アンティーク星図の話アゲイン2012年10月30日 22時37分22秒

記事が中断する以前、アンティーク星図の話をしていました。が、「今度は古星図の彩色について書く」と予告したところで記事が途切れていたので、改めてそのことについて書こうと思います。

今回の記事を書くにあたっては、以前ご紹介した、Nick Kanas 氏の『STAR MAPS』に加え、Kevin Brown 氏の以下のページも大いに参照しました。

Geographicus Antique Map Blog : Is my Antique Map Authentic?
 

以下、私なりに咀嚼して述べます。

   ★

古星図の彩色については、版元が彩色した上で販売した「純度100%」の正統な彩色も少数ながら存在します。しかし、多くの場合は、彩色なしで出版された絵図に、いずれかの時点で、誰かが色付けしたものが、現在商品として出回っているわけです。
後者については、それこそピンからキリまで千差万別です。

たとえば出版直後に、購入者がプロの彩色職人に色付けをさせたものは、限りなく「純度100%」に近い扱いを受けます。あるいは購入者自らが色を塗ったものもあって、この場合は、彩色の年代は星図そのものと同じぐらい古く、時代は十分ですが、所詮は素人の手わざですから、その巧拙はさまざまです。中には「子どもの塗り絵」レベルの粗雑なものもあるようです。

星図の彩色は、それが出版されてから現代に至るまでのどの段階でも起こり得ます。
現代の業者が、利益を大きくするために、モノクロ図に彩色を施すこともしょっちゅうです。

ただ、古星図(古地図)が他のアンティークと違うのは、こういう「現代における彩色」が、商品の評価にマイナスに働かないことです。普通のアンティークであれば、日本でも、欧米でも、原状に何か手が加わっていると、それは「瑕疵」として表記されるのが普通だと思います(たとえ「professionally repaired」とか「neatly repaired」と書かれていても、“直し”それ自体は、マイナス要素であることに変わりはありません)。

しかし、古星図の場合は、たとえ現代の彩色であっても、それが巧みになされている限り、「偽物」扱いされることなく、むしろ商品の価値を高めるものと考えられているのが特徴です。したがって、業者も何らやましさを感じることなく、堂々と「Later colored」と表記しています。

このことは、真贋に潔癖な日本人からすると、ちょっと理解しにくい点だと思います。私も最初、こういう現代の彩色品を、フェイクまがいのあざとい品のように感じていました。しかし、実際はそうではなくて、古地図ディーラーである上記 Kevin Brown 氏も、「巧みな彩色は、たとえそれがごく最近になされたものだとしても、ほぼ常に地図の価値を高める」とハッキリ書いています。

で、私が腕組みをした末に思いついたのは、古星図の彩色は、たぶん日本の骨董に例えると、「表具」に近い感覚ではないかということです。たとえば仏画なんかだと、時代のついたウブな表具が好まれたりということはあるにせよ、一般にはボロボロの表具よりは、きちんと表装し直されているほうが、市場で高く評価されるのと似たような現象だろうと思います。…とすると、彩色なしの昔の星図は、いわば「マクリ」(表装されてない書画)のようなものでしょうか。

まあ、この説の当否はともかく、彩色の時代については(少なくとも欧米の価値基準に従う限り)あまり気にしなくてもよく、純粋にその巧拙のみに注目すればよい、ということのようです。(でも、個人的には現代の彩色はやはり一寸どうかと思います。)

   ★

ところで、Kanas氏とBrown氏が等しく言及しているのが、古い時代の彩色に特徴的な、紙の「焼け」の問題です。特に、緑色の彩色部分だけが選択的に焼ける現象については、私もずいぶん驚いたので、次回実例を挙げて見てみます。

(この項つづく)

コメント

_ たつき ― 2012年11月01日 12時16分12秒

玉青様
いつもいろいろと参考になるエッセイをありがとうございます。おかげで天文音痴の私も、星界に漂っている気分がします。
さて、話は違うのですが、先日夜空を見上げましたましたら、。赤くて大きな星を見つけました。飛行機でもUFOでもなかったので、あれは火星だったと思われます。今年は接近する年だったのですね。私はあまり夜は出掛けないので、始めて気付くことができました。赤く輝く星はとてもうつくしく、しは。しばらく見入っておりました。
それと、玉青さんの分野とは少しずれますが、銅製の蒸留機(錬金術師が使っていた、鶴のようなノズルがついたもの)が届きました。昨日頼んで今日来るなんて、ありがたいです。ずっと欲しくて探していたものですから。
スペインかどこかの小さな工房で、親子で財産を食いつぶすように細々と作っているのだそうです。私のようなオタクのためにも頑張れ、と心のなかて゛声援を送りました。
商品はピカピカの銅製でフォルムも如何にもアラビアという感じで、実に満足です。これで私も一人前の錬金術師ですな。(某鋼の錬金術師とは関係ないので、ねんのため)
それでは、お付き合いありがとうございました。

_ 玉青 ― 2012年11月02日 06時08分08秒

半月ほど前、西の空では火星とアンタレスという「二大赤い星」の競演があったそうですね。最近は地上のことに縛り付けられて、どうも私自身空を見上げる機会が乏しくなってしまっているんですが、なんとか早く「星界復帰」を果たしたいです。

>銅製の蒸留機

おお、これはまさに錬金術師の部屋を彷彿とさせますね。
夜の長い季節、どうぞよき錬成を!

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