黄金のウラニア2020年07月08日 06時58分37秒

さて、これも残欠といえば残欠ですが、可愛いウラニアの像を見つけました。

(ペンは大きさの比較用。全体の高さは約11.5cm)

独立した像ではなくて、元は建物の「釘隠し(cache clou)」に使われていたものです。時代は19世紀初頭、仏・トゥールーズから届きました。

建築材に打ち付けた釘の頭を無粋と見て、その上を覆い隠す飾り金具が「釘隠し」で、日本でも、伝統建築にいろいろ面白い意匠の釘隠しが取り付けられていますが、フランスでも事情は同じらしく、「cache clou」で検索すると、いろいろ面白いデザインのものが見つかります。


右手に持ったデバイダ、左手でもたれかかった天球儀が、天文学のミューズであるウラニアのシンボル。


頭上に星の冠をいただき、その視線ははるかな天に向かいます。(鼻がちょっとつぶれてしまったのが惜しまれます。)


裏面はこんな感じで、型を使った薄肉の鋳物仕上げ。真鍮色をしていますが、素材は青銅のようです(真鍮は銅と亜鉛、青銅(ブロンズ)は銅と錫の合金で、鋳造に向くのは後者)。

   ★

それにしても、このウラニア像で飾られた部屋は、どんな部屋だったんでしょうね。
そこには、何かしらの寓意と機智が働いていた気がします。

天文家や占星術師がこもって沈思した小部屋でしょうか。
それとも、ウラニアのみならず、音楽や詩を司る他のミューズたちがずらり居並ぶ、華麗なライブラリーでしょうか。

そんな風に想像のふくらむところが、残欠趣味の楽しさです。


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【余滴】

雨続く。九州から中部にかけて広く警戒を要すとの報あり―。

熊本では、頑丈な鉄橋までも流されるニュース映像を見て、衝撃を受けました。そこから、子どもの頃に読んでもらった「大工と鬼六」の話を思い出し、あの話の背景を知りたいと思いました。

検索したら、あれはもともと岩手県の民話だという説もありましたが、それと同時に、「いや、あれは大正時代に、ある童話作家が、北欧民話を翻案して発表したのが元だ」という説明を目にして、本当に驚きました。そして、どうやらそっちの方が本当らしいです。この件は、わりと有名らしくて、ネット上でも言及する人が大勢いますが、管見の範囲では、以下の論文がもっとも詳細に跡付けていました。

■桜井美紀、「大工と鬼六」の出自をめぐって
 「口承文芸研究」第11号(1988)掲載