天体議会の世界…「南へ」(1) ― 2013年07月21日 11時54分46秒
(『天体議会』文庫版・目次)
『天体議会』の世界に、モノを通じて分け入る、この企画。
基本的にストーリーの順を追って眺めることにします。(以下、引用はすべて文庫版より。〔 〕内は原文ルビ。一部のルビは省略。)
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白鳥〔シグナス〕が天河〔てんが〕を翔ける九月の第一月曜日、うんざりするほど暑い地下鉄の大混雑で夏の休暇が明けた。(p.7)
…という名調子で始まる第1章、「鉱石倶楽部」。
主人公である二人の少年、銅貨と水蓮(ともに13歳)が、久しぶりに地下鉄のプラットホームで再会する場面から物語は幕を開けます。
ホームで水蓮を待つ銅貨がぼんやり考えるのが、父の赴任先である「南」の情景。
南の海域に浮かぶ小さな島で、父はラヂオ・ゾンデを飛ばして記録を取ったり、観測用の飛行船を操作する気象台の仕事をしている。もともとは銅貨の住む都市〔シテ〕の海洋気象台で同様の仕事をしていたのだ。(p.10)
(気象モチーフによるインスタレーション。「日本気象協会版・ラジオ用天気図用紙(初級用)」、1939年発行のチョコカード(気象観測シリーズ)、昔の鉱石ラジオ用ヘッドフォン)
銅貨は南〔1字傍点〕という地域に好奇心を覚え、あれこれと想像してみることがあった。都市〔シテ〕とは随分違うだろう。一年に一度、休暇で戻る父の話では、自動車〔ミシュリン〕など殆ど使わず、蝶凧〔パピイ〕と呼ばれる乗り物で島じゅうを移動するそうだ。蝶型の翅を持ち、地面すれすれの低空を飛ぶらしい。自分の翅で飛んでいるようで、さぞ気持ちいいだろう。澄明で目の醒める碧霄〔へきしょう〕、翠色〔すいしょく〕の水平線。温〔ぬる〕んだ空気。まだ見ぬ光景を思いながら、溜め息をついた。(p.10)
(大きいのは1920年代に出たリービッヒカードの「雲シリーズ」より。
参照: http://mononoke.asablo.jp/blog/2009/08/15/4515029。
小さいのは1950年発行のチョコカードで、これも12枚セットの雲シリーズ)
参照: http://mononoke.asablo.jp/blog/2009/08/15/4515029。
小さいのは1950年発行のチョコカードで、これも12枚セットの雲シリーズ)
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「南」というのは、この作品を読み解くキーワードの1つになっていて、少年たちは「南」の世界に憧憬を、ときには銅貨の兄である藍生(あおい)のように反発を感じながらも、「いつか南へ」という思いを共有しています。この作品において「南」は、「大人の世界」を象徴しているのではないか…という人もいます。あるいはそうなのかもしれません。
(この項つづく)
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