天文古玩

「剥製ブーム」と聞いても私には縁もなくピンと来ず、したがってコメントすることもないのですが、ちょっと思いついたことがあるのでお尋ねします。

　今から20～30年前、おそらくバブル期の以前も以後もしばらくそうだったと思うのですが、日本の普通の家で、動物の皮を床に敷いたり、壁に鹿の首かなんかを飾るのがはやりませんでしたでしょうか。何か意味のある現象だったように思っています。毎度ながら、高尚なご考察を日常レベルに引きずり下ろしてすみません。

S.Uさま、御無沙汰をしております。

剥製について、日本でも流行った時期は確かにあったと思うのですが、その実態はよく分かりません。個人的には、日本人形のようなケースに入った剥製を見ると、無性に昭和を感じます。昭和の一時期、剥製がポピュラーだった頃の記憶が強固に刷り込まれているせいでしょう。

改めて思い起こすと、田舎の旅館の玄関とか床の間とかに、近所でとれたスズメバチの巣なんかと並べて、剥製がおかれていた映像がぼんやり浮かびます。あるいは海辺の宿だと、額に入ったイセエビの剝製とか。

バブルの頃は、土地を切り売りして儲けた都市近郊農家が、豪華な敷き皮を好んで買ったらしいですね（そういう俄か長者を相手に、郊外デパートの担当者が、いったいどういう商品構成をすればいいのか戸惑ったという話を耳にしたことがあります。）

ああいう「豪華さの記号としての剝製／敷き皮」というのは、たぶん江戸時代の「殿様の御殿」のイメージを引きずっていて、明治以降の富農層（後には一般庶民も）が、わら葺き屋根を捨てて、ことさらに豪華な瓦屋根を志向したのと軌を一にするものではありますまいか。

>日本人形のようなケースに入った剥製
　ははは。ありましたね。懐かしいです。たいてい、キジかタカだったような

>田舎の旅館の玄関とか床の間とかに、近所でとれた～剥製
　こちらは、剥製も近所でとれたタヌキだったとか

でも、バブル期のは、一応、豪奢趣味だったわけですね。土地成金と言っても、田んぼが一つ売れたくらいなのでしょうから、普通の庶民の家で別に見栄を競っているようには見えませんでした。博物趣味かと思ってしまいました。
　
　そういや、博物とは関係なく、珊瑚やサボテンや石も流行りましたね。剥製もそれと同じようなものだったのかもしれません。

珊瑚、サボテン、石、剥製。
ああ…なんだか記憶がよみがえってきました。
なんなんでしょうかね、あの日なた臭い感じは。
昭和のよき時代、と言ってしまえばそれまでですが、ああいう時代を背景に自分の理科室趣味が紡がれたのは確かです。（本棚に並んだ百科事典にも同じ匂いを感じます。あと居間のサイドボードとか。いうなれば中流主義の形象化でしょうかね。）

「昭和・戦後の博物趣味（？？）」が理科室趣味に結びついているのは確からしいですね。当時の理科図鑑や少年誌の特集記事にも、似たような日向臭さがありました。とすれば、この方面も多少追求すべきでありましょう。

　ということで、当時の大人のことを思い出して、「昭和の珊瑚、サボテン．．．」趣味を考えてみますと、二つの特徴に思い当たります。一つは、

・モノにある程度の一般的評価基準があった。

ということです。大人たちは、「これこれこういう形のものが価値が高いと言われている」、「この品種は近年注目されているものである」、という一般的に受け入れられているような基準を購入の目安にしていました。さらに、もう一点は、

・その価値が素人にもわかりやすい。

ということではなかったかと思います。これが骨董だと目の肥えた玄人でないとわかりにくいのですが、昭和の博物は素人にも良さがわかりやすいものであったようで、「これは見た目が好きふうやわ（好もしい）」などと客もいっていました。私の推測では、当時流行っていた洋画やテレビドキュメンタリーなどで、何らかの刺激が素人にも埋め込まれていたのではないかと思います。

　現在では、価値観が多様化するのみならず、多次元化した後に崩壊し、さらに、一般ウケよりも、サブカルチャー指向、付加価値指向になっています。昭和の当時は、まったく違う世界があったように思います。

　話が剥製から遠くに行ってしまいました。戻すことは困難ですが、昭和の剥製というのはそういうところにあったものではないでしょうか。

なるほど。
その後、価値の多様化とか分衆の時代とか言われるようになりましたが、あの頃は総中流化、大衆（マス）の時代の真っ最中でしたから、ご指摘の特徴はまさに時代と合致するものですね。

ときに、当時の文物が今やすっかり過去のものとなったことで、「昭和リバイバル」的嗜好が一部には生まれつつあるようです（当時の生々しい記憶を持たない人にとっては、あれらが新奇なものと感じられるのは自然ですから）。

あるいは、これは記事本編で取り上げた、海の向こうの「ヴィクトリアン・リバイバル」と似た現象なのかもしれません。絶対年代でいうとだいぶ違いますが、文化史的意味合いといいますか、剥製を飾って悦に入るという感性において、両者は共通するものがあるように思います。（あの頃、「昭和元禄」とか言ってた世相は、「昭和ヴィクトリアン」と言い換え可能かもしれません。）

>昭和リバイバル
　昭和について考える機会ができることは私にはうれしいことです。でも、現代の若い人に昭和的博物趣味が見直されたとしても、おそらくそれはサブカルチャー的なものにとどまることでしょう。

　それで、昭和の剥製趣味が真に「マス」的だったか思いだそうとしているのですが、

「これが、ミッちゃんが最近買うたちうタカの剥製かや。えらい痩せとるのう。わしのはもっと肥えて頭の毛もたっとるぞ」　
「よしさん、これはタカやのうてハヤブサやで、痩せとんが良いんじゃ」

というような会話が、地方のご近所でなされていたか、私にはついぞ記憶にありません。

あはは。
まあそこまでマスだったわけでもないでしょうが、昨日コメントをいただいたnuさんのように「来客があると剥製を隠す」というほど、後ろ暗い存在でなかったのは確かですね。
そもそも床の間に飾る時点で、相当「晴れがましい存在」と認知されていたのでしょう。