元旦地震2024年01月02日 12時09分59秒

御屠蘇気分で呑気なことを書いたら、そのすぐ後に地震が襲ってきました。
時の経過とともに被害の様子が明らかとなり、大変な年明けとなりました。
まずもって被害に遭われた方々にお見舞いを申し上げます。

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ことわざに「一年の計は元旦にあり」と言いますが、それはもっぱら人間のふるまいについて言うことであって、地震は人間の都合なぞ顧みることなく、まさに時知らず…と書きかけて、「ちょっと待てよ」と思いました。何か以前、それについて話題にした気がしたからです。

過去記事をさかのぼると、それは2017年のことでした。


■海洋気象台、地震に立ち向かう(その3)

上の過去記事は、1923年の関東大震災の際、神戸海洋気象台のスタッフが実地踏査も踏まえてまとめた以下の報文について、前後3回にわたって紹介したものです。


■K. Suda:  On the Great Japansese Earthquake of September 1st, 1923.
 (須田皖次、『1923年9月1日の日本大震災について』)

拙文を引くと、記事中以下の文章が出てきます。

「著者の須田は、さらに地震の成因論についても筆を進め、それを主要な(principal)要因と、副次的・偶発的な(occasional)要因に分けて論じています。

前者については、地下での歪みの段階的蓄積と、それが相対的に弱い部位で解放されるという、地震の基礎的な理解に関わるもので、最初に掲げた地質図を議論の足掛かりとしています。

後者は、地震の直接的な「引き金」となる要因に関する所論で、地磁気や他の天体の影響、あるいは潮位や気圧の変化に言及していますが、いかにも気象台らしく、特に最後の2つ、すなわち潮位変化と気圧変化については、データを元に詳しい検討を加えています。(天体の影響が気になりますが、それについては、同時代の寺田寅彦が太陽活動と地震の関係について論じている事実に触れている程度です。)」

ここに季節や暦のことは出てきませんが、気圧という気象条件の変化が、地震の引き金になりうるのでは…という当時(大正時代)の考えが顔をのぞかせています。これは一種の検証仮説で、一つの地震のデータから何か結論めいたことが言えるわけではないでしょうが、こうした仮説がその後どうなったかが気になりました。

   ★

手元で検索すると、すぐに以下の論文が見つかりました。

■岡田 正実
 日本付近の大地震発生の季節変動と地域性
 地震(第2輯)35 巻(1982)1 号、pp.53-64.

岡田氏は当時気象庁海洋課勤務で、のちに同庁地磁気観測所長を務められた方です。これとても40年以上前に発表されたものですから、現在の地震学のスタンダードに照らしてどうなのか、門外漢には不明ですが、プレートテクトニクス理論に基づく新しい地震学を背景にした比較的近時の論として、その知見に耳を傾けてみます。

それによると、過去の地震のデータから、地震には確かに季節変動性が認められる…というのが、岡田氏の結論です。ただし、その様相は単純ではありません。そこには明瞭な地域差があって、内陸部では春~夏に多く、太平洋側では北海道~三陸沖の親潮域では春に、そして宮城県沖~南海道の黒潮域では秋~冬に多い傾向が認められるといいます。

そうした変動の原因として、内陸部では、降水や融雪による地下水の増加が、断層部の摩擦力低下を生み、それが地震発生の引き金として作用している可能性があり、また海底で発生する地震に関しては、大陸プレートと海洋プレートの荷重変動がその主因であり、そこに最も影響するものとして、潮位低下や陸水減少による大陸プレートへの荷重減少を岡田氏は推測しています(この場合も摩擦力の減少――ここではプレート間の摩擦力の減少――が、地震の直接の引き金となるわけです)。

後段のメカニズムに関する部分は、もちろん推測の域を出ないにしろ、前段の季節的変動の存在の指摘は、過去のデータが物語る事実ですから、地震は決して「時知らず」ではなく、時を心得ていることになるのでしょう。

なお、岡田論文では、能登半島周辺、あるいはさらに広く日本海側の地震については、データが少ないことから分析・言及の対象にしていません。能登半島はもともと地震の少ない土地と思われていた気配がありますが、1993年の能登半島沖地震以降、大きな地震が立て続けに襲ったことで、地震好発地のイメージに転じた感があります。

 能登半島沖地震 1993年2月7日
 能登半島地震 2007年3月25日
 令和5年奥能登地震 2023年5月5日
 令和6年能登半島地震 2024年1月1日

こうしてみると同地域の最近の地震は、なんとなく冬~春に多いように見えますが、そこに何か理由があるのかどうか、素人がウロンな妄説を唱えるのはよろしくないので、ここは専門家の考証を待ちたいと思います。

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地震ありし 海のしきりに 稲妻す  原田杉花

コメント

_ S.U ― 2024年01月02日 16時32分01秒

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 元日から大地震が発生しますと、末法思想的な感じがしますが、自然は人の都合関係無しですね。こういうときは、人間は、自然の影響に流されるままであるのが辛いところです。

 最近よく聞くのは、「地震と月齢の関係」のように思います。引用はしませんが、潮汐力云々の理屈はともかく、統計を取ってみると、どこかの月齢に偏る傾向が出る場合が多いようです。ただ、それを有意とみるかどうかには、モデルによる統計評価の流儀がはいりまして、必ずしも明瞭な結論がでるわけではないようです。

_ 玉青 ― 2024年01月06日 17時04分13秒

昨今の世上を見るに、まこと方丈記の世界を目の当たりにする思いがします。

地震は地殻(深部ないし表面の岩層)の歪みの蓄積と解放ですから、その<原因>は地殻の動きそのものに求めるべきでしょうが、「ラクダの背を折る最後のひと藁」にたとえられる<引き金>の方は、いろいろ多様なものがありえますよね。上で話題にした季節に応じた水の動態変化もそうですし、潮汐力の影響も必ずやあることでしょう。ただ、仮にそうしたものがなくても、地殻の動きが止まらない限り早晩地震は起こるので、あまり過大な意味づけはできないかなあという気もします。

ともあれ月と地震の関係も気にしつつ、今は月を見上げて、同じ月を見ているであろう被災地の方々に思いをはせたいと思います。

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