科博の形は飛行機の形?…言わずもがなの補遺2012年03月19日 06時00分50秒

最近、過去記事にコメントをいただき(Soraさま、ありがとうございました)、「上野の国立科学博物館旧本館(現日本館)は飛行機の形をしている」という話題に再び関心が向きました。

「科博は『飛行機の形』をしている。」
これは100%正しい陳述です。実際、上から見ると「飛行機の形」をしていますから。

(グーグルマップより)

ただ、ここで注意を要するのは、「飛行機の形」と「飛行機を模した形」は似て非なるものだという点です。あえて尾籠な例を挙げると、隅田河畔のアサヒビール社屋のオブジェは「排せつ物の形」をしていますが、「排泄物を模した形」をしているわけではありません(あれは炎を模しているらしいですね)。

しかし、改めてネット上に流布している情報を拾い読みすると、判でついたように「当時最先端の科学技術の象徴である飛行機の形を採用した」と紹介されているので、ちょっと心に影が差しました。

これは、科博の公式サイト自身が「日本館を上空から見ますと、建築された当時(昭和5年)の最先端の科学技術の象徴である飛行機の形をしております」と書いているので(http://www.kahaku.go.jp/news/2007/0417open/info.html)、当然といえば当然です。しかし、この点については十分な留意が必要で、科博の記述はいささか不用意に過ぎると思います。

底堅い事実は、『国立科学博物館本館改修工事報告書』(平成19年)が述べているように、

「本館の設計は、当初から飛行機型の平面をしていたのではなく、設計の途中で飛行機型平面に変更されている。当時の最先端技術の象徴である飛行機型を採用したとも言われているが、正確な理由は不明である。」(p.17)

ということに尽きます。これが、徐々に

「正確な理由は不明であるが、当時の最先端技術の象徴である飛行機型を採用したと言われている」
   ↓
「当時の最先端技術の象徴である飛行機型を採用した」

というふうに省略・変形されて世上に流布しているのだと思いますが、これこそ「歴史的事実」というものが、いかにして人々によって構成され、共有されていくかを示す生きた実例で、その過程自体、大変興味深く感じられます。

「当時の最先端技術の象徴である飛行機型を採用云々」という説は、確かにそういう口承もあるので、都市伝説とまで言うと言いすぎですが、しかし「Aだとも言われている」のと「Aだ」の違いには、やはり敏感であるべきではないか…と思います。


【参考記事】
○科博の形は飛行機の形?
 http://mononoke.asablo.jp/blog/2010/10/04/5383306
○科博の形は飛行機の形? アンサー編
 http://mononoke.asablo.jp/blog/2010/10/14/5413688
○科博の形は飛行機の形? ファイナルアンサー編
 http://mononoke.asablo.jp/blog/2010/11/05/5473162