわかった。さらに、ダニ目の中でも最も多いササラダニ亜目に着目し、暖温帯に位置する茨城県と冷温帯の長野県で個体数の変化などを比較する研究に発展させた。

 助言をした筑波大の町田龍一郎教授は「ササラダニ亜目のダイナミックな生きざまを初めて明らかにした大学の修士論文レベルの研究だ。科学者に不可欠なモチベーションに支えられた忍耐力が生み出した成果だ」と話す。

 学校では弓道部に所属。厳しい練習を終えて帰宅した後、自宅のリビングで午後8時すぎから午前0持過ぎまで顕微鏡に向かう。〔…〕

 将来の夢は生物学者。「ダニ目の生きざまを追究し、深遠なる土壌動物の世界を明らかにしていきたい」

(朝日の紙面より。「孤独に忍耐強く ダニ追う」←この見出し、もうちょっと何とかならんでしょうか。)
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うーん、すごいですね。すごいなあ。
実に頼もしい気がしました。

そしてササラダニと共に「二大土壌動物群」を構成している、トビムシの研究も入賞していました。こちらは福岡県の自由ヶ丘高校3年生の福田奈緒さんと添田晃斉さんがまとめた力作、「種トビムシの総生産量推定について」です。

同じく朝日本紙の記事から。

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 土壌中に生息する節足動物トビムシ。それが摂取し、消費するエネルギー量はどれほどのものなのか。2種、50~60匹のトビムシで、脱皮量や産卵数を計測し、呼吸量なども算出して推定を試みた。

 相手は体長1~2ミリの生物だ。わずかな呼吸量を計測するために、長さ約10センチ、内径4ミリのガラス管を加熱し引き延ばした細管を用いる。手作業でまっすぐ延ばすには「熟練」の技が必要だ。1メートルのガラス管を200本以上使うほど練習を繰り返したという。

 福田奈緒さんは「1年生から3年生まで、毎日、放課後、トビムシと向き合った。授業のない土曜日は一日中、実験していた」。

 実験の結果、呼吸によるエネルギー消費は摂取エネルギーの57~62%を占め、極めて大きいことがわかった。〔…〕
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何を隠そう、私も昔から土壌動物が好きで、好きが高じて日本土壌動物学会にも入れてもらったぐらいです(希望すれば誰でも入れます)。

そんなこともあって、今回この2つの研究が特に目に付きましたが、それにしても土壌動物に熱中する高校生が、こんな風に日本各地にいるとは知りませんでした。そして、いずれも高校生離れした素晴らしい研究です。特に矢野さんは、対象の持つ魅力に惑溺(=玩物喪志)することなく、常に自らの問題意識を維持しながら研究に取り組まれてきたのは、まことに立派だと思いました。


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今日の朝日新聞は、土曜特別版の「be」にも、プラネタリウム・クリエーターの大平貴之さんの特集が載っていて、上の記事と併せて、いろいろ考えさせられました。

(↑今朝の朝日新聞、be on Saturday より。キャプションは「プラネタリウムバーにある自作の「星空」の下でグラスを傾ける=東京都港区」。)

記事によれば、大平さんは、「知りたい』じゃなくて『やってみたい』からやってきた。だから、ぼくは科学者じゃなくて技術者なんです」と自己規定されています。とはいえ、その理科少年ぶりは、かなり徹底したものです。

「基本的な生活習慣ができていない」と先生になじられながらも、8歳のころには植物栽培に熱中して「植物博士」の異名を取り、10歳で自室にプラネタリウムを完成(夜光塗料で5等星までを再現)。

小~中学時代には、プラネタリウムと並行して、ロケット作りに熱中しました。そしてロケットの本で分からない箇所があれば、東大にまで電話をかけて、執筆者の教授をつかまえて直接質問したそうです(小学生がですよ。東大の交換もよくつないでくれたものです)。その結果、中学生のときには1メール近い物を、何キロも上空に打ち上げるまでになっていたそうですから、恐るべき技術力です(高校の卒業式のときも、校門前でロケットを打ち上げて、卒業証書を取り上げられたとか)。

ロケット用の火薬を自室で調合していて爆発したり、あるいは放射性物質を含む鉱物に興味を持って、近所の医院からX線フィルムをもらってきて反応を調べたり、かなりきわどい経験もされていますが、その大平さんが41歳の現在述べられたこと。

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 みんなが、僕みたいなとんがった存在になる道を選ばなくていいと思うんです。〔…〕肩に力を入れず、自然な生き方を探せばいい。
 ただ、社会には「失敗にもっと寛容になれ」と言いたいですね。情報化が進み、リスク管理の思考が強くなっている。新しいことをやりたくても「事故につながる」「何かを失うかもしれない」と、負の面ばかり意識して、潜在的な可能性が否定されてしまう。子どもたちの発見の芽をも摘んでしまう、社会的なリスクだと思います。寛容な世だからこそ、僕のような人間も育ってくるんですよ。
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ここで述べられている内容は、わりとよく言われることだと思いますが、大平さん自身が語ると、また重みが違ってきますね。
まあ、みんながみんな「よしよし、火薬の爆発でも、放射能でも気にするな。興味の赴くままに何でもやってみろ!」とけしかけるのも危なっかしい話で、一方にはブレーキをかける人も必要だとは思います。それに「よし、何をやってもいいぞ。ただし全部自己責任でな!」というのも、ちょっと違う気がします。

たぶん大平さんが真に憂えているのは、「よし、俺が責任を取るから、何でもやってみろ」という度量の広い大人が減ったことではないでしょうか。

今の日本は、極端な責任回避型の社会になっていて、何か行動を起こす際には、予めあらゆる言い訳を考えておく(何かあっても責任を問われないよう退路を確保しておく)のが良いとされるようになっている気がします。実際、自分自身を振り返っても、その傾向がないとは言えません。しかし、これでは大事を成せないのは当然です。

冒頭の高校生の話に戻って、彼らの志にエールを送りつつ、それが今後も闊達に伸びていくためには、(自分も含め)世間の大人たちが、今一度胆力を練る必要があるのではないかと強く思いました。